中国の弁護士、米政府など提訴 「武漢にコロナ持ち込み」と主張
2020/3/30 17:31 共同通信
【北京共同】中国湖北省武漢市の弁護士が30日までに、米国が新型コロナウイルス
感染症の発生を隠した上、同市にウイルスを持ち込んだと主張し、米政府や米疾病
対策センター(CDC)などに計20万元(約300万円)の損害賠償と謝罪を求める
訴訟を武漢の裁判所に起こした。米政府系放送局、ラジオフリーアジア(RFA)が
伝えた。
「武漢市民」として20日に訴えを起こしたのは武漢の法律事務所に所属する
梁旭光氏。中国外務省の趙立堅副報道局長も「米軍が感染症を武漢市に持ち込んだの
かもしれない」と主張しており、梁氏は政府に「呼応するため」の提訴だと説明している。
米国で連発、新型コロナ拡散で中国相手に集団訴訟
感染拡大の原因追及に立ち上がったネバダの腕利き弁護士
2020.3.31(火) JBpress (山田敏弘:国際ジャーナリスト)
新型コロナウイルスを「米軍が武漢に持ち込んだ」などとツイートした中国外務省の趙立堅報道官
新型コロナウイルスの猛威により、世界中で都市封鎖や外出自粛が広がる中、
ウイルスの震源地とされる中国は、まだ自分たちの責任を転嫁しようとしている。
中国外務省の趙立堅報道官は3月12日、「米軍が武漢にウイルスを持ち込んだのかも
しれない」とツイート。さらに13日には、新型コロナウイルスは、中国ではなく米国の
製造した生物兵器であると指摘する記事をリツイートした。これを機に、中国のネット
世論も沸騰、武漢で2019年10月に行われた軍人のスポーツ大会「ミリタリーワールド
ゲームズ」に、米国は280人を超える選手団とスタッフを送り込んでいるが、彼らが
武漢に新型コロナウイルスを持ち込んだという批判が渦巻く事態に発展した。
趙立堅報道官のツイートは、明らかに隠蔽工作を含む初動のミスを誤魔化そうと
しているのは見え見えで、中国やロシアなど以外ではこうした情報操作は一蹴されている。
ただこの情報戦は米国を巻き込み、互いの応酬が続いており、米トランプ政権側は
「武漢ウイルス」「中国ウイルス」などと反撃した。
そんな中、米国でさらに中国の責任を明確にしようとする動きが起きている。
中国政府に対する集団訴訟がフロリダ州、テキサス州、ネバダ州で起きているのだ。
テキサスの訴訟代理人は保守系活動家
とはいえ、国家に対する訴訟は国家免責が働く可能性、つまり中国は主権国家なので
米国の裁判所の管轄に服することを免除される可能性がある。もちろん弁護士もそんな
ことはわかっていて訴訟に乗り出しているだろう。ただ、それぞれの裁判の内容・背景は
それぞれ違うが、特に3州のなかでもネバダ州の訴訟では、他とは少し様相が違う。
凄腕の弁護士がかなり大々的に訴訟を喧伝しており、展開次第では中国に大きなダメージ
を与える結果になるかもしれないのだ。
そもそも各州から起きている訴訟とはどんなものか、一つずつ見ていってみよう。
まずテキサス州の集団訴訟の原告団弁護士は知る人ぞ知る保守系活動家であもる
ラリー・クレイマン氏で、原告団は彼の活動母体である「フリーダム・ウォッチ」、
そしてテキサス州で高校スポーツの写真撮影を行う企業「バズ・フォト」などと
なっている。ラリー・クレイマン氏はこれまでも陰謀論を根拠にフリーダム・ウォッチを
使って訴訟を行ってきたことで悪名高い。
そしてこのバズ・フォトという会社が、新型コロナウイルスによって学校が封鎖する
などしたことで破産寸前に追い込まれていると訴えている。
訴状を見ると、相手は中国政府、人民解放軍、武漢ウイルス研究所、同研究所の石正麗氏、
人民解放軍の陳薇少将となっている。クレイマンらは、中国側に対し、「違法で、
国際的に禁止されている中国・武漢にある生物兵器施設から新型コロナウイルスを出した
結果による甚大な被害」を受けたとし、少なくとも20兆ドルの損害賠償を求めている。
要するに、中国政府が違法な生物兵器を製造して世界に放ったと指摘しているのである。
ただ学者の多くが新型コロナウイルスは人工ではないと否定している。
そして、クレイマンは、過去に民主党のビル・クリントン大統領やヒラリー・クリントン
元大統領候補を何度も訴え、さらにバラク・オバマ前大統領を繰り返し「イスラム教徒」で
あると主張し続けたり、アジア系アメリカ人を差別する発言をしたりしてきた人物で
あることが話題になっている。そんな事情もあり、このテキサスの集団訴訟を醒めた目で
見ている人も少なくない。
フロリダの裁判はよくある集団訴訟
