*** june typhoon tokyo ***

脇田もなり@下北沢BASEMENTBar




 シンガーとしてのさらなる貪欲も芽生えた、成長を得るためのチャレンジ期へ突入。

 シンガー・脇田もなりがバンド・スタイルで展開する企画ライヴ〈Up and Coming〉に、Especia時代から交流のあるシンガー・ソングライターのUKOをゲストに招いて開催。この1月28日の誕生日記念ライヴ〈Up and Coming 脇田もなりBirthday Live〉(その時の記事はこちら→「脇田もなり@下北沢BASEMENTBAR」)と同様、会場となった下北沢BASEMENTBarには、雪や冷たい雨が降り寒さも増すなかで、脇田もなりの成長ぶりを目に焼き付けたいと願うファンたちが集った。

 この日のトピックは何といっても「ペパーミント・レインボー」「やさしい嘘」の新曲2曲を初披露したこと。彼女が愛してやまないYUKIの「JOY」のカヴァーの後でおもむろに始まった「ペパーミント・レインボー」は、これまでとはやや異なる歌い口に聴こえたのとカヴァー曲の流れだったこともあって、続けて誰かのカヴァー曲を歌い出したのかと一瞬頭を過ぎったのだが、実はこれが新曲の一つだった。
 ソロ・デビュー曲「IN THE CITY」を皮切りに、キャッチーで快活な曲調が多くを占めていた彼女だが、ここに来て(先日誕生日を迎え、自身の成長への意識を一層深めさせるためなのかは解からないが)ほんのり“淑女”を感じさせるところへも足を踏み出したか。98年頃から起こった“ジャパニーズR&Bディーヴァ”ムーヴメントで、J-POPから“R&B”への接近と称して洋楽(主にUSコンテンポラリー)へアプローチしたという体(てい)でさまざまな作風のJ-R&B(当時は“アーランビー”と揶揄する人もいたように、実際はR&Bとは程遠い楽曲もそのムーヴメントにひとくくりされていたけれど)が作られたが、その90年代末頃のJ-R&Bあたりやシティポップ~AORとの親和性の高いサウンドにも近づいた作風は、彼女にとっての新たなチャレンジ。バンド・スタイルでの初披露ということで、今後綿密にヴォーカルワークを詰めていくことになるだろうが、そこまで即効性のノリの要素が強くない楽曲を投下してきたのは、彼女のヴォーカルの表現力の幅と奥行きを広げるべきタイミングと判断してのことかもしれない。

 もう一つの新曲「やさしい嘘」は、エモーションズのダンス・クラシックス「ベスト・オブ・マイ・ラヴ」マナーと言ってもいい、陽気なグルーヴとディスコ・ビートによるミディアム・ディスコ・ソウルを素地に、都会的なポップネスをまぶしたスタイリッシュなシティ・ソウル作風。強烈なインパクトはないが、ジワジワと浸透していきそうな静かな中毒性を持っていて、こちらも“ニューもなり”を抽出させる契機になりそうだ。アンコールではこの「やさしい嘘」からドラムパートで「TAKE IT LUCKY!!!!」へと橋渡ししたが、どちらもこの日のゲスト、UKOが手掛けているということでデュエットを披露。「TAKE IT LUCKY!!!!」は“ジャスミンの香りも伝ってくるサマーブリーズを感じる曲風”という表現が的を射ているかは分からないが、爽やかなグルーヴが夏に似合うのは確かだ。



