*** june typhoon tokyo ***

ICE@横浜Bay Hall


 “歌は残る”を証明した名演と、掛け替えないユニットの結束。

 1993年4月に『ICE』でアルバム・デビューした音楽ユニット、ICEがその25年を祝したライヴ〈ICE ~The 25th anniversary LIVE~〉を開催。近年はヴォーカルの国岡真由美によるアコースティックなステージを中心に活動することが多かったようだが、国岡いわく「ようやく(バンドを)やってもいいかなという気持ちになった」ということとデビュー25年というアニヴァーサリーが重なってのスペシャルなステージだ。会場は海を間近に臨む横浜BAY HALL。開演前からICEの音楽を愛してやまない多くのフリークたちの熱気がフロアを埋め尽くしていた。

 個人的には2013年(記事→「ICE@下北沢GARDEN」)、2015年(記事→「ICE@BLUES ALLEY」)以来の“ICE”としての観賞となる。定刻の18時となると、ステージには以前から変わらないバンドメンバーの面々が揃う。暗転から一気に放たれるカラフルなライトとともに耳に飛び込むのは胸の高鳴るイントロ。ドラムの山下政人の耳慣れた“ワン、トゥー、スリー、フォー”のカウントアップが一層鼓動を早めるなか、「spirit」の心くすぐるグルーヴが走り出した。

 艶とスタイリッシュを併せ持った国岡に色褪せるところはなく、やや俯き加減で左右にスウィングしてリズムをとるしなやかな所作も変わらないまま。声が太く厚い訳ではないのに強い訴求力を持ったヴォーカルも健在だ。そして長年酸いも甘いも嚙み分けた盟友バンドたちとの絶妙なバランスは言わずもがな。かつて宮内和之が誰一人欠けてもICEにならないと語った連帯と一体感に錆び付きは皆無だった。

 熟考した結果、これまでとこの先を見据えたものにしようということで練られたセットリストにはいくつかの見どころがあったが、やはり一番のトピックとなったのは「SLOW LOVE」だろう。“Fu~聞いてるのよここで~”の国岡の艶やかなハイトーンをオーディエンスは待ち構え、痺れ、歓喜の声を上げるというICEのなかでもクライマックスにも相応しい楽曲の一つを序盤に組み込んできたことも驚きだったが、この楽曲の印象度を強めたのがやはり田口慎二のギター・ソロ。殊にこの日は機材トラブルに多く見舞われ、演奏中に何度もギターをセッティングし直す姿を目にしたが、この「SLOW LOVE」も同様。スタッフが駆け寄るなかでギターをチェックする田口の姿にオーディエンスや国岡も心配そうな視線を送るなか、おもむろにファンキーなカッティングを爪弾いてから激しいギターソロを繰り出すと、フロアのあちらこちらから田口に声援の波が。
 この日初めてICEのステージを観る、あるいは最近ICEを知ったという人以外は、代わりが効かないICEの文字通りの中心だった宮内のポジションという重要性とその重責を務めなければならないという田口の圧倒的なプレッシャーは手に取るように分かっているゆえ、自然と励ましにも似た声も出るのだろう。そして、この一連のトラブルが、おそらく天国から宮内が嬉しそうな顔でちょっかいを出しに来ているんじゃないかと思えてしまうということも。そう考えるのがスムーズに思えてしまうほど、以降もギターの機材トラブルはところどころで散見されたが、その都度それぞれバンドメンバーが目配せしながら即興演奏や“E-CUPS”のコーラスワークでフォローして乗り切り、ギター演奏が無事に加わると、再び歓声の波が押し寄せていった。

 機材トラブルは終盤には崩場将夫のキーボードでも発生。慌ててスタッフを呼び寄せる崩場だったが、クライマックスに近づく場面でのトラブルが発生するとは、やはり宮内が仕掛けた“悪戯”に思えて仕方ないのだがどうだろう。それを冷静に対処しながらバンドとしての音を鳴らし、フォローし合うメンバーの連係力は、“ユニット”として築き上げてきた経験値と実力の賜物といえる。

 中盤の「SWEETNESS」から「Medicine Street」まではメドレースタイルで披露した後は、国岡がソロで展開しているアコースティック編成のアレンジを。田口のアコギを中心にした「I'M IN THE MOOD」、続いて崩場の鍵盤とのしっとりとした「MOON CHILD」、さらに再びギターを加えてのノスタルジーとセンチメンタルが重なったアダルトな「SHERRY MY DEAR」と三曲三様の味わいで聴かせていく。どこかで「25周年ということは、それだけ私達もみなさんも年を重ねたということ」と微笑みながら国岡が語っていたが、その年輪を共に刻んだ者だから味わえる滋味や深みを、このセットで堪能させようとしたのかもしれない。

