中国が「聖誕節(クリスマス)」をやめた理由
Santa Claus Isn't Coming to Town
<ここ数十年の間に、中国各地でキリスト教徒、キリスト教会が増えたことを、中国政府は
怖がっている>
「抵制洋節是文化自卑(西洋の祭りをボイコットするのは西洋文化に劣等感があるからだ!)」。
18年の年末、中国の名門・北京大学のキャンパスで、1人の青年がマスクをかけ、抗議書を
持ちながら無言のまま立っていた。
18年の「聖誕節(クリスマス)」の中国はいつもより寂しかった。普段なら、セールや
パーティーで中国の町はクリスマスの色彩に覆われる。この西洋の祭りの人気は中国伝統の
春節と肩を並べるほどだ。
しかし、18年は状況が一変した。各地方政府は「町の公共場所でクリスマスの飾りは禁止」という
命令を出した。学校の先生も学生たちを率いて、「私は中国人、中国人は中国の祭りを祝い、
中華民族の伝統を守る。西洋の祭りを遠ざけ、お祝いはしない」と誓った。
なぜこんな誓いが? それは17年に中国政府が「中国の優秀な伝統文化を伝承・発展する
プロジェクトの実施に関する意見」という指示を出したからだ。確かに政府の指示には西洋の
祭りを禁止すべきという明言は一切なかったが、地方の役人は指示の真意をきちんと理解して、
クリスマスを厳しく取り締まり始めた。中国式の「あうんの呼吸」というべき役人文化だろう。
この数十年間、キリスト教徒が増えるにつれ、中国各地でキリスト教会も増えていた。
政府はこれをすごく怖がった。中国の歴史を見れば分かるだろう。中国の王朝の移り変わりは、
いつも信仰の移り変わりから始まるのだ。
キリスト教会の閉鎖が相次ぎ、教会取り壊しや聖書を燃やすなどの宗教弾圧事件もネットに
流れている。徹底的に取り締まるつもりなのか、今度はキリスト教徒でなく、ただ単純に西洋の
祭りの娯楽性が好きな子供と若者に対しても、伝統文化を守ろうというカードを切って
クリスマスをはじめとする西洋の祝祭を禁止し始めた。
ただあまりに度が過ぎるので、中国のネット上には不満の声があふれている。中にはこんな皮肉な
投稿もあった。
「クリスマスなどの西洋の祭りをボイコットするのは、西洋の価値観が嫌いだからだろう?
そうならさっさとマルクス主義もやめよう。あれは中国の伝統ではなく西洋のものだよ!」
【ポイント】
「中国の優秀な伝統文化......に関する意見」
17年1月に共産党と国務院が地方政府宛てに通知。「春節など伝統的祝日を振興するプロジェクトを実施し、豊かな祝日の習わしをつくる」ことを求めた。
キリスト教会の閉鎖
中国憲法は表向き信仰の自由を認めているが、政府非公認の「地下教会」の弾圧を強化。信者の拘束や教会の閉鎖、聖書の焼却を続けている。18年12月にも成都で160人が拘束された。
<Newsweek 2018年01年22日号掲載>