 この日は2マンライヴゆえ最初から“飛ばしていく”セットリストで臨んだとのことで、「祈りの言葉」以外は“聴かせる”系の楽曲はなし。振り返ってみると、ライヴでは終盤や本編ラスト、アンコールなどでよく歌われる定番キラー・チューン「Boy Friend」が本ステージでは演奏されず。コール&レスポンスも多いこの曲を楽しみにしていたファンにとっては残念だったと思うが、考え方を変えてみれば、「Boy Friend」がリストに組み込まれずともライヴの楽曲が充実してきたと言い換えることもできる。そして、これまで(自分が嗜好する)黒さやグルーヴを重心とするというよりも、ダンサブルなポップネスに重きを寄せたキャッチーな楽曲が多い印象だったのだが、上述の新曲群の登場でファンクネスを含有しながら軽やかなグルーヴを満たす曲をレパートリーに組み込んできた彼女。元来有するパンチのあるエナジー溢れる声色とヴォーカルワークの振り幅を広げる楽曲とによる組み合わせで相乗効果が働き、楽曲に対して最適解でアジャストする表現力も身に付ける糸口にもなりそうな展開は嬉しく、頼もしい限り。バンドとの相性もよく、脇田もなりバンドとしての一体感も増している様子だ。惜しむらくは、歌いきれなかった箇所(歌詞忘れ?)が散見されたところだが、それも終始いいムードを演出したステージ全体で見れば、取るに足らないことだろう。



 ソロ始動から1周年までが助走期だと仮定すると、安定維持からさまざまな要素を吸収する挑戦・応用期に入ろうとしているのが、今なのかもしれない。楽曲自体はアルバム1枚+α程度だったが、今後はその数も増えてステージのヴァリエーションもより豊富になりそうだ。そして、大切なのが脇田もなりの存在をいかに知ってもらうかということ。そのタイミングを常に見計らいながら、パフォーマンスの質と彼女の最大の魅力であるヴォーカルに磨きをかけて、次へのステップを軽やかに昇っていってもらいたい。


◇◇◇
<SET LIST>
00 INTRODUCTION
01 Cloudless Night
02 IN THE CITY
03 I'm with you
04 泣き虫レボリューション
05 赤いスカート
06 祈りの言葉
07 JOY(Original by YUKI)
08 ペパーミント・レインボー(New Song)
09 EST! EST!! EST!!!
10 LED
11 IRONY
12 WINGSCAPE
≪ENCORE≫
13 やさしい嘘(New Song)~ TAKE IT LUCKY!!!!(guest with UKO)

<MEMBER>
脇田もなり(vo)

しまだん(Healthy Dynamite Club)(g)
越智俊介(Shunské G & The Peas / CICADA)(b)
KAYO-CHAAAN(Healthy Dynemite Club)(key)
山下賢(Mop of Head / Alaska Jam)(ds)

guest:UKO(vo)

◇◇◇

【脇田もなりに関する記事】

・2016/09/23 星野みちるの黄昏流星群Vol.5@代官山UNIT
・2017/06/20 脇田もなり@HMV record shop 新宿ALTA【インストア】
・2017/07/28 脇田もなり@タワーレコード錦糸町【インストア】
・2017/09/08 脇田もなり@clubasia
・2017/11/25 脇田もなり@HMV record shop 新宿ALTA【インストア】
・2017/12/15 脇田もなり@六本木VARIT.
・2018/01/28 脇田もなり@下北沢BASEMENTBar
・2018/03/21 脇田もなり@下北沢BASEMENTBar(本記事)

◇◇◇


























◇◇◇

 脇田もなり企画ライヴ〈Up and Coming〉のゲストには、金髪ヘアが目を引くシンガー・ソングライター/コンポーザーのUKOをセッティング。脇田もなりがまだ10代でEspeciaのメンバーとしてグループ活動をしていた頃からの付き合いで、Especia「きらめきシーサイド」「Boogie Aroma」などの作詞やライヴではコーラスの一人としても参加していた彼女。ステージで脇田もなりが「UKO先生」と言っていたように、Especiaとして発表する楽曲の“仮歌入れ”音源の声の主でもあったそうで、師匠と弟子、先生と生徒といった関わりだったのが、時を経てソロシンガー同士で同じステージに立つというのは、感慨深いものだろう。

