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“中国の貧困”をまさかの暴露、李首相の真意とは? 全人代で飛び出した「月収1000元が6億人」発言

2020-06-06 19:28:46 | 中国・中国共産党・経済・民度・香港

“中国の貧困”をまさかの暴露、李首相の真意とは?

全人代で飛び出した「月収1000元が6億人」発言

2020.6.5(金) JBpress 日本戦略研究フォーラム 澁谷 司:JFSS政策提言委員・アジア太平洋交流学会

全国人民代表大会の記者会見に出席した李克強首相(2020年5月28日、写真:新華社)

 

 今年(2020年)5月28日、中国の李克強首相は、全国人民代表大会の記者会見で

「昨2019年、中国人の平均年収は3万元(約45万円)だった」と公表した。だが、一方で、

「中国には月収1000元(約1万5000円)の人が6億人もいる」と明かしたのである。

 

 月収1000元ということは、年収1万2000元(約18万円)にしかならない。この月収では、

1キロ30元(約450円)以上もする肉は食べられない。また、中小都市の1カ月分の家賃

にもならないだろう。

 

 一般に、貧困は「絶対的貧困」と「相対的貧困」とに分けられる。世界的には、

「絶対的貧困」は1日当たり1.90米ドル(約205円)以下の収入とされる。月収にすると

57米ドル(約6150円)、年収は684米ドル(約7万3800円)である。

 

 世界的基準から見ると、月収1000元しかない中国の6億人は「絶対的貧困」層には

当たらない。

 

 では、この月収1000元の6億の人々をどのように位置付けたら良いのだろうか。

確かに、「絶対的貧困」とは言えないが、中国国内でも平均年収額の40%しかない。

したがって、「相対的貧困」層と言えよう(ちなみに、我が国では、1人世帯の場合、

年収約122万円以下が「相対的貧困」に当たる)。

 

 問題は、月収1000元の人々が6億人も存在する中国が、(今年中に)「小康

(ややゆとりのある)社会」を実現したと言えるだろうか。もちろん“ノー”である。

 

 実は、2016年3月、王岐山 中央紀律委員会書記(当時)が、第13次5カ年計画

(2016年~2020年)で「小康社会」を実現するという目標を掲げた。

けれども、昨2019年から今年にかけ「新型コロナ」の世界的蔓延で、習近平政権は、

今年のGDP目標数値さえ打ち出すことができなかった。

 そのため、王が掲げた今年末までに「小康社会」実現という目標は、“絵に描いた餅”に

終わる公算が大きい。

 

「習近平派」に対する反撃か

 さて、この度、李克強首相は、なぜ中国共産党に“不都合な数字”を暴露したのだろうか。

 

 元来、経済に関しては、首相の“専権事項”だったはずである。ところが、前述の通り、

首相でもない王岐山が、第13次5カ年計画で「小康社会」を実現するとぶち上げた。

李首相からすれば、王による“越権行為”である。無論、それを許したのは、習近平主席

だろう。

 同時に、習主席は、かねてより劉鶴副首相を重用してきた。だから、これまで李首相

には、ほとんど出番がなかったのである。

 

 もしかすると、今回、全人代での記者会見で、李首相は「習近平派」に対する反撃を

試みたのかもしれない。習主席の「中国の夢」を打ち砕くためである。

 当然、李首相には党内で確固たる「反習近平派」の支持があると見るべきだろう。

そうでなければ、たとえ首相といえども、やすやすと中国の実態を暴露することは

できなかったはずである。

 

習近平の暴走に眉をひそめる元老たち

「反習派」の代表格は江沢民系「上海閥」に間違いない。習主席と王岐山の「反腐敗運動」

で同派は徹底的に叩きのめされた。習主席らに対する同派の深い怨みは、想像に難くない。

 

 他方、胡錦濤系「共青団」(李首相の出身母体)は、以前、微妙な立ち位置だった。

だが、現時点では「反習派」の一翼を担っているのではないだろうか。

 

 2012年11月、胡錦濤主席は辞任する際、(これ以上)「腐敗がはびこれば党が不安定

となるリスクが増し、党の統治が崩壊する可能性がある」と党内で訴えた(したがって、

最初「共青団」は習主席と王岐山の「反腐敗運動」を支援していたふしがある)。

その時、胡主席は江沢民前主席ら古参幹部に対し、習近平新指導部へ干渉しないよう、

涙ながらに訴えたと伝えられる。胡主席は、任期時、散々、江沢民元主席らから干渉を

受けたため、新指導部には自らが経験した苦労をさせたくなかったのだろう。

ところが、皮肉にも、それが習主席の“暴走”を招いたとも言えよう。

 

 実際、「反習派」は「紅2代」「紅3代」(元党幹部の2世・3世)の中にも存在する。

また、一部の元老たちは、習主席の政治手法―終身制導入や「第2文革」発動等に対し、

眉をひそめているだろう。

 

家族も離反し、四面楚歌?

 近頃、習近平夫人の彭麗媛と娘の習明沢が、習主席と別居したと報じられている。

その理由だが、彭夫人と明沢が、中国共産党による香港への武力弾圧に反発している

からだという。2人は、香港版「国家安全法」制定にも反対だと噂されている。

明沢はハーバード大学で心理学を専攻したが、香港出身の友人もいる。そのため、

香港市民に深く同情しているかもしれない。

 

 このように、目下「習近平派」は“四面楚歌”の状態にあると言っても過言ではない。

だからこそ、習政権は、香港版「国家安全法」の制定や尖閣諸島や南シナ海等で

強硬路線(「戦狼外交」?)に転じているのではないだろうか。

 

[筆者プロフィール] 澁谷 司(しぶや・つかさ)

 1953年、東京生れ。東京外国語大学中国語学科卒。同大学院「地域研究」研究科修了。関東学院大学、亜細亜大学、青山学院大学、東京外国語大学等で非常勤講師を歴任。2004~05年、台湾の明道管理学院(現、明道大学)で教鞭をとる。2011~2014年、拓殖大学海外事情研究所附属華僑研究センター長。2020年3月まで同大学海外事情研究所教授。現在、JFSS政策提言委員、アジア太平洋交流学会会長。

 専門は、現代中国政治、中台関係論、東アジア国際関係論。主な著書に『戦略を持たない日本』『中国高官が祖国を捨てる日』『人が死滅する中国汚染大陸 超複合汚染の恐怖』(経済界)、『2017年から始まる!「砂上の中華帝国」大崩壊』(電波社)等多数。

 

◎本稿は、「日本戦略研究フォーラム(JFSS)」ウェブサイトに掲載された記事を転載したものです。

 


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