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<武漢ウイルス・武漢肺炎>新型コロナの感染源は日本人――インドネシア政府がついた姑息過ぎるウソの顛末

2020-03-31 05:11:48 | 医療・疾病・疫病・パンデミック・新型コロナウイルス

新型コロナの感染源は日本人――インドネシア政府がついた姑息過ぎるウソの顛末

3/30(月) 6:00配信  デイリー新潮

ジョコウィ大統領が大きく描かれた看板と紅白のインドネシア国旗がなびく、ジャカルタ市内。貧しい少年時代を過ごした大統領は庶民派として知られ、趣味はヘビメタ。民主化促進、腐敗や汚職の撲滅を掲げるが、イスラム保守派の台頭などで二期目も難しい舵取りを迫られている(ジャカルタ、筆者撮影)

 

 新型肺炎とともに「デマ」も世界で蔓延している。依然として収束しない、食料品や

トイレットペーパーの買い占めもそんなデマが招いた悲劇だ。

そんな中、インドネシアでは、外交問題にも発展した風評被害を日本人がこうむっていた。

東南アジア情勢に詳しいジャーナリストの末永恵氏がレポートする。

 ***

 「邦人保護の観点からも極めて重要な問題だ」――。新型肺炎問題で日本人が

インドネシアで差別的な扱いを受けたとして、茂木敏充外相は3月18日の衆院外務委員会で、

こう遺憾を表明した。

 

 同委員会では、外務省の水嶋光一領事局長も、インドネシアやドイツなどの国で

「日本人への差別的な扱いが生じている」との懸念を表明。茂木外相は「再発防止の

要請を行った」と政府や関係団体に抗議したことを明らかにした。

 

 コロナ騒動に端を発した日本人差別は、外交問題にも発展している。とくにインド

ネシアの場合は、国家元首が筆頭となって、その一因を招いた。

長年、インドネシアにはODA(政府開発援助)などの形で巨額の血税が投入されて

きただけに、日本政府としては、国民を納得させるだけの相当な対処が求められて

いるだろう。

 

 はじまりは、3月2日のインドネシア政府による「インドネシア初の感染者の感染源が

日本人」という公式発表だった。インドネシアで第1号、そして第2号の感染者と

されたのは、インドネシア人の娘(31)とその母親(64)。自己申告によれば、娘は

ジャカルタのクラブで日本人女性とダンスをし、“濃厚接触”。この日本人女性は隣国

マレーシアの自宅に帰った後に体調不良で入院し、新型肺炎に感染したことが明らかと

なった。その後、件のインドネシア人の母娘も体調が悪化し、病院へ。かかりつけ

医には「チフス」「気管支炎」と誤診されたというが、日本人女性が陽性だった旨が

インドネシア側に伝えられたことで、母娘も新型肺炎に罹っていたことが判明したという。

 

 当時、シンガポールやマレーシアなど近隣国で感染者数が拡大していた中にあって、

インドネシアは「感染者ゼロ」を貫いていた。東南アジア域内最大の約2憶6000万人

という人口を抱え、しかも武漢のある湖北省や四川省など中国内陸部を中心とした

中国人が年間200万人訪れる条件にあっての「ゼロ」には、インドネシア政府としても

誇りに思うところがあったのだろう。それが、日本人によって崩されたというのだ。

感染者情報開示にあたっては、国家元首に当たるジョコ・ウィドド大統領

(以下、ジョコウィ大統領)がわざわざ「日本人が感染源」と“認定”する熱の入れよう

だった。

 

 件の日本人女性がコロナに罹っていたこと、母娘が陽性だったことも事実である。

ただし問題は、母娘が日本人女性から感染した科学的な根拠は何もなかったことだ。

それだけにこのニュースは東南アジア諸国を中心にアジア各国で大きく取り上げられ、

たとえば香港の「サウス・チャイナ・モーニング・ポスト」は3月4日付紙面で

『インドネシアの国民は、コロナ危機でジョコウィ政権を信用できるか?』との

記事を掲載。このほかにもインドネシア政府の対応を非難、疑問視する声は多く

あった。

 

