Cafe シネマ&シガレッツ

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黄金の輝き

★雨月物語

2010-06-21 | 映画50年代
これほど美しい映画があるものなのか?
時間を超えて見る度ごとに新鮮で鮮明な世界が確立してゆく。
とかなんとか言って、まだ4回しか見てないのだけれどこれは確かに言えること。


 5年ほど前、初めてスクリーンで見た時は、一緒に行った一回り年上の人がしきりに感心していたけれど、自分的には思っていたより当たり前の映画だった。よくある話でよくまとまっている。面白いは面白いがそこまで誉めたたえる映画なのかまるでわからなかった。何が巨匠だ、何が名優だ、何が名女優だ、何が名カメラマンだ、名、名、名、そう言われているから世間はありがたがっているんじゃないのか?だいたい溝口健二って誰?京マチコ演じる若狭様はショッキングに妖しかったけど田中絹代って美人じゃないしね、ラストの方のカメラワークがどうのなんて言うけど、当たり前にしか見えなかったし…などと、へそまがりの私は思うのだった。
 ところが、数年前より溝口健二の「夜の女たち」「浪速エレジー」「歌麿をめぐる五人の女たち」「噂の女」「滝の白糸」などなど見るにつけ、ああ溝口健二って面白い、どこの誰より面白い、あの感じ、あの人がいる感じ、あの在る感じ。熱いのに暑苦しさは微塵もなく優しい感じ。距離感も時間も超えた在る感じ。「雨月物語」に関しては印象は消えないにしても、まとまりすぎていて面白くない、他の見ていないものをとにかく見てみよう、などとまだまだ嘯いていた。
 そして、ある程度溝口健二作品を見尽くした頃…自分の中で最初に面白いと思った「夜の女たち」、そして「雨月~」をレンタルして見た。あれやあれや「雨月~」って隙間がない。空間が埋め尽くされている。どこを見ても面白い。それからだ。川辺を歩いていてふと涼やかな風の薫りを感じた時、映画終盤の田中絹代の聞こえぬ声を感じるようになったのは。優しい沁みるようなあのナレーション。
 最近テレビで放映されていた。前見た時より面白い。
そしてまたDVDを借りてどうなんだろうと確かめたらまた面白い。情報量がどれだけ多いのだろう。飽きることがまるでない。かえって何かが新しい。
あの世の人たちにさえ、いや霊的存在だからこそ惚れる森雅之の漏れだすような色気。そこからつながるあっちの世界とこっちの世界。幽玄?叙情?自然の力の砂地獄に堕ちて行く風情。源十郎が森雅之でなかったら若狭様も宮木もあんなに奇麗でないかもしれないと思えるほど、彼はみっともなくて美しい。
若狭様と源十郎の桃源郷のような世界、源十郎が帰ってあたりまえに世話をし針仕事する宮木、本当に美しい。
どれだけ緻密な仕事をしたんだろう。いまさらながらに監督やそれに応えたスタッフの凄さに感謝を捧げたい。

(1953/日本/監:溝口健二)

★少年期

2010-06-20 | 映画50年代
春爛漫。美少年、そして憧れの教師。教師は戦争に旅立つのだ。果てしなく深く青い空、孤独に苦悩している下村教師の澄み切った心のようだ。一郎はその高潔に憧れを感じる。一郎は教師の手を見た。まさに憧れの形が目の前に存在し、そこに立ち、窓から空を眺めているのだ。ああ、下村先生…
下村は教室の黒板に「君死にたもうことなかれ…」を書いては消した。
春の突風。教師はひとり、誰に見られることもなくひとり鉄棒で大車輪をしていた。彼の元から溢れ流れてくる桜吹雪。少年一郎に、強くあれ!正しくあれ!と花びらは次々と舞ってくる。反戦の父を持つ少年一郎よ、負けるな泣くな力強く生きよ!
木下恵介監督の「少年期」は昭和初期の少年雑誌みたいだ。

本筋は、戦時下、反戦の父の家庭の一郎たち家族の苦労~戦争終了。
家族、特に母親とともに苦難と戦った一郎君の話。
少年期の彼なりの戦いの中、先生への憧憬が強く感じられ、そこが何ともいい!
甘く切ないという言葉に置き換えるのは簡単だけど、もっと言いがたい魅力。
戦争に行った先生の世界と兵隊さんが重なる。反戦思想の噂が立ち、兵隊さんが自分の家にだけ泊まりにこない夜。寂しい。次の朝、可愛がっていたニワトリが行方不明。悲しい。家を飛び出し探している一郎の目に入ったのは兵隊の行進。いるはずのない先生の面影を探す。あっちに行きたいけど行けない自分の境遇、言葉にはできず反戦の意志を示していた先生の意志…グッとくる。強く正しく生きよ!

若き日の三国連太郎は奇麗で色気のある人だ。市川崑監督のモノクロの「ビルマの竪琴」を見たときも、彼のプラトニックなホモ的色気と日本への望郷が一緒くたになって、水島の帰れない心情に深みが出ていた。
石浜朗の美少年ぶりも物凄い!マスコットにして持ち歩きたいほど可愛い。こんな子が存在したなんて奇跡?!


木下恵介の映画は「二十四の瞳」も「惜春鳥」も大嫌い。
だけど「少年期」と「陸軍」は実にいい。



(1951/日本/監:木下恵介)