またフロリダ州の訴訟は、個人数名と企業など多数が、新型コロナウイルスで被害を
被ったとして中国政府と国家衛生健康委員会、応急管理部、民政部、湖北省政府、
武漢市政府を相手取って起こしたものだ。
その訴状を読むと、中国政府は自分たちの経済的な利害のために、深刻な状況を
知りながら感染を食い止めることに失敗、新型コロナウイルスの発生を報告せずに
済ませようとしたと指摘。さらに、中国には生物兵器の研究施設が2つあるが、
そのうちの一つが武漢にある武漢ウイルス研究所のレベル4のウイルスラボで、
そこから新型コロナウイルスが漏れたとの説や、ラボで使われた動物を今回のコロナ
ウイルスが発生したとされる市場に売ったという説があり、そうした原因が世界的
流行を巻き起こした、と非難している。
この種の裁判は訴訟社会・アメリカではよく聞く話であり、実害を受けた小規模の
人たちが集まって、あわよくば金銭的な賠償を得ようと漠然と訴えた、という感じは
否めない。
だが、これらテキサスやフロリダの訴訟と比べて、ネバダ州の訴訟は米国でも注目
されている。
3月23日、ネバダ州ラスベガスで、原告団の代理人を務めるロバート・エグレット氏が
記者会見を行った。ネバダ州のケースでは、原告は、全米の3200万にのぼる中小企業
(従業員が500人以下に限定)。そのうち、全米で100万以上の小規模のビジネスなどが、
大幅にビジネスを縮小したり、閉鎖を余儀なくされたりしているとし、その損出額は
数千億ドル規模になると指摘している。現在のような状況が続けば、被害額はさらに
膨れ上がるとも懸念を示した。
ネバダの原告団を率いるのは腕利き弁護士
この会見はネットでも生放送された。エグレット氏は、「この訴訟と申し立ては、
中国政府に対して行っており、中国人に対してではないことを強調したい。アメリカの
中国人や、本土の中国人もまた、世界中の人たちと同じく、中国政府の行為と非行動の
被害者である」と強調した。
同氏はさらに、この訴訟は小規模ビジネスを救うためだとし、「中国側にしっかりと
聞いてもらいたいのは、中国政府の無責任さとこの感染拡大への対処のせいで、
大勢の死者や損失が出ていることに対して、アメリカの小規模ビジネスはただ黙って
傍観し、見過ごすことはできないことだ」と主張している。またテレワークやリモートで
仕事をするよう勧める話もあるが、レストランや小売業など遠隔ではできないビジネスも
多く、こうした人たちは救いがないともいう。
訴状によれば、原告は、中国政府が「欺瞞行為や、誤った情報を流し、隠蔽し、
証拠隠滅を行った」と指摘する。そして、中国政府は情報を共有する代わりに、医師や
科学者、ジャーナリスト、弁護士らを脅迫し、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)
が拡散させるのを許したという。最初から情報を透明性を持って公開していれば、
ここまでの惨事にはならなかったと、エグレット氏は述べている。
このケースが他州の集団訴訟と一線を画しているのは、原告団の規模の大きさもさる
ことながら、エグレット氏がよく知られた弁護士でもあるからだ。
例えば、同氏は、2017年にラスベガスで発生した前代未聞の銃乱射事件で被害者側の
集団訴訟を担当した。この事件では、ラスベガスのホテル「マンダレイ・ベイ」の
一室から野外コンサートを楽しんでいた人たちに向けて銃が乱射され、58人が死亡し、
850人以上が負傷した。この被害者側と、管理不行き届きを指摘されたホテルとは
2019年に最大8億ドルで和解が成立している。この件以外にも、ネバダを中心に大きな
ケースを扱っている。
今回の感染規模は世界を文字通り揺るがすレベルであり、その原因は中国政府の
初動にあるとの批判は方々で指摘されている。そこから生まれた被害について、
原因をきっちりと追求し、損害賠償を求めていくのは当然の権利だと言えるかもしれない。
エグレット氏は、国家の主権免責についても、米連邦などの定める「米国に直接被害の
ある米国領土外の行為」を根拠に戦うという。
さらに同氏は、「地球の住民」として、米国だけではなく世界が一緒になって、
未来のためにも中国政府にきちんと責任を問うべきだと主張する。こうした動きが
世界中で起きれば、情報を隠蔽して責任転嫁をする代償は大きいと中国のみならず
世界中に知らしめることができるかもしれない。
ただこれほどの裁判となると、解決するのに何年もかかるだろう。それでも、
ただ指をくわえて、拡大していく新たなコロナウイルスによる混乱を見ているわけには
いかないということだろう。