
感謝の言葉をファンキーという音のキスに代えて。
2015年3月にリリースしたアルバム『L.O.K』(Lots Of Kisses)を引っ提げて、4月からスタートした全国41本を数えるツアー〈TOSHINOBU KUBOTA CONCERT TOUR 2015“L.O.K”〉の折り返し手前となる東京・NHKホール公演の二日目を観賞。来年で30周年を迎えるという久保田利伸だが、アルバムの裏テーマである“感謝”をステージにも携えて、ファンキーという“ありがとう”の雨を観客席の至るところに降らせていた。観賞は2013年10月の東京国際フォーラム公演以来、約1年半ぶり。ちなみに、これまでの観賞記事は次のとおり。
・2006/07/30 久保田利伸@代々木第一
・2010/06/26 久保田利伸@NHKホール
・2010/07/28 久保田利伸@東京国際フォーラム
・2010/07/29 久保田利伸@東京国際フォーラム(2)
・2011/11/17 久保田利伸@NHKホール(1)
・2011/11/18 久保田利伸@NHKホール
・2012/01/22 久保田利伸@代々木第一
・2013/10/31 久保田利伸@東京国際フォーラム
開演時間になると、大きく“L.O.K”と描かれたターンテーブル台にDJ大自然が登場。「ラッパーズ・デライト」「ザッツ・ザ・ジョイント」などのヒップホップ・クラシックスから「ナイト・トゥ・リメンバー」(おそらくSoweluやBIG-Oらを迎えたYAKKOの曲)、「ゲット・ラッキー」「アップタウン・ファンク」まで、新旧のキラー・チューンをプレイして会場を温めると、開演時間10分過ぎた頃に暗転。ステージ後方の高台中央を注視すると、後ろ向きのまま大きな椅子に座った久保田利伸がせりあがって登場。すると、椅子が回転して本日の主役が満を持して顔を見せるというニクイ演出からファンキーなステージが幕を開けた。

バンド・メンバーはGAKUSHI、DJ大自然らが新たに参加。ドラムのラルフ・ロールはシック(ナイル・ロジャース)のライヴを断って、久保田のツアーを選んだのだそう。盟友・柿崎洋一郎以下、すでに信頼が築けているため、ヴォーカルとバンドとの相性には何ら不安もなく、絶妙なコンビネーションで演奏を展開していく。
アルバム『L.O.K』を引っ提げてのツアーゆえ、同作からの演奏が多いが、「GIVE YOUR MY LOVE」や「To the Limit」(アルバム『Neptune』収録)などの懐かしい曲も組み込んでいた。MCでは懐かしい曲とそのエピソードを披露。「GIVE YOUR MY LOVE」は本人も出演したバャリースCMソングだったのだが、自分以前はチンパンジーがCMに出演していたとか、ハリウッド版『シャル・ウィ・ダンス?』日本語吹替版テーマ・ソングの「a Love Story」はニューヨークを歩いている僅かな時間で大体のメロディが出来上がったとか、楽曲にまつわるエピソードをコミカルにトーク。話の流れでドラマ主題歌「You were mine」をアコースティック(ボサ・ノヴァ)テイストで伴奏させておきながら、五輪真弓「恋人よ」や八神純子「水色の雨」を歌い出すボケを披露したりと、観客を楽しませようとする心意気が大きな笑いを誘っていた。
近年では中盤あたりにスロー・ジャムやアダルトなバラードを配置することが多くなってきたとのことで、今回も「Squeeze U」「Between The Sheets」でダンサーとの絡みも含めた演出を。公演当初から次第にダンサーとの距離が近づいてきているが、その絡みが今後どうなるのかはエモーション次第と笑いを誘いながら、それもR&Bの一面と説いていく。もちろんそこもR&Bやブラック・ミュージックの醍醐味ではあるが、欲を言えば、「Da Slow Jam」、「Missing」、「Squeeze U」、「a Love Story」と4回ほどミディアム~スロー曲がその直前までのアッパーなテンションをスローダウンさせるので、もう少しそのアップダウンの回数を減らすと(そのミディアム~スロー曲になると多くの観客が座ることもあり)よりスムーズな展開になるのかと思う。このあたりはツアー後半やその後の代々木公演で変化してくるだろうが。
また、中盤でのコーラス隊によるは単なる衣装チェンジの時間を使った余興という体裁ではまったくなく、バック・コーラスというにはおこがましいほどの熱量で観客を飽きさせない。それもグラミーにノミネートされたタイ・スティーヴンスをはじめ、旧知のYURI、そして自身の耳目で見つけてきたニッキーという信頼たるシンガーだからこそ、安心してその時間を任せることが出来るのだろう。スピナーズ、ランディ・クロフォード、チャカ・カーンの名曲カヴァーだったが、それぞれが自分の歌として咀嚼しているため、すんなりと聴けるのも大きい。