 UKOのソロシンガーとしてのステージは二回目。以前は2017年4月に六本木Varit.で開催されたレーベル〈para de casa〉のイヴェント〈para de casa 4th anniv × Roppongi Varit 1st anniv party!!!〉(その時の記事はこちら→「Parade!@六本木Varit.」)で観賞したが、印象は前回と変わらず、中低音の声域を軸にディスコやファンクなどの要素をまぶしたスタイリッシュなグルーヴが心を躍らせるライトなソウル・ポップ作風。前回の記事では「個人的にリミックス・アプローチを増やしてクラブ・ヒットを狙うと面白い」と記していたが、ソウル・シンガーの特色の暑苦しさにどっぷりと浸り過ぎない、フットワークの軽いヴォーカルワークとハウスやダンサブルな楽曲はきっと相性がいいはずという思いは揺らがず。ライトなファンクやブギーをはじめ、シティポップというよりニューミュージックやボッサなどの影がちらつく曲調に見合った、主張が激しく濃いヴォーカルとは対照的なスタイルは、グルーヴの伝達性を高めながらスッと耳や身体に浸透していく不思議な声色。人懐っこさとアーバンの中間を行くようなムードが心地良い。



 開演時刻を5分ほど過ぎたところでUKOとバンドメンバーがステージイン。冒頭の「Signal」からアルバム『Saturday boogie holiday』の楽曲を中心に、初披露のスローダウンなバラードの新曲を加えてのステージ。演奏や歌唱から土岐麻子、一十三十一、安藤裕子、BONNIE PINKなどの女性シンガー・ソングライターの佇まいやICEのスウィートでソウルフルなポップ・ロックまでさまざまな音の表情が脳裏を過ぎったが、ベースの玉木正太郎は土岐麻子のバンドにも参加しているとのことでなるほど、と合点。誰かに似ているようだけど似ていない、いいところ取りともまた違う、良質サウンドのエッセンスをほどよく透過させた独自のUKOスタイルは、寓話「北風と太陽」でいうところの太陽か。押しつけがましさは一切ないけれど、知らずとグルーヴに体躯を揺らしてしまう。その感覚が絶妙だ。

 そこには彼女を支えるバンドの力も大きい。奇を衒う派手さはないけれど、あくまでも楽曲へシンプルにアプローチして、楽曲の旨味をいい塩梅で引き出してくる。リズム隊はジャズっぽさも時折顔を見せてライヴ感を明確に刻んでいるから、バンド・サウンドに緩さはなし。“生”バンドから放たれるしっかりとしたリズム&グルーヴだからこそ、ライトでソウルフルな歌唱もより活き活きとしてくるのだろう。



 後半には新曲のバラードを披露。“弟子あるいは生徒”だった脇田もなりの成長を目の当たりにして、自身も新たな進化を遂げようとしたというのは邪推で、仮にそうだとしても後付けとなるが、従来の流れとは異なるタイプの作風を求める姿勢には、脇田もなりと同様に新たな発見への好奇心と向上心が見て取れる。多彩な楽曲を手に入れることは豊かな表現を得ることにも繋がり、自身の音楽性にも柔軟さが生まれてくるはずで、彼女を単にガールズ・ポップやシティポップと一括りしてしまうにはもったいない魅力に包まれていると感じた。個人的に印象に強く残ったのは「SPUR」で、アレンジ/トラックメイクはベースの玉木正太郎。なるほどバンドとの相性の良さも頷ける。

 終演後に話をさせてもらう機会があったのだが、こちらが「R&Bやソウルなどのブラック・ミュージックが好き」と話すと、それなら是非聴いてもらいたいとのことでアルバム『Saturday boogie holiday』を購入(サインも頂いた)。ファンクやディスコあたりの好事家には響くという自信もあるのだろう。ファンクやディスコとアーバンなシティポップという図式だけを見ればまさにEspeciaだが、ヴォーカルとバンドの経験値で雰囲気だけに終わらない大人のスウィート・グルーヴを具現化する意味で、彼女ならではのオリジナリティが根付いている。まだアルバム1枚とのことだが、次なる多彩な展開に期待したい。


◇◇◇

<SET LIST>
01 Signal (*)
02 タイムトラベラー (*)
03 マドンナ (*)
04 Sha La Lay (*)
05 SPUR
06 (New Song)
07 me.

(*):songs from album“Saturday boogie holiday”


<MEMBER>
UKO(vo)

玉木正太郎(b)
杉浦秀明(key)
渡辺淳(g)
加瀬友美(ds)


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