 それでも大統領が発表した「感染源は日本人」という説はインドネシア内で一人歩き。

風評がSNSで瞬く間に拡散され、現地を旅行したり、あるいは居住している日本人が、

さまざまな言動、行動による反日的ハラスメントをインドネシア国民から受けることと

なった。

首都ジャカルタには、人口約2億6400万人のうち、約3000万人が暮らしている。洪水、地盤沈下、交通渋滞などに長年悩まされ、ジョコウィ大統領は東カリマンタンへの首都機能移転を計画している(ジャカルタ、筆者撮影)

 

「日本人は出ていけ!」

 筆者の友人らも、罵声を浴びたり、差別を受けたりなど、ハラスメントを受けたと

証言する。「レストランで『日本人は出ていけ!』といわれた」「スーパーマーケットで

日本人とわかるや否や『コロナを持ち込むな!』」「GoCarやGRAB(※現地で盛んな

Uberのような配車サービス)を利用したら乗車拒否にあった」「スポーツクラブで

日本人は離れた場所でランニングするよういわれた、中国人は許されていたのに……」

などなど。日系企業の日本人経営者に「日本人スタッフはマスクを着用させるべき」と

インドネシア人スタッフが詰め寄った、なんて事例も報告されている。

 

 在インドネシア日本大使館には、新型肺炎に関する差別やハラスメントを受けたと

いう相談が寄せられ「日本人に対する悪質な嫌がらせ等の行為に関する邦人向け相談窓口」

が設置されたほどだ。3月9日には、石井正文大使が「インドネシア在住の日本人は、

コロナウィルスの感染源ではなく、インドネシアの友人です」とのメッセージをHPに

掲載した。

 

 筆者の取材に、在インドネシア日本大使館の担当官は「嫌がらせを受けたとの相談

件数はおよそ20件ですが、これらは氷山の一角です。大使館に届けられない事情が

多くあったと認識しています」と被害実態を明かした。なかでも子供達が嫌がらせや

差別的言動にあったという。

 

「3月上旬に、日本政府として大統領府、外務省、保健省に抗議を申し入れ、再発防止を

要請しました。特定の国を名指しするようなことをしないと約束してくれましたが……」(同)

 

 英語版Wikipediaの新型肺炎国別特集内の「インドネシアのコロナウィルス」の

ページには、感染源は日本(origin-Japan)」との誤った記述もあった。これを伝えると

「外務省を通じて対処します」と担当官は即答。現在は削除されているものの、

私の指摘がなければ放置され、「インドネシアにおけるコロナの起源が日本」だとの

間違った情報が、世界に拡散してしまう恐れがあった。

 

ジャカルタの交通渋滞は、東南アジア諸国の中では、フィリピンのマニラ同様、極めて深刻だ。このため、渋滞の波を切り崩して走るゴジェックやグラブなど、バイクによる配送サービスが人気をあつめる(ジャカルタ、筆者撮影)

 

 こうした状況に対し、日本の一部メディアの中には「日本人が文句をいわないから、

狙われた」という自虐的な解説をする記事がみられた。誤解を恐れずに言えば、

私自身も、ここまでエスカレートした背景には、日本人のイメージも関係していることは

否めないと思っている。

東南アジアではとかく、優れた技術を誇り、自制心を身に着けた日本人は、“勤勉で

文句をいわない品行方正の民族”として尊敬を集めている。その一方、「だまされやすく、

怒らない、大人しい」というイメージも強い。筆者も「危険を感じたら、

『自分は中国人や韓国人だと言ったらいい』」とインドネシアメディアの友人から

忠告されたこともある。

 

 だからといって、決して、ハラスメントが許されていいわけがない。一歩間違えば

犯罪に相当する行為を「日本人が抗議しないから」という一部メディアの主張は、甚だ

お門違いの話だ。

 

 国家元首が先導するかたちで、根拠のない濡れ衣を日本人に着せたのも問題である。

以前、隣国マレーシアのマハティール首相(当時)にインタビューした際、首相は

「『日本の恥の文化』は世界的な希少価値」と語った。到底、インドネシア政府には、

理解できない価値観だろう。

 