 以降は「Kozmic blue」や本編ラストのステージとフロアが一体となってシンガロングする「Love Makes Me Run」などライヴ定番曲もあったが、比較的リラックスしたグルーヴでのミディアムを連ねていく。「BABY MAYBE」「GET DOWN,GET DOWN,GET DOWN」「ANALOG QUEEN」などのアッパーな“常連”曲はリストに加わらず。それでもフロアの熱量は次第に増えていき、共に口ずさむ者、メンバーへ声を掛ける者、身体を揺らし続ける者、多くが自らの表現でICEの音に酔いしれていく。
 気持ちを昂らせるドラミングとカウントを発する山下、後方ながらエネルギッシュにボトムを鳴らす小川真司、クールに機微に富んだ鍵盤を鳴らす崩場、軽快でリズミカルなパーカッションでグルーヴにアクセントを加える大石真理恵、コーラスで楽曲に洒脱と奥行きをプラスする“E-CUPS”こと柴田章子と鈴木精華、そして、宮内の天からの“悪戯”に苦笑しながら宮内の真似ではない自身の音鳴りで存在感を示した田口と個々が持ち味を十分に発揮して国岡のヴォーカルとシンクロしていく、2019年の“現在進行形”のICEを見事に示してくれた。

 アンコール後は、アコースティックソロライヴでは披露済みらしいが、1番しかない初期のデモ音源をアレンジした楽曲をバンドとしては初めて演奏。25年の時を経てもICEの楽曲を愛し、ライヴに集うファンへのプレゼントといったところか。そして、レゲエビート調での「RED MOON」を経て、国岡の「じゃあ、あの曲を」で全てが解かる「PEOPLE, RIDE ON」へ。宮内が常々口にしていた“俺が死んでも歌は残る”を早くも体現してしまっているのは切ないが、歌詞の一つ一つの言葉を胸に刻みながらシンガロングしていると、ICEの楽曲の胸にスッと入り込む“居心地の良さ”や、何とも言えないときめきと自然と身体が動かされる滑らかなグルーヴを改めて実感。エヴァーグリーンという言葉がしっくりとくる名曲とそれを実現させる名演によって、楽曲が持つ若さや瞬発力、共感度が失われずにいるのだ。

 この先も見据えて……という趣旨の発言も出た。やはりICEは時代の潮流に左右されずに洗練された音楽を、ファッションにおもねることないグルーヴを響かせていくユニット。これからのICEに、過去の焼き直しやナツメロとは一線を画したグッドミュージックの継続を期待してやまない。

◇◇◇

<SET LIST>
01 spirit(『SPIRIT vol.1』)
02 HEART BEAT VOICE(『ICE』)
03 ラヴァーズ・ロック(Yeah!Yeah!Yeah!)(『Speak Low』)
04 SLOW LOVE
05 WERE YOU THERE(『MIDNIGHT SKYWAY』)
~ MEDLEY ~
06 SWEETNESS(『TRUTH』)
07 FUNKY MUSIC SHO NUFF ON(『MIDNIGHT SKYWAY』)
08 LA-LA-LA(One Is Born Free)(『We're in the Mood』)
09 Medicine Street(『SOUL DIMENSION』)

10 I'M IN THE MOOD(『We're in the Mood』)
11 MOON CHILD(『Wake Up Everybody』)
12 SHERRY MY DEAR(「ECHOES」)
13 Kozmic blue(『ICE III』)
14 Quiet Dawn(『RIGHT NOW!』)
15 EYES OF YOUR MIND(『Speak Low』)
16 TELL THE TRUTH(『ICE』)
17 IT'S ALLRIGHT
18 ROCK'N' ROLL(Life goes on)(『Formula 21』)
19 SONG BIRD(Flyin')(『Speak Low』)
20 Love Makes Me Run(『SOUL DIMENSION』)
≪ENCORE≫
21 Walking On The Moon(UNRELEASED DEMO)
22 RED MOON(『SPECTRUM』)
23 PEOPLE, RIDE ON(『MIDNIGHT SKYWAY』)

<MEMBER>
国岡真由美(vo)
山下政人(ds)
小川真司(b)
崩場将夫(key)
田口慎二(g)
大石真理恵(perc)
柴田章子(cho)
鈴木精華(cho)


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