中国「一帯一路」国際会議が閉幕、青空に立ち込める暗雲
<北京市で開催された「一帯一路」国際会議。巨大イベントの成功のため、庶民の生活が犠牲になったが、より
スケールの大きな「労民傷財」が進行しているのではとの不安の声が出ている>
2017年5月14日、15日の2日間、北京市で「一帯一路」国際会議が開催された。中国からヨーロッパまでユーラシアを
横断する巨大経済圏構想「一帯一路」の参加国、協力国の首脳、代表団が集まる一大イベントだ。
習近平政権は毎年、大規模イベントを開催し、成果作りを続けてきた。2014年にはアジア太平洋経済協力会議
(APEC)首脳会議、2015年には抗日戦争勝利記念の大閲兵式、2016年にはG20サミット、そして今年の一帯一路国
際会議だ。
中国では毎年、旧暦大みそかに中国版紅白歌合戦と呼ばれる特別番組「春節聯歓晩会(春晩)」が放送されるが、今年
は同番組内でG20サミットの成功が大々的に紹介された後、一帯一路国際会議という盛典が開催されることが強調さ
れていた。1月の時点で全中国国民を対象に、政権肝いりの巨大イベントがあると告知されていたわけだ。
巨大イベントの成功のためには、凄まじい経費と人力が注ぎ込まれる。その象徴が「青空」だ。
2014年には「APECブルー」なる言葉がネットで話題となった。開催地となる北京市では、首脳会議前に近隣の工場が
操業停止を命じられたばかりか、建設現場も工事を中止、さらには練炭を使った調理まで禁止されるという徹底した対
策がとられ、美しい青空がもたらされたのだった。
かつて伝統中国の皇帝たちは天と対話する力を有していた。その祭礼の場所が世界遺産となっている天壇(北京市内
にある史跡)である。雨乞いや水害を止めることも皇帝の仕事の一部だったのだ。習近平もまた青空をもたらす力を持っ
ている。さすがは現代の皇帝だ......と言うべきだろうか。
この習近平の力は「APECブルー」では終わらなかった。杭州で開催されたG20サミットは例外だが、その後のイベント
でも「閲兵式ブルー」、そして今年の「一帯一路ブルー」をもたらすことに成功している。
途上国のインフラ整備促進をうたっているが...
青空自体はすばらしい話だが、裏を返せば、工場の操業停止などの迷惑な話がほぼ年に1回のペースで繰り返されて
いることとなる。
ビッグイベントのたびに聞くのが「労民傷財」という言葉だ。「人民を痛めつけ、その財産を損なうこと。国費のムダ遣い」
の意である。仕事のスケジュールがめちゃくちゃになった、地下鉄の安全検査が厳しくなって史上最悪の混雑に......な
どなど無数の恨み節が聞こえてくる。
ただし、さすがに慣れてきたのか、APECの時ほどには不満は聞こえてこない。逆によりスケールの大きな「労民傷財」
が進行しているのではとの不安の声が出ている。
一帯一路は上述の通りユーラシアを横断する巨大経済圏構想だが、最終的にどのような形に発展するかはともかくとし
て、現時点では途上国のインフラ建設促進が優先課題とされている。
シルクロード基金やアジアインフラ投資銀行(AIIB)、さらには中国の国家開発銀行、中国輸出入銀行などの金融機関
を通じて、途上国に建設資金を供給し、大規模なインフラ整備を促進する計画だ。
これだけ聞けばいい話のように思えるが、そもそも論で考えてみれば、なぜ途上国のインフラ建設はこれまで進まな
かったのだろうか。金がないから、ではない。世界的に金余りの状況が続くなか、マネーは有効な投資先を探している。
新興国のインフラ建設が有効な投資先ならば、中国が旗振り役とならなくても金は回っていたはずだ。
問題は、インフラはあるにこしたことはないが、投資に見合うだけの収益を上げられるのか、資金の返済は可能なの
か、環境や人権といった問題をクリアできるのか、といった点。これらがネックになって投資が進まなかったのだ。
国内で行き詰まりを見せた成長モデルの海外展開
そうした視点で見ると、フィナンシャル・タイムズ中国語版の5月12日付け記事がきわめて示唆的だ。
中国の対「一帯一路」沿線国向け投資は、2016年になり前年比マイナス2%と減少に転じた。2017年第1四半期は前
年同期比マイナス18%と減少幅はさらに拡大している。中国は途上国向けに貸し付ける巨大な種銭を持っているが、
問題は有望な投資案件を見つけられるかどうか、その点では苦戦が続いている。
今回の一帯一路国際会議で、習近平総書記はシルクロード基金に1000億元(約1兆6100億円)を増資すると表明した
が、種銭が増えるばかりでは問題は解決しない。また協調して融資を行う中国の金融機関にもリスクの増大に対する懸
念が広がっている。
政府の旗振りによって便益が少ない投資案件に対する投資が進めば、どのような結果を招くのか。その結果を先取りし
ているのが中国国内だ。便益の高いインフラ建設が終わった後も、建設ラッシュが続き、その結果として不必要なインフ
ラと債務が次々と積み重なっていく。
結局、一帯一路とは、中国国内で行き詰まりを見せた成長モデルを海外に展開させることで延命しているだけではない
かとのシニカルな意見もある。建設会社や重機メーカーを始めとする一帯一路関連企業にとってはチャンスでも、最終
的に投資が返ってこなければ「労民傷財」で終わってしまうと言うわけだ。
「一帯一路」がユーラシアに青空をもたらすのか、はたまた「労民傷財」で終わるのか。国際会議は成功裏に終わった
が、なお山のような課題が残されている。