*** june typhoon tokyo ***

脇田もなり@六本木VARIT.


 感謝と次なる高みへの意欲と成長の陰を示した、24歳の祝宴。

 2枚目のオリジナル・アルバム『AHEAD!』以降も6thシングル「Just a "Crush for Today"」をリリースするなど精力的に動いた脇田もなり。新年を迎えて早々、24歳となる1月28日の前日に企画されたバースデイライヴ〈Monari Wakita Birthday Live -Up and Coming-〉が六本木VARIT.で行なわれた。チケットもソールドアウトの盛況で、元来VARIT.はそれほど収容数の多い箱ではないとしても、VARIT.のフロアに隙間があまり窺えない光景を目にしたのは初めてかもしれない。MCでは冗談半分で「(みんな)ギリギリになってチケットを買う人が多いから、あまり(先行きが)読めなくて不安だったけど」と本音を吐露する場面もあったが、それも杞憂に。彼女への熱度の高いファンたちがいつも以上の昂ぶりを孕みながら、バンド・スタイル“Up&Coming”でのライヴの幕が開けるのを今や遅しと待ち構えていた。

 生誕祭という祝われる立場の彼女ではあるが、集うファンたちへの気持ちを込めてか“親愛なる”を意味する言葉をタイトルに冠した「Dear」からスタート。薄紫地に花柄があしらわれたブラウスと合わせたボトムは、鮮やかな“赤いスカート”ではなく赤いパンツ・スタイルという出で立ち。どっぷりと大人に浸かることはないけれど、大人ならではの色香や美麗も醸し出したいという心情を意識した衣装に思えた……といったら、やや考え過ぎか。

 パンツ・スタイルながら「赤いスカート」で踵を翻し、「ディッピン」ではコール&レスポンスでファンとともに“シャボンに夢を乗せる”ファンシーなところも見せたが、「走る夢」や「青の夢」などのミディアムでは感情の揺れを声色に乗せた歌唱を披露。観客の表情や注がれる視線を汲み取った情感を込めたヴォーカルワークには、その時に宿った感情や表現者として発露したい想いを声色という筆で曲に“色付け”したいというような意志もあったのだろうか。綴られた詞世界をストーリーテラーのように思いを含みながら歌い語ろうとしているようにも見えた。

 とはいえ、大人語りするだけが彼女の成長の足跡ではなく、フロアから自発的なシンガロングも生むキラーフックが魅力の「遊星からのアイラビュー oh! oh!」、イックバル産のファンキーなボトムが腰を揺らせる「Cloudless Night」、矢舟テツロー制作のピチカートマナーなソウルポップの真骨頂ともいえる「EST! EST!! EST!!!」などではしっかりと横ノリのグルーヴでフロアをロック。ロングトーンのシンガロングとコール&レスポンスが幾重にもなって打ち寄せ、ヴォルテージのギアを最高潮へと到達させるバザール感溢れる本編ラストの「WINGSCAPE」まで、若さと大人ならではのしなやかさ双方の旨味を調合しながら、経験や糧で得た成長の跡を、天真爛漫なソウルフルヴォイスだけではないメタモルフォーゼな“もなり”像として、近しいファンの前で示して見せた。

 アンコールは清爽なリズミカルなビートが微笑みやラッキーを呼び込みそうなキャッチーなポップ「TAKE IT LUCKY!!!!」を経て、「Callin' You」でエンディング。“親愛なる”を意味する「Dear」で幕を開け、自身が伝えたいファンへの感謝の気持ちを前園直樹へ託した詞で描いた「Callin' You」で締めるという構成は、彼女なりのファンへの感謝の気持ちなのだろう。ファンからの温かい声援もあり、和やかな雰囲気とテンションの高いフロアのパッションに包まれ、充実度の高いホットなステージを展開したメモリアルなバースデイライヴ。ファンには満足度の高い時間となった。

 ただ、恐らく当日フロアで彼女の歌声を耳にした観客たちから聞こえてくる好意的な感想から類推する限り、次のように感じるのはほぼ自分だけだと思うが、個人的に気がかりな点が二つだけあった。一つは中盤で披露した「真夜中のドア~Stay With Me」のカヴァー。多くのカヴァーを生んだ1979年リリースの松原みきのデビュー・シングルだ。シティポップへの再評価の波が来ているのか、竹内まりや「Plastic Love」と松原みき「真夜中のドア」に改めてスポットライトが当たっているようだが、脇田本人はYouTubeで楽曲を探っていた時に再生回数の多さに目を惹き、偶然聴いてみて気に入ったという。その後、調べてみると、松原の出身地(大阪府堺市)に実家が近く、大阪から上京して歌手活動をしたという経緯も共感でき、親近感が沸いたことからカヴァーしたいと練習したようだ。この日の披露したのは、オリジナル松原版と比べると、スウィートな歌い口が印象に残ったカヴァーとなった。

