イランと経済で結びつき?トランプ大統領の厳しい声明に エネルギー調達の多様化。国益重視の安倍首相の選択は?
トランプ米大統領がイランとの核合意の見直しに乗り出すかもしれないという新たな脅威がある中、安倍首相は米ニューヨークで
開かれた国連総会の場でイランのロウハニ大統領からイラン訪問の招待を受け、機会を捉えて訪問を実現したいとの意欲を示した。
トランプ大統領とは異なり、安倍首相が日本とイランの関係を政治的ではなく、より経済的な立場から見ている可能性はあるのだろう
か?ロシアの東洋学者、歴史学者、政治学者、国際関係の専門家であり日本研究者のドミトリー・ストレリツォフ氏は、安倍首相の
外交政策は現在ひときわ実用的な性格を有しており、まず第一に日本の国益に基づいているため、政治的な立場を排除することは
できないとの見方を示し、次のように語っている-
これは世界における米国の主導権が弱まっていることと関係している。同時に日本の経済的ニーズも多くにおいて変わっていない。
これは1980年代からイランの動向と関係しており、日本はそれを用いてエネルギー資源の多様化戦略を実現してきた。イランとの
エネルギー資源の供給に関する合意は、サダム・フセイン時代に締結された。
その後、日本企業はイランの「アザデガン」油田開発に参入した。これはイランと日本の経済協力における最も重要なプロジェクトと
みなされた。2004年、日本は中東で最も豊かな油田の一つである「アザデガン」の開発権75%を獲得した。「アザデガン」油田は、
イランの国境地帯にある巨大油田で、1999年に発見された。同油田は、サウジアラビアのガワール油田、クウェートのブルガン
油田に次ぎ世界第3位の規模を誇る。なおガワール油田はサウジアラビアの総産油量の半分以上を占めており、ブルガン油田には
世界の石油確認埋蔵量の5%以上が集中している。
だが2010年に対イラン制裁が発動され、日本はイラン市場へ進出する可能性を失った。米政府は、「アザデガン」油田をイランの
核開発と関連付けた。米国の圧力にさらされた日本はイランに対するアプローチを見直し、イランの核開発に関する協議では親米の
立場を取らざるを得なくなった。そしてイラン指導部は「アザデガン」油田開発の日本の独占権の存続期間を延長する意向はないと
発表した。ストレリツォフ氏は、次のように指摘している-
イランとの核合意が締結され、ついに対イラン制裁が解除された時の日本企業の喜びや活気は理解できる。日本の企業代表団も
イランを頻繁に訪れるようになった。それはイランが再び国際的な経済関係や貿易の完全な参加国になるという大きな期待が
あったからだ。
日本が対イラン制裁を解除した直後の2016年2月、イランは日本への原油輸出量を徐々に増やし始めた。だが「核合意」の履行
から約1年後の2017年2月3日、トランプ新政権はイランに対する新たな制裁を発表した。米国とイスラエルは、イランが核開発を
放棄せず、「核合意」の後、イランの行動により「この傾向」と同国の勢力拡張が「強まる一方だ」と考えている。イランとの関係に
おける政治的側面が、再び前面に押し出されつつある。
このような状況の中で、アジア太平洋地域における米国の主要な戦略的同盟国である日本は、純粋に自国の経済的利益のために
米国の意見やG7の結束した立場に反対の姿勢をとることができるのだろうか?ストレリツォフ氏は、過去にはそのようなケースが
あったと述べ、次のように語っている-
1970年代に日本は米国に反対の立場をとった。当時も日本の根本的な経済的利益に関するものだった。それは1972年に
スタートした田中氏の多面的外交だ。その時、日本はアラブ諸国を支持し、結果的にイスラエルに反対の立場をとることになった。
日本は米国が反対したにもかかわらず、実行した。この行動は日本の経済的利益と信頼性のあるエネルギー資源の確保に
関するニーズに基づくものだった。
21世紀初頭、米国は中東地域における日本の石油戦略を転換させ、イランからリビアやイラクをはじめとした他のエネルギー
生産国(石油やガス)へ切り替えること望んだ。だがアラブ革命により、これらの国では不安定な状況が続いている。一方、中東から
供給されるエネルギー資源への日本の依存度は高まる一方だ。
同時にイランは今もサウジアラビアに次いで石油輸出国機構(OPEC)2位の産油国だ。さらにイランには約33兆1000億立方
メートルの天然ガスが埋蔵されており、ロシアに次いで世界第2位だ。
はたして日本はこれを今後10年間の経済発展戦略で考慮せずにいられるだろうか?この問いに対する明確な答えはない。
いずれにせよ、安倍首相がイランを訪問するまではわからない。
<第72回 国連総会>イランと6か国 核合意維持。 / 安倍首相・イラン ロウハニ大統領会談