
オープナー「ボナファイド・ファンク」は、メイン・ソース(Main Source)をフィーチャー。メイン・ソースは、ニューヨーク出身のラージ・プロフェッサー、サー・スクラッチ、K-カットによる3人組。軽快なレア・グルーヴに、やや怠惰な雰囲気でシャウトするレイド・バック感がいい。
グールーとDJプレミアによるニューヨーク出身のユニット、ギャング・スター(Gnag Starr)をフィーチャーしたのは、「イッツ・ゲッテイン・ヘクティック」。心地良いジャム・サウンドに食い込んでくる硬派なフロウが出色だ。
「フーメイクス・ザ・ルート?」ではグランド・プーダ(Grand Puda Maxwell)が参加。グランド・プーダのチル・スタイルのラップにファンキーなベースとギター、そこに刻み込んでくるスクラッチの手合いが絶妙。
ブルックリンのラップ・ティーム、マスター・エース(Master Ace)をフィーチャーした「ウェイク・ミー・ホエン・アイム・デッド」は、前面に強調した息をもつかせぬラッピングとそれを支えるバックのグルーヴとの相性のよさを窺わせる。
中盤からはこのアルバムの核となる名作が揃った。
レゲエ調のフロウが縦横無尽に走る「ジャンプ・ン・ムーヴ」では、ジャマルスキ(Jamalski)をフィーチャー。ラガマフィンとレア・グルーヴの邂逅は大正解で、陽気で洗練されたホット・チューンに仕上がった。
「デス・スレット」はワウのリフに導かれるヴァースからコーラスへの展開がキモ。クール・G・ラップ(Kool G. Rap)の我が物顔のラッピングが、かえってメリハリをつけている。
「ステイト・オブ・ヨウ」に参加のブラック・シープ(Black Sheep)は、泥臭さや田舎臭さを感じさせるラップを披露。ネイティヴ・タングーの魅力が充分に味わえる作品だ。
Ed O.G.の高速ラップが疾走する「ドゥ・ホワッタ・アイ・ガッタ・ドゥ」は、「ジャンプ・ン・ムーヴ」に比肩する傑作。ホーン・セクションとタイトなベースが濃いめのファンク・サウンドを構築している。
終盤は、印象を強く残す2曲。
ジャマイカのレゲエ・シンガー、タイガー(Tiger)をフィーチャーした「ホワット・アバウト・ザット」は、レゲエの下世話さを存分に発揮したタイガーのフロウが何と言っても絶妙。猥雑と洗練の組み合わせのミスマッチ感もない。
ラストは、ロサンゼルス出身グループ、ファーサイド(Pharcyde)をフィーチャーした「ソウル・フラワー」。若々しさとクセのあるラッピングがトラックに勢いを持たせていて、タイトルののごとく、次々とファンキー・ソウルの華を咲かせていくような騒々しさがいい味を生み出している。終盤で繰り返す“ソウル・フラワー”の掛け声から“1、2、3、4、hit it!”というジェイムス・ブラウン風のシャウトへの展開には、思わず腰を揺らすだろう。
ヒップホップがミュージック・シーンの主流にまで駆け上がっているような現在より以前に制作されたこのアルバム。細かな精緻を考えると、完成度については発展途上といえる作品もあることは否めないが、ヒップホップの裾野を広げ、新たな道筋を拓いたという意味においては、非常に有意義な試みであったし、作品となったといえる。
また、ブラン・ニュー・ヘヴィーズが創り出すグルーヴの振幅の大きさとサウンドの質の高さがしっかりと証明された、霞むことのない珠玉の作品群といえよう。