 奇しくもシティポップへの再評価が高まっている流れに乗った形での選曲となった「真夜中のドア」だが、選曲自体は問題なく、寧ろ(以前、記事にもしているかと思うが)グループ時代からカヴァーしてもらいたい楽曲の一つとして挙げているほど。彼女のカヴァースタイルは、意図的ではないにせよ、フレッシュで滑らか。鮮やかな春の装いのようなスウィートネスを帯びていた……といえば聞こえはいい。だが、この楽曲をカヴァーするのであれば、詞やサウンドに宿るアクティヴな心模様を捉えた、内からにじみ出る、こぶしをグイっと握るくらいの感情を呑み込むようなアプローチをして欲しかった。(テクニックということではなく感情の発露、メンタルという意味で)あまり引っ掛かりが見られないない歌唱に終始してしまったのが惜しまれる。

 松原が当時19歳ながら艶やかな薫りを漂わせて大人の歌唱に成熟出来たのは、母の影響もあってジャズに親しんだ素地と陰影を深く刻んだヴォーカルワークゆえ。ハスキーな声質を持ちつつ、サビなどで見せる伸びやかかつグリッターな装飾を纏う歌唱スタイルは、実は脇田自身に元来備わっている資質にも似ているともいえる。別にオリジナルの真似をすることがいい訳では全くないが、この楽曲の詞世界も鑑みながら、陰影を与え“コク”を含ませることでより成熟を増したムードへと導ける術を模索した上でカヴァーしてもらいたかった、というのが正直なところだ。

 この日は生誕祭という一種の祝宴ゆえ、そんな細かいこだわりは不要で野暮なのかもしれないが、楽曲の本質たる何かを吸収、咀嚼せずにカヴァーするのはあまり得策とはいえないはずだ。というのも、その場での盛り上がりという意味ではオリジナル以外の歌を聴けるというサプライズ的な要素はファンにとっても嬉しいだろうが、一方で、カヴァーこそよりオリジナリティを持たなければ、自らの彩色を失いかねないものでもある。比較的安易にカヴァー曲を歌うことが脇田もなりの輝ける将来へ近づける要素になり得るなら問題ないが、果たしてどうなのだろう。それならば、『AHEAD!』にて異色を放っている「Lemon」のような普段のライヴでは歌うことが少ないオリジナル曲を採り上げ、解釈の深みを増すような歌唱にチャレンジをした方がいいのではないか。
 もちろん、そういった将来的な視点がナンセンスなのであれば、このカヴァーはその場で耳にしたファンにとって良かったと思うし、実際フロアではこの曲の冒頭から沸いていたのも事実。それが脇田が掲げた“Pop-Eyed Soul Music.”の本筋だというなら、致し方がない。

 気がかりなもう一つの点は、端的に言うとスケール感。バンドが鳴らす音の隙間をもう少し埋め、圧を高めてもいいかと感じたのもあるが、脇田のヴォーカルワークの伝播がやや近しい範囲に留まっているようにも思えた。今回のVARIT.クラスのキャパシティなら各所で演じた所作や歌唱がしっかりと届いて、フロアの盛り上がりを導いていたが、これがもっと広いフロアやステージとなった際に同じような伝播力や訴求力を発揮出来るか、またそれを想定してパフォーマンスを繰り広げているかどうか。言ってしまえば、VARIT.クラスではややオーヴァーアクション気味でもいいくらい。これも今回のステージのみに限って言えば、迫力や訴求力、表現力も期待を寄せていたファンの心を掴むに十分なパフォーマンスだった思うが、このクラスで満足しないのであれば、常にその先を見据えた意識や向き合い方が必要になるはずだ。

 後半は苦言に似たものとなってしまったが、それはあくまでも終演後の場外の話。当日のフロアは脇田もなりの歌を堪能しようという人垣がハートフルでラヴリーなうねりを生み出していたのは間違いない。これまでの2年強の経験値を踏まえて、さらなる高みにチャレンジするだろう2019年。シンガーとして、女性として、どのような美しく輝くベールを纏っていく年になるのか、その道筋が非常に気になるところだ。

◇◇◇

<SET LIST>
01 Dear (*A)
02 IRONY (*I)
03 赤いスカート (*I)
04 ディッピン (*I)
05 走る僕 (*A)
06 青の夢 (*A)
07 遊星からのアイラビュー oh! oh! (*A)
08 Cloudless Night (*I)
09 真夜中のドア~Stay With Me(Original by Miki Matsubara)
10 やさしい嘘
11 EST! EST!! EST!!! (*I)
12 Just a“Crush for Today”
13 WINGSCAPE (*A)
≪ENCORE≫
14 TAKE IT LUCKY!!!! (*A)
15 Callin' You (*A)

(*I): song from album“I am ONLY”
(*A): song from album“AHEAD!”


<MEMBER>
脇田もなり(vo)

ラブアンリミテッドしまだん(g / Healthy Dynamite Club)
越智俊介(b / Shunské G & The Peas, CICADA)
KAYO-CHAAAN(key / Healthy Dynemite Club)
山下賢(ds / Mop of Head, Alaska Jam)

DJ:
新井俊也(冗談伯爵)

◇◇◇

【脇田もなりに関する記事】
2016/09/23 星野みちるの黄昏流星群Vol.5@代官山UNIT
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2018/07/11 脇田もなり@六本木Varit.
2018/08/09 脇田もなり『AHEAD!』
2018/09/14 脇田もなり@WWW X
2019/01/27 脇田もなり@六本木VARIT.(本記事)

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