
“ロボヘッズ”からの進化。
約4年のブランクを経てレーベル移籍後の初アルバムとなった『SOULHEAD』は、彼女らの原点を指し示すセルフ・タイトル作となった。
このアルバムを聴いた率直の感想は「賛否両論となるだろうな」だった。デビュー・シングル「STEP TO THE NEW WORLD」から培ってきたR&B/ヒップホップ姉妹デュオというカテゴリーを飛び抜け、自由過ぎるほどにさまざまなジャンルをわたっているからだ。特に、「限界ピストルズ」や「Plunder」に見られるハードロック路線には、意外性を通り越して裏切られたと思う人も少なくないかもしれない。
しかしながら、これまで2002年のデビューから2006年までの彼女らが、“SOULHEAD”像を追求するあまり思うように表現出来なかったとしたら、自我を、思いのたけを吐き出せたという意味で、有意義な作品ともいえる。背負い込んでいた重荷から解き放たれ、シンプルに自分たちを抑えつけることなく探究心と欲望を曝け出した雑食性がそこにはあるのだから。
とはいいながらも、以前からのSOULHEADカラーを踏襲した楽曲もしっかりと収録されている。「SPARKLE☆TRAIN」の系譜を継ぐ、希望に満ちたトラックと高みから鳥瞰するような伸びやかなヴォーカルが特色の「Whatever」、和風な要素もチラッと垣間見せながら切なさと芯の強さを絶妙に描写した「9Dayz」、スパニッシュ風ギター・リフのループの上で突き進むTSUGUMIのフロウと妖しさと神秘性を行き来するYOSHIKAのヴォーカルの対比がクセになる「New Kicks」、「空」から「Dear Friends」までのメロディアスなバラードを集約したような「大きな世界の小さな僕ら」などは、初期のアティテュードを軸にした楽曲といえる。上述の「限界ピストルズ」も倖田來未を迎えた「XXX」の要素も感じられなくもない。
そのあたりは、共同プロデュースとして参加した菱川亜希の存在が大きい。菱川といってすぐにピンと来ない人もいるかもしれないが、デビュー当初からSOULHEADサウンドにはなくてはならない存在のプロデューサー/トラックメイカー、OCTOPUSSYの一人といえば合点がいくだろう(OCTOPUSSYは菱川と松澤友和とのユニット)。彼の存在が、雑食性の高まったSOULHEADの舵取りを、ポップネスという側面から、コントロールしている。
足かせが取れた彼女らの自由度は高い。新たな公式HPでのBGMとしてしばらく流れていたミステリアスなイントロが耳を引く全編英詞のアッパー・ロック「Show Time」、ホーン・セクションを配したインコグニートあたりのアシッドジャズを彷彿させるジャズ・ファンク「Cosmic Walking」、スウィートなスロージャム「confession」、クロスオーヴァー/クラブ調のトラックの上で清涼なヴォーカルと澄明なファルセット・コーラスが乗るアッパー・ハウス「Pass the love」といった具合だ。TSUGUMIのフロウを特化させた「The Battle Of...」や「LOVER, KNIGHT, MAN」「One More Time」を想起させるポジティヴで煌びやかな「FANTASY」は、TSUGUMIがトラックを制作している。
そして、このアルバムの精神的支柱ともいえるのが「All My Dreamer」だ。コンテンポラリーなUS調R&Bマナーに則ったトラック上でノスタルジックかつ伸びやかに展開するセンチメンタルなミディアムだが、その詞世界が現在のリアルな彼女らを表わしている。過去に“ありがとう 忘れないわ”と告げながら、“髪をほどいて自由になる/また飛べるはず”と繋ぐリリックには、この4年間のブランクのありとあらゆる感情や思いが凝縮されている。そして、「すべての私の家族、夢見る人たちへ」のフレーズは、期待や不安を伴いながら待っていてくれたファンへのメッセージとも受け取れる。そう思うと、改めてこの楽曲群がいとおしく感じられてくるのだ。
当初、彼女らのステージは“ソウルヘッズ”ではなく“ロボヘッズ”と言われた。緊張のあまりガチガチだったのを、そう言われたのだ。それから場数を踏み、そんな堅苦しさもなくなっていたが、音楽的な欲求や精神性においては完全に“ R&B/ヒップホップ・シーンの超強力姉妹ユニット”という型から抜け切れていなかったのかもしれない。その意味で、どこかに意識していた堅苦しさ=精神的な“ロボヘッズ”からようやく解放されて制作されたのが、今回のアルバム『SOULHEAD』なのではないだろうか。彼女らは自分たちの原点、初期という意味ではなく彼女ららしさという意味で、に初めて立てたのだから。
しかし、あくまでもスタートラインだ。雑食性に溢れ、といえば聞こえはいいが、これが彼女らの才能の際限という訳では決してない。自分たちらしさを貫くあまり、バランスとして微妙な楽曲もないとはいえない。手垢に染まったハンドメイドな良さと荒削りな煩雑さの両面を備えた今作。絶賛、落胆……さまざまな意見があると思う。だが、精神をクリアにして追求する下地が整ったことで、これからの更なる伸び白を期待せざるを得ないし、その期待は次作以降で確信に変わるはずだ。今は精悍な輪郭を備えたプロダクションへと向かう、その出発点に立ったばかりなのだから。そう感じて、再び耳を傾けていきたい。
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SOULHEAD / 「Whatever/限界ピストルズ」
ライヴでまた、“SOULHEAD”“NO.1!”のコール&レスポンスをやりたいネ。