*** june typhoon tokyo ***

脇田もなり @渋谷CLUB QUATTRO




 歌への飽くなき欲と確信が垣間見えた3周年。

 “透き通る マシンガン そっと撃ち抜いていいでしょう?”
 とは、一十三十一が詞を、Dorianが曲をそれぞれ手掛けて提供した「エスパドリーユでつかまえて」のコーラス・パートの一節。スペシャルゲストのDorianをステージへ招き入れ、フロアで一十三十一が見つめるなかでこの曲を披露したのだが、それと同時にオーディエンスへ向けたのは、歌を歌い続ける確信とさらに高みを目指したいという欲望のトリガーだった。

 脇田もなりのソロ3rdアルバム『RIGHT HERE』のリリースツアー〈“RIGHT HERE” RELEASE TOUR 2019〉のファイナルとなる東京・渋谷CLUB QUATTRO公演は、ソロ・ステージデビューとなった3年前の2016年と同じ日の9月23日に開催。これまでのアルバム2作、『I am ONLY』では“私は私”、『AHEAD!』では“前進する!”と一見ポジティヴながらも、どこか自身を奮起させるというか言い聞かせるような節も感じられたタイトルだったが、3作目となる『RIGHT HERE』では“私の居場所はここ(歌)なんだ”という自我をリスナーへ向けて明確に宣言。その思いの丈をソロ・デビューと同日のステージにぶつけることが出来たのは、彼女の中で歌への貪欲さとそれを得るためにクリアしなければならないハードルを越える手ごたえを、日に日に感じているからなのだろう。冒頭から終演まで、満面の笑みと歌を紡ぐ際の渾身の眼光、そして時に過去を振り返っての涙など、彼女なりの苦心の末に辿り着いたQUATTROのステージで充実の表情を見せてくれた。

 金沢を皮切りにスタートし、名古屋、大阪を経て福岡まではDJセットだったツアーは、ファイナルで脇田もなりのバンド“UP & COMING”を配したバンドセットに。それだけでなく、コーラスのU
KOのほか、トランペットに山田丈造、アルトサックスに岡勇希、テナーサックスに曽我部泰紀というホーンセクションを加えた布陣でヴォリュームアップ。さらに、前述の「エスパドリーユでつかまえて」と「WHERE IS...LOVE」ではDorianが登場、アンコールの「ハイウェイ」ではオープニング&クロージングDJを務めた新井俊也が越智俊介に代わってベースを弾くなど、これまでにない豪華な編成で脇田もなりソロ3周年を祝した。

 本編はウィスパーヴォイスのカウントアップから始まる「風船」から。続いて「Thinkin' about U」と『RIGHT HERE』の収録順で進む。この2曲は緊張からなのか、彼女の声域とそれほどフィットしてないのか、気張るような歌唱が窺えて、やや不安定に。だが、次に披露した「FRIEND IN NEED」ではその“気張り”も取れて、表情豊かな歌い口に。さまざまな歌唱法を手に入れてその引き出しを増やした彼女とはいえ、やはり合う・合わないはあるのかもしれない。『RIGHT HERE』収録曲を軸とした展開のなかで、中盤の「青の夢」「LED」「IRONY」などは力むことなく声に思い通りの抑揚をつけながら歌っていたのを見ると、『RIGHT HERE』楽曲は自身の声の表情を自在に操るまでにはもう少し時間を要するところか。
 また、鈴木桃子と佐々木潤という“COSA NOSTRA”コンビによる「LOVE TIMELINE」では、ハウスやダンサブルなライト・ポップへの適正を改めて示してくれた。既に福富幸宏産の「I'm with you」でイーヴンキック楽曲への相性の良さは感じていたが、予想以上のフィット感に驚きも。ハイトーンのパートに注文がない訳ではないが、こういうスウィートながらも爽やかな大人っぽさが漂う楽曲を歌えるようになったのは、彼女の成長であり、可憐さだけからの完全なる脱却ともいえる。ハウス路線への相性の良さでは快活な「3MOTION」も同様。彼女に数多くの楽曲を提供し、今公演でもオープニング&クロージングDJを務めた新井俊也の提供曲ゆえ、脇田の声質や声色にフィットしやすいトラックやメロディを、実際に意識してか無意識かは分からないが、知らずのうちに選定しているのかもしれない。“Stay close to me tonight”のコール&レスポンスがフロアの隅々まで響き渡る光景に、嬉々とした表情を見せる彼女が印象的だった。


