Josephcunlife107の日記

ロンドン(カナダ)生活、IVEY BUSINESS SCHOOLの日常。

クリスマス休暇① -日本食の醍醐味‐

2006年01月07日 | 
 半年振りの日本の空気は、カナダの凍てつく寒さと比較すると生温かくどこか心地良かった。16時間に及ぶ長時間フライトとアメリカン航空の乏しいサービスにより僕の体は完全に疲れ切っていた。税関審査を済ませると空港ゲートを出て両親の車に乗り込んだ。久しぶりに見る母親の顔と日本の景色は、どこか懐かしく新鮮だった。実家に戻ると期待通りにすき焼きが用意されていた。この日実家で食べたすき焼きの味は、瞬く間に僕に日本食とは何かを思い出させると同時に、僕がカナダで食べていたそれは、完全なるフェイクであり、カナダにおける食事がいかに僕の味覚を狂わせていたかを悟った。海外生活では多くの不自由に直面するが、僕にとっては食事が一番頭の痛いところだ。特に現在住んでいるロンドンは、人口に占める日本人の割合が0.003%と低く、まともな日本料理屋が一軒と数少ない中国系雑貨店がほそぼそと日本の食料品を扱う程度だ。そのような状況下において、カリフォルニア米を買い込みもっぱら自炊をしているのだが、どうにもしっくりこない。日本の繊細な味付けは、僕にってはある意味世界遺産だ。

 今回の休暇の目的は、ストレスの多かった学校生活を忘れて思い切り日本語を話すことだ。振り返ってみると、ロンドンで日本人に会う機会は月に1度か2度位で、僕自信日本語を忘れつつあった。今までの人生において、これ程長い期間日本語から離れることが無かったので、母国語を話せないことがこれほどストレスになるとは想像することができなかった。まあ、実際のところは、母国語を話す話さない以前の問題で、ストレスの原因は、極端にストイックな学校生活にあるのだが。そういう訳で、僕の今回の日本滞在は、大晦日と元旦を除くと既に予定が埋まっており、早速翌日から東京へ出かけることとなった。

 連日の外食続きで、僕の体重は日に日に増えていったのだが、蕎麦、焼き鳥、串揚げ、鍋物、刺身、豆腐料理等々、本当の日本食を食べることができて、僕はとても幸せだった。日本滞在期間中の食事は、外食と家庭料理が半々位であったが、改めて感じたのが、日本食の種類の豊富さと質の高さだ。家庭料理はそれぞれの家庭が独自の料理のスタイルを持っていて、僕にとってはベスト料理なのだが、今回考えさせられたのは、日本の居酒屋の料理のレベルとサービスの質の秀逸さである。

 居酒屋の質は、競争原理の関係上、大都市に行けば行くほど、確率的に広い選択肢と高い品質の店に恵まれる。単純に東京の居酒屋と地方の居酒屋を比較すると、どうしようもない居酒屋に遭遇する確立は、東京の方が確実に低い。人口が少なく、マーケットが小さい地方の居酒屋は、競争がそれほど厳しくないので、料理やサービスの質で差別化しなくても、それなりに営業を続けていくことができる。こういう状況ではイノベーションは生まれにくいから、チェーン店もそうでない店もそれ程大きな差は見られない。他方、東京のように競争が激しく、次から次ぎへと新規出店が相次ぐような地域では、顧客の購買力が強く、味覚や流行に敏感な顧客を惹きつけ続けるためには、新しいメニューの導入や価格競争力を高めて、他店と差別化して行かなければならい。そういう理由から地方では、名物料理を食べることを除けば、家庭料理を頂いた方が満足度が高いと考えられる。

 又、この考え方は東京都内でもあてはまり一般的に若者の町渋谷の居酒屋と銀座では顧客層の違いから、価格設定や料理の品質に大きな差がある。例えば渋谷では、料理の品質よりも価格重視の店が多いが、銀座は価格を少し高めにして、料理に一工夫している店が多い。単純な例として、渋谷のセンター外の真ん中で高級割烹を営業したところで、客が殆ど入らないのは容易に想像できる。顧客セグメントが違うのだから仕方がないのだ。

 僕は、ぷりぷりの地鶏、脂が乗った寒ブリや中とろを食べながら感無量の毎日を過ごした。最近地鶏やブリに見られる食のブランド化がますます進んでいるが、僕にしてみたらどんどんブランド化して品質を高め、競争して、消費者に美味しいものを提供して欲しいと思う。食のブランド化は、消費者にとって日本食万歳だ。松坂牛は、牛自体は病気だけれども、味は勿論のこと、見た目の肉質だってまさに芸術だ。あんな技術は世界中探したって見つけることは出来ない。食料自給率が40%程度の国が世界に名だたる料理大国の地位を築いているのは、日本の歴史のなせる業であろう。今世界中で健康志向の高まりから日本食ブームが起きている。アメリカ人の3人に2人は肥満と云われている。車社会で運動する機会が乏しい中で、マクドナルドやピザにコーラといった食生活を続けていたら当然の帰結である。アトキンソンダイエットなどステーキを食べたいだけの口実にしか聞こえない。健康食として名高い日本食への需要は大いにあるのだから、21世紀の日本が美食立国としての可能性を大いに秘めているといっても過言ではないだろう。

 こんなことを考えながらの友人達との食事は、お酒の勢いも手伝って、料理の味を更に引き立てた。僕にとって唯一の不安は、この食生活に慣れてしまうことが、僕の体にカナダ風日本食へのアレルギーを植えつけることだけだった。

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