それにしても、ファンキー・ピープルとはよく言ったもので、彼がその言葉を投げかける以前から会場が期待と興奮で一体化。その姿は、久保田自身が「自慢のお客さん」と語るにふさわしいファンキー・ピープルぶりだ。コール&レスポンスも含めて、長年久保田の音楽を愛してきたファンはもちろん、初めて生で接する観客たちにも音楽の楽しさや素晴らしさを伝えるべく、感謝と愛がそこここに感じられるヴァイブスが痛快だ。圧倒的にクールでキメるというのではなく、笑いやそれぞれの個性を尊重しながらも“ファンキー”というグルーヴで繋がりを作っていくスタイルは、彼ならではのもの。そこに信じられるものを長い経験の中で感じてきたゆえのスタイルは彼なりの美学であり、ファンや支えてくれた人たちへの感謝を表わすのに最も有効な手段だと考えた結果なのだろう。それが何よりもクールだ。
終盤は『L.O.K』のリード曲ともいえる「Bring me up!」から定番の「LA・LA・LA LOVE SONG」「Oh, What a night!」で締め。アンコールはダンサーによる傘を採り入れたパフォーマンスもキュートで、「LA・LA・LA LOVE SONG」の後を継ぎそうな「LOVE RAIN~恋の雨~」(これも“月9”ドラマ主題歌)。何度も聴いている曲だが、マンネリを感じないのはその瞬間ごとに異なる熱が生まれているからこそ。また、ステージ構成に定番を含めるというのは、究極のマンネリを求めたドリフを愛する久保田ゆえの信念なのかもしれない。
なによりも日本にR&Bが根付いていない時代から、ポップというフィルターを通しながらも日本でR&Bやファンクをやり続けている事実、ホール一杯に観客が集っているという事実が、久保田利伸の音楽を証明しているに他ならない。これから後半戦へ突入し、さらに熟度が増すことが予想される。まだ生の久保田を経験せず迷っているなら、気軽にその空間に飛び込んでみて欲しい。日本のライヴにおける最高峰のライヴ・ステージにきっと魅了され、ファンキー・ピープルの一員と化すはずだ。

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<SET LIST>
00 L.O.K(Introduction)(*)
01 Cosmic Ride(*)
02 GIVE YOUR MY LOVE
03 Da Slow Jam(*)
04 To the Limit
05 Upside Down(*)
06 Free Style(*)
07 Missing
08 It's a shame(Ty Stephens)(The Spinners Cover)
09 Street Life(Nikki)(Randy Crawford Cover)
10 I'm every woman(YURI)(Chaka Khan Cover)
11 Loving Power(*)
12 Squeeze U(*)
13 Between The Sheets
14 永遠の翼
15 a Love Story
16 Bring me up!(*)
17 LA・LA・LA LOVE SONG
18 Oh, What a night!
≪ENCORE≫
19 LOVE RAIN~恋の雨~
(*)song from album『L.O.K』
<MEMBER>
久保田利伸(vo)
柿崎洋一郎(key)
Ralph Roll(ds)
森多聞(b)
オオニシ ユウスケ(g)
GAKUSHI(key)
DJ大自然(turntable)
Ty Stephens(cho/vo)
Nikki(cho/vo)
YURI(cho/vo)
Ricky(dancer)
Kanako Fujita(dancer)
Shanti(dancer)
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