遺伝子組み換え「安全」と科学者、それでも不信感が消えない理由 Labeling GMO Foods
2018年7月23日(月)10時50分 Newsweek
はっきりと表示されれば抵抗が減るという調査結果もあるが
<食品業界と市民団体の駆け引きが続き、遺伝子組み換え作物(GMO)の表示をめぐる攻防も。科学者は安全性を保証したが......>
バラク・オバマ前米大統領が激しい議論を呼んだ「遺伝子組み換え作物(GMO)表示法案」に署名したのは2016年7月。
GMO表示が食品の売り上げに及ぼす影響に市場関係者は不安を隠せなかったが、最近の調査によると、
表示義務付けにより遺伝子組み換え(GM)食品に対する消費者の信頼感は増したようだ。
この調査は米農務省の委嘱でバーモント大学の研究チームが実施したもので、表示義務付けによって消費者の
不信感が約20%低下したという。情報開示により、GM食品へのネガティブなイメージが多少なりとも
払拭されたのだろう。
研究チームはまず、全米の先陣を切って2016年7月に独自のGMO表示法を施行したバーモント州で、
住民8000人近くに聞き取り調査を行った。すると、州法の施行前は、他州の住民に比べてGM食品への抵抗感が
強かったが、州内の販売食品にGMO表示が義務付けられ、自分の判断で食品を選べるようになると抵抗感は減った。
その時点でまだ表示が義務付けられていなかったほかの州では、抵抗は強まる一方だった。バーモント州の州法は
食品のパッケージにGM原材料に関する情報を明記するよう定めていたが、この州法が発効した直後に、
オバマ政権はバーモント州法よりも緩い連邦法を成立させた。
連邦法では生産者・食品メーカーは3つの表示方法のいずれかを選択できる。GM原材料が含まれることを
パッケージに明記するか、農務省が作成したGMOのシンボルマークを付けるか、スマートフォンで読み取れる
バーコードを表示し、インターネット上で情報を提供するかだ。連邦法の成立に伴い、バーモント州法は効力を
失ったが、一部の食品は州独自の表示を続けている。
好感度アップを狙っても
連邦法の成立を受けて農務省は表示の基準作りを進めたが、その際、意図的に「ジェネティカリー・モディファイド
(遺伝子組み換え)」というよく知られた表現の代わりに、「バイオエンジニアード(生物工学技術による)」
という文言を採用。その頭文字BEをあしらった消費者受けのするシンボルマークを提案している。
だが、これは「業界のためのプロパガンダ」だと、食品安全センターのジョージ・キンブレルは怒る。
「急に呼び方を変えてBEという用語を使えば、消費者に誤解を与え混乱を招く」
合理的判断よりも感情的反応
言い回しを変えても、消費者の抵抗感は減らないかもしれない。国際食品情報会議(IFIC)の調査では、
「BE原材料を含む可能性がある」と表示されたキャノーラ油について、回答者のほぼ60%が健康に及ぼす影響が
気になると答えた。
この調査結果はバーモント大チームの調査結果と矛盾するが、背景には消費者の戸惑いがあると、ジョージア大学の
ウェイン・パロット教授(作物遺伝学)は言う。「食べ物については合理的な判断よりも、感情的な反応が先行しやすい」
GMOをめぐる議論では推進派・反対派双方の主張が過熱し、消費者をさらに混乱させている。
IFICの2006年の調査では、GM食品を「避ける」と答えた人は皆無だったが、その後消費者の不安は増幅。
科学者のほぼ9割がGM食品の安全性を認めているが、アメリカ人を対象にしたピュー・リサーチセンターの
2015年の調査では、回答者の半数以上が安全性を疑問視していた。
パロットはこうした状況はすぐには変わらないとみている。「GM食品をめぐる議論は20年続いてきて、
さらに20年続きそうだ。消費者の考えも揺らいでいて、簡単には把握できない」
[Newsweek 2018年7月24日号掲載]