 個人的にこの公演で注目していたのは、前述の「エスパドリーユでつかまえて」とこれまた鈴木桃子と佐々木潤の“COSA NOSTRA”コンビによる「WHERE IS...LOVE」をどう歌うかだった。「エスパドリーユでつかまえて」はDorian制作の一十三十一楽曲そのもので、ソウルフルなR&B/ネオソウル・マナーの「WHERE IS...LOVE」はCOSA NOSTRAのそれ。誤解を恐れずに言えば、出来如何では歌い手が異なるだけのカヴァーとして見られるという、提供者のクセの強いナンバーだ。上質な楽曲だけに、それをどう歌うかが脇田もなりの3年の評価にもなりそうな、大袈裟に言えばそれくらいの注目度で耳目を凝らしていたのだが、Dorianという強力なサポートを得た「エスパドリーユでつかまえて」では、無理に声を張らせることもない抑え気味なキーも奏功して、しなやかなナチュラルな艶を表出。“ハートはビートしている”に相応しいエレガントなグルーヴで魅了してくれた。

 そして、「WHERE IS...LOVE」だが、個人的にはこの公演のベスト・アクトと言っていい出来。この楽曲はこれまでほとんどトライしてこなかった曲調ということもあって、ファンの嗜好で言えば賛否が大きい、それもおそらく否が多いと思われる曲だ。実際、オーディエンスの身体の揺れがそれほど見受けられなかったところを見ると、ノリという意味では難しいと感じられるのだろう。だが、ミディアム・スローのテンポと言葉数が決して多くない詞のなかで、しっかりとタメとグルーヴを構築し、彼女が増やしてきた歌唱の引き出しに懐という名の奥行きを加えたのは、まさにこの楽曲だと言っていい。ブラック・ミュージックを嗜好する人には分かってもらえるとは思うが、キャッチーでなくポップス然とはしていないゆえ、ファン全てから愛着を得ることは難しいかもしれない。それでも、次へのフェーズへの足掛かりとして重要な楽曲となるに違いない。

 さらに特筆すべきは、ホーン・セクションもその一つだ。おそらく前半の「Just a "Crush for Today"」「LOVE TIMELINE」やDorian参加曲以外はおおよそホーン・セクションが加わっていたと思うが、やはり高揚感をもたらす意味でその存在は貴重。もちろん、ホーン・セクションが加われば必ずサウンドの圧や高揚が生まれるという訳ではないが、過不足ないほどの手合いで組み込まれていて、バンド・サウンドに華やかさとファンクネスという彩りをプラスしていた。

 アンコールはくるりのカヴァー「ハイウェイ」と、ファンへの感謝の気持ちを歌ったという「Callin' You」の2曲。会場に集った多くのオーディエンスを目にし、「みんなぁ、チケット買うの遅いよぉ、もう~」という不安が安堵に変わって涙した後で迎えたアンコールゆえ、ステージが進むにつれ、その安堵が自然とリラックスなモードへといざなったのだろう。十分に呼吸を整えてしっとりと「ハイウェイ」を歌い上げ、ラストの「Callin' You」では感謝の思いを力みなく伸びやかな声を微笑みとともにフロアへと充満させていった。

 2周年の際には直ぐに大きな会場でやりたいと進言して、QUATTROというスケールでこの日を迎えた脇田もなり。3周年のステージを終えて芽生えてきたのは、やはりさらなる高みへのチャレンジだった。とはいえ、『RIGHT HERE』でこれまでのイメージを覆すようなチャレンジをした結果、高みを目指すための壁が思った以上に高いということを実感した様子。それでも歌を歌うことへの飽くなき我欲が彼女を能動へと駆り立てたのだろう。何度も「社長、お願いしますね」と愛くるしく語り掛ける姿は、オーディエンスの顔を綻ばせた。「一生歌い続けていきます」と宣言した彼女に、戸惑いは消え去ったようだ。“新しいこの世界で輝いていきたいよ”……自身が詞を手掛けた「風船」でしたためたストーリーは、これからが本当の意味での試金石となる。


