これほど美しい映画があるものなのか?
時間を超えて見る度ごとに新鮮で鮮明な世界が確立してゆく。
とかなんとか言って、まだ4回しか見てないのだけれどこれは確かに言えること。
5年ほど前、初めてスクリーンで見た時は、一緒に行った一回り年上の人がしきりに感心していたけれど、自分的には思っていたより当たり前の映画だった。よくある話でよくまとまっている。面白いは面白いがそこまで誉めたたえる映画なのかまるでわからなかった。何が巨匠だ、何が名優だ、何が名女優だ、何が名カメラマンだ、名、名、名、そう言われているから世間はありがたがっているんじゃないのか?だいたい溝口健二って誰?京マチコ演じる若狭様はショッキングに妖しかったけど田中絹代って美人じゃないしね、ラストの方のカメラワークがどうのなんて言うけど、当たり前にしか見えなかったし…などと、へそまがりの私は思うのだった。
ところが、数年前より溝口健二の「夜の女たち」「浪速エレジー」「歌麿をめぐる五人の女たち」「噂の女」「滝の白糸」などなど見るにつけ、ああ溝口健二って面白い、どこの誰より面白い、あの感じ、あの人がいる感じ、あの在る感じ。熱いのに暑苦しさは微塵もなく優しい感じ。距離感も時間も超えた在る感じ。「雨月物語」に関しては印象は消えないにしても、まとまりすぎていて面白くない、他の見ていないものをとにかく見てみよう、などとまだまだ嘯いていた。
そして、ある程度溝口健二作品を見尽くした頃…自分の中で最初に面白いと思った「夜の女たち」、そして「雨月~」をレンタルして見た。あれやあれや「雨月~」って隙間がない。空間が埋め尽くされている。どこを見ても面白い。それからだ。川辺を歩いていてふと涼やかな風の薫りを感じた時、映画終盤の田中絹代の聞こえぬ声を感じるようになったのは。優しい沁みるようなあのナレーション。
最近テレビで放映されていた。前見た時より面白い。
そしてまたDVDを借りてどうなんだろうと確かめたらまた面白い。情報量がどれだけ多いのだろう。飽きることがまるでない。かえって何かが新しい。
あの世の人たちにさえ、いや霊的存在だからこそ惚れる森雅之の漏れだすような色気。そこからつながるあっちの世界とこっちの世界。幽玄?叙情?自然の力の砂地獄に堕ちて行く風情。源十郎が森雅之でなかったら若狭様も宮木もあんなに奇麗でないかもしれないと思えるほど、彼はみっともなくて美しい。
若狭様と源十郎の桃源郷のような世界、源十郎が帰ってあたりまえに世話をし針仕事する宮木、本当に美しい。
どれだけ緻密な仕事をしたんだろう。いまさらながらに監督やそれに応えたスタッフの凄さに感謝を捧げたい。
(1953/日本/監:溝口健二)
時間を超えて見る度ごとに新鮮で鮮明な世界が確立してゆく。
とかなんとか言って、まだ4回しか見てないのだけれどこれは確かに言えること。
5年ほど前、初めてスクリーンで見た時は、一緒に行った一回り年上の人がしきりに感心していたけれど、自分的には思っていたより当たり前の映画だった。よくある話でよくまとまっている。面白いは面白いがそこまで誉めたたえる映画なのかまるでわからなかった。何が巨匠だ、何が名優だ、何が名女優だ、何が名カメラマンだ、名、名、名、そう言われているから世間はありがたがっているんじゃないのか?だいたい溝口健二って誰?京マチコ演じる若狭様はショッキングに妖しかったけど田中絹代って美人じゃないしね、ラストの方のカメラワークがどうのなんて言うけど、当たり前にしか見えなかったし…などと、へそまがりの私は思うのだった。
ところが、数年前より溝口健二の「夜の女たち」「浪速エレジー」「歌麿をめぐる五人の女たち」「噂の女」「滝の白糸」などなど見るにつけ、ああ溝口健二って面白い、どこの誰より面白い、あの感じ、あの人がいる感じ、あの在る感じ。熱いのに暑苦しさは微塵もなく優しい感じ。距離感も時間も超えた在る感じ。「雨月物語」に関しては印象は消えないにしても、まとまりすぎていて面白くない、他の見ていないものをとにかく見てみよう、などとまだまだ嘯いていた。
そして、ある程度溝口健二作品を見尽くした頃…自分の中で最初に面白いと思った「夜の女たち」、そして「雨月~」をレンタルして見た。あれやあれや「雨月~」って隙間がない。空間が埋め尽くされている。どこを見ても面白い。それからだ。川辺を歩いていてふと涼やかな風の薫りを感じた時、映画終盤の田中絹代の聞こえぬ声を感じるようになったのは。優しい沁みるようなあのナレーション。
最近テレビで放映されていた。前見た時より面白い。
そしてまたDVDを借りてどうなんだろうと確かめたらまた面白い。情報量がどれだけ多いのだろう。飽きることがまるでない。かえって何かが新しい。
あの世の人たちにさえ、いや霊的存在だからこそ惚れる森雅之の漏れだすような色気。そこからつながるあっちの世界とこっちの世界。幽玄?叙情?自然の力の砂地獄に堕ちて行く風情。源十郎が森雅之でなかったら若狭様も宮木もあんなに奇麗でないかもしれないと思えるほど、彼はみっともなくて美しい。
若狭様と源十郎の桃源郷のような世界、源十郎が帰ってあたりまえに世話をし針仕事する宮木、本当に美しい。
どれだけ緻密な仕事をしたんだろう。いまさらながらに監督やそれに応えたスタッフの凄さに感謝を捧げたい。
(1953/日本/監:溝口健二)