Cafe シネマ&シガレッツ

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★饗宴 プラトン

2009-09-23 | 
プラトンが書いたソクラテスの対話篇。
いやはやソクラテス、カッコいい~っ!
まるで三船敏郎演じる用心棒や椿三十郎、赤ひげ!時代劇のヒーローのようです。
タフで頭が良くて正義。常識やぶりのいい男。
男が惚れる男。
軍人の美青年、アルキビアデスが彼の虜になるのも納得します。

プラトンが人づてに聞いた、悲劇戯曲家のアガトンがお祝いの宴を開いた時のお話。
「エロス(愛)を賛美しようじゃないか!」
列席者が順番に、「エロスとはこういうものだ!だから素敵!」なんてことに。
最後の出番がソクラテス!目からウロコが落ちました。
他の皆が偉いとか美しいとか賞讃していたエロス。ところが…
永遠のようで永遠でない。美しかったら美しさを求めない。善だったら善を求めない。愛される者ではなく愛する者。実は、神と阿呆の私生児。
あんなに皆が憧れていた素敵な神(?)、実は人間の中にあったのだ!なんてことになってゆくのです。何かくすぐられてしまいました。
で、そんな後に登場するのが、美青年アルキビアデス!もうソクラテスの詞に惚れちゃって、夜も昼も、蛇に噛まれて毒がまわっちゃった人みたい。この日もたまらない気持ちを酒でごまかし、酔っぱらって登場。と、思いもよらなくソクラテスがそこにいた!「彼を賞讃させてくれ」と、いままであった事を語りだします。肉体関係をもとうと思ったがソクラテスが落とせなかった事、戦場での事、エトセトラ…

哲学って堅いものかと思っていたら、そうでもなかったのでビックラしました。そして、紀元前5世紀あたりのギリシャが身近に感じた本でした。

   (「饗宴」プラトン著/久保勉訳/岩波文庫)


★哀しみのトリスターナ

2009-09-22 | 映画70年代
フラッシュバック現象ってご存知ですか?!
死ぬ直前に見る映像。
実は高校時代の冬…
新潟の冬は寒い。その朝、道路には氷が張り、その上に雪がうっすら積もっていました。
いつもは歩いて駅まで行くのですが、何故かその日は支度に手間取り、歩いて行くには遅すぎる。
かといって、電車は一時間に一本しかない。必然的に一時間の遅刻…
そこで、危険承知で自転車で駅まで行くことにしました。飛ばしに飛ばして、曲がり角を曲がったそのとき!目の前に迫り来る乗用車!道幅は狭いうえに脇の雪もあいまって逃げ道がないほど狭い!
咄嗟に判断して、大工さんの作業場の壁に追突しました。幸いにも壁はトタンで柔らかかったのでケガもせず、真っ青になって降りて来た運転していた方に学校まで送ってもらって一石二鳥でした。
そのうえ私は見たのです!壁にぶち当たるまでの数秒、いやコンマの世界かもしれませんが、フラッシュバック現象を!カタカタと回るフイルムのように過去へ過去へと画像が現れる様を!

ここまで書いたら何でそんな話するの?という方、この映画「哀しみのトリスターナ」を観た方なら納得してもらえるでしょう?
そう、この映画のラストはまさに自分が見、体験したあれと同じ現象だったのです。とりとめがあるのか無いのかさえ分らない、意味があるのかないのかもわからない、でも時として出現した夢のような懐かしいような、憧れのような感嘆符“ああ!”ブニュエルは一体何者なのでしょう?
今までは映画の中のフラッシュバックって説明みたいな物と思っていたけど、これはまさにフラッシュバックでした。
あと、この映画、時間の経過やトリスターナの心情、古い町並み、野良犬など、妙な実感があります。特に後半のトリスターナの痛いトゲトゲの恨み。

もし、これから見る方がいるのなら、ブリュエルの考えや職人技的技術を分ろうなんて思わないでただただ見て感じた方がいいと思います。何故だか復讐の暗い話なのに“ああ、そうだったのか!”なんて満足感と、あの街が自分の記憶や思い出になりました。哀しみが、時とともに昇華されて“美しい過去”になるような感覚がほんの1時間半程でで味わえます。
万歳!ブニュエル!!

【追記】
先日CS放送で再び見たら違っていた。
何が違ったんだ?訳?画像?まさか編集し直すなんてことないと思うけど…

(1970/スペイン・伊・仏/監督:ルイス・ブニュエル)