◇◇◇

<SET LIST>
00 INTRODUCTION(Track by Toshiya Arai)
01 風船 (*RH)
02 Thinkin' about U (*RH)
03 FRIEND IN NEED (*RH)
04 Just a“Crush for Today”(*RH)
05 LOVE TIMELINE (*RH)
06 青の夢
07 やさしい嘘 (*RH)
08 LED
09 IRONY
10 恋をするなら (*RH)
11 エスパドリーユでつかまえて(special guest with Dorian)(*RH)
12 WHERE IS...LOVE(special guest with Dorian)(*RH)
13 3MOTION (*RH)
14 WINGSCAPE
15 passing by (*RH)
≪ENCORE≫
16 ハイウェイ(Original by QURULI)(bass: Toshiya Arai)(*RH)
17 Callin' You

(*RH): song from album『RIGHT HERE』


<MEMBER>
脇田もなり(vo)

"UP & COMING" are:
ラブアンリミテッドしまだん(g)
越智俊介(b)
KAYO-CHAAAN(key)
山下賢(ds,sampler)

UKO(cho,shaker)
山田丈造(tp)
岡勇希(as)
曽我部泰紀(ts,fl)

Special Guest:
Dorian(syn,sampler)

OPENING & CLOSING DJ:
新井俊也(DJ)


◇◇◇







◇◇◇



◇◇◇
【脇田もなりに関する記事】
・2016/09/23 星野みちるの黄昏流星群Vol.5@代官山UNIT
・2017/06/20 脇田もなり@HMV record shop 新宿ALTA【インストア】
・2017/07/28 脇田もなり@タワーレコード錦糸町【インストア】
・2017/09/08 脇田もなり@clubasia
・2017/11/25 脇田もなり@HMV record shop 新宿ALTA【インストア】
・2017/12/15 脇田もなり@六本木VARIT.
・2018/01/28 脇田もなり@下北沢BASEMENTBar
・2018/03/21 脇田もなり@下北沢BASEMENTBar
・2018/05/06 脇田もなり@新宿MARZ
・2018/07/11 脇田もなり@六本木Varit.
・2018/08/09 脇田もなり『AHEAD!』
・2018/09/14 脇田もなり@WWW X
・2019/01/27 脇田もなり@六本木VARIT.
・2019/07/13 脇田もなり@HMVコピス吉祥寺【インストア】
・2019/08/01 脇田もなり@タワーレコード錦糸町パルコ【インストア】
・2019/09/23 脇田もなり@渋谷CLUB QUATTRO(本記事)

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コメント一覧

jt_tokyo
Hide Grooveさん
コメントありがとうございます。
桜井鉄太郎、そして某藤沢(笑)と関係があったりと、Hide Grooveさんの人脈、というより、もしや凄い人なのでは……という思いが脳内をグルグルして止まりません(笑)
こちらは相変わらず題材も間隔も気まぐれでの更新となりますので、どうぞご自身の良きペースで覗いていってくださるとありがたいです。
Hide Groove
Dorianがサポート、コーザノストラの楽曲を披露、彼女を取り巻く環境がこんなにも整っていたのかと驚いてます。
野球狂さん。こんばんは。ご無沙汰してます。
個人的に桜井鉄太郎さんには大変お世話になった過去があり、熱い気持ちが甦ってくるようです。

脇田さん、Dorianの浮遊感あるファンキーなトラックに、切なく可愛く温かみさえ感じるボーカルが、うまく溶け合ってますね。好きですよ、この感じ。野球狂さんが投稿していた都会の夜画像にハマりますね。

あちらは止めてしまいましたが、また原点でもあるこの場所で、野球狂さんとの語らいを楽しみたいと願ってます。
音楽の旅、同行宜しくお願いします👍
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