 何より私が問題視するのは、インドネシア政府ならびにジョコウィ大統領は、意図的に

日本人に濡れ衣を着せようとしていた節がある点だ。

 

インドネシアは世界最大のイスラム教国家。街中では、ヒジャブというスカーフを着用する女の子や女性を見かける一方、近代化などに伴い、ヒジャブを全くかぶらないイスラム教徒も多い(ジャカルタ、筆者撮影)

 

大統領がついていた“ウソ”

 日本では報道されていないが、インドネシア最大の英字紙「ジャカルタ・ポスト」は、

3月13 日付オンライン記事で『“政府は国民をパニックに陥れたくなかったからだ

”――ジョコウィ大統領 新型肺炎の情報隠蔽で弁明』と報じた。コロナに関する

情報隠蔽を大統領が認めたという、衝撃的な内容だった。

 

 これはインドネシア国内の感染者急拡大を記者に問われ、大統領が明かしたもの。

「これまで(3月12日まで)新型肺炎に関する明白な情報を、あえて、開示してこなかった」

「それは国民をパニックにさせたくなかったからだ」と語ったという。

英紙「テレグラフ」はこれを受け、「インドネシア大統領 新型肺炎情報で隠蔽認める」

と大きく報じている。

 

 ジョコウィ大統領の驚くべき告白は、日本人から初の感染者が出たというのが

フェイクニュースであるということを示唆している。実際には、以前から国内の感染者の

存在を政府は認識しており、母娘は“初”でなかったと、暗に認めたことになるからだ。

であれば、そもそも「日本人から感染した」と大々的に発表する必要もなかった話である。

 

 こうした姿勢の政府には、インドネシア国民だけではなく、国際社会からも疑いの

目が向けられている。先般、WHO(国際保健機関)は「東南アジア諸国は新型肺炎への

対策を積極的に早期に対応するよう」と懸念を表明した。名指しこそしていないものの、

世界最大のイスラム教国家で世界4位の人口を抱えるインドネシアへの危惧である。

 

 なにせ、インドネシアにおける感染拡大は深刻だ。3月27日現在で「感染者数893人、

死者数87人」と死者数はアジアで中国、韓国に次ぎ、東南アジアでは最大。致死率では、

イタリアとほぼ同じの、約10%となった。日によっては、致死率はイタリアを上回る。

「感染者ゼロ」の国から「致死率世界一」の国になったということだ。

 

 先週、インドネシア政府は「感染者数は60万から70万人にのぼる可能性がある」と

発表しているが、これは楽観的すぎる見立てだ。国際的なシンクタンクなどは

「2億6400万人の人口の半数に相当する人が感染している可能性がある」と警鐘を

鳴らしている。ちなみに欧州の感染者数は10数万人だ。

 

 実はインドネシアでは、以前からデング熱が大流行していた。年始から3月10日までの

間だけでも、全土で1万7781人が感染し、104人が死亡したという(保健省発表)。

これについて、インドネシア赤十字総裁で元副大統領のユスフ・カラ氏は

「新型肺炎をデング熱と診断してきたのでは」との危惧を語っている(米ニューヨーク

タイムズ紙)。同様の分析はハーバード大学などの国際的医療機関も行っているから、

実際には、把握されている以上に、インドネシアでコロナウィルスがすでに蔓延している

可能性がある。

 

 3月23日には、オーストラリアのABC国営放送が「インドネシア 新型コロナウイルスで

致死率世界一 実態とかけ離れた感染者報告数」と報じ、「4月末までに感染は大拡大

するだろう」という専門家の解説を紹介していた。インドネシアが「世界最大の感染国

」になってしまう可能性は、非常に高いといえるのだ――。

 

末永恵(すえなが・めぐみ)
マレーシア在住ジャーナリスト。マレーシア外国特派員記者クラブに所属。米国留学(米政府奨学金取得)後、産経新聞社入社。東京本社外信部、経済部記者として経済産業省、外務省、農水省などの記者クラブなどに所属。その後、独立しフリージャーナリストに。取材活動のほか、大阪大学特任准教授、マラヤ大学客員教授も歴任。

 


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