インド勢力圏の国々を取り込む中国
2018年1月25日 WEDGEInfinity
英エコノミスト誌の解説記事(電子版12月19日掲載)が、中国がインドの勢力圏に当たる小国を取り込みインドに圧力をかけている
様子を描写し、インドが勢力圏を維持するのは容易でない、と指摘しています。要旨は次の通りです。
中国の王毅外相は、中国は国際問題において「勢力圏」を認めない、と言った。それはインドの勢力圏維持を認めない意がある。
インドは、宿敵パキスタンを別にすれば、周辺の小国に対し容易に優位に立ってきたが、最近、中国はますます大胆に前進し、
インドの支配に挑戦している。
12月9日には、スリランカは南岸の戦略的港湾を中国政府が支配する企業に99年リースする契約を認めた。
ネパールでは2つの共産主義政党の連合が議会選挙で地滑り的勝利を収めた。両党は、対中関係を強化し、インドと距離をとると
している。11月末には、モルディヴは、野党欠席の緊急集会を経て、中国との自由貿易協定を批准した(南アジアではパキスタンに
続き2番目)。同国は島の一つを中国の企業にリースし、大規模なインフラ計画を認めている。2014年の習近平による中国国家
主席として初の同国訪問後、軍、外交、経済関係は急速に強化された。
ネパールでも、中国は急速に浸透している。共和国となったネパールは、2015年に新憲法を制定した。インドは同憲法を国境沿いの
低地に対し不公平とみて、再び強硬姿勢を見せた。しかし、ネパール政府は経済封鎖に屈せず、一歩も後退しなかった。
ネパールは、独立を主張するため、中国とのいくつかの取引に署名した。最近の選挙で、この政策はネパールの共産党に優位に
働いた。
ネパールのインドとの関係は、経済面でも軍事面でも依然として強い。しかし、中国は、ジャーナリストや学術界に熱心に
資金供与し、対抗してきた。
インドは中国の圧力に狼狽させられるが、押し戻すこともある。昨年夏、インド軍は、中国軍による道路建設を阻止すべく、
ブータンが領有権を主張する地域(注:ドクラム高原)に進入。その介入が中国を止めた。ヒマラヤをめぐる特異な競争では、
インドは力ではないにせよ決意では中国に太刀打ちできるかもしれない。
中国対インド、ブータンと領土紛争深刻::中印、「一帯一路」巡り摩擦 / 「インドと戦う用意ある」中国が中印国境で実弾演習
しかし、インドの「勢力圏」を維持するのは容易ではない。インド経済は中国の5分の1で、インドの雑然とした民主主義は
政策決定を遅く面倒なものにしている。
さらに、インドは組織的制約に悩まされている。例えば、専門の外交官は、米国の1万3500人に対し、770人しかいない。
インドの近隣国への援助は、公共企業を通じた効率の悪いものである。そして、最近まで、インドは、同様に中国の拡張を懸念する
他の国々との協働を避けてきた。しかし、これらすべては変わりつつある。インドが屈するとは考え難い。
インドはSAARCの有用性を見直してはどうか
南アジアは、建国以来対立関係にあるパキスタンを除き、インドの勢力圏でした。それは、地域の他の諸国に比べ、
インドが圧倒的な大国であったためです。
それが近年の中国の対外進出により一変しました。特にインド洋を中心とする海上交通路は、中国の中東からの石油輸送の
シーレーンであることもあり、中国の関心が高まりました。いわゆる「真珠の首飾り作戦」は、インド洋を通るものであり、
最近では一帯一路の一路がそうです。
中国戦略の「真珠の首飾り」
中国は、解説記事が指摘する通り、伝統的なインドの勢力圏に属する各国に積極的に取り入っています。
中国の武器は資金です。個別の融資に加え、2014年末に設立したシルクロード資金(400億ドル)、2015年に発足したアジア
インフラ投資銀行(資本金1,000億ドル)を使って港湾の整備などを積極的に行おうとしています。インド洋地域の国はほとんどが
貧しく、中国の融資は魅力的です。例えばモルディヴは、島の一つを中国企業にリースし、他の中国企業のいくつかに大規模な
インフラ計画を認めていると言います。モルディヴの負債の75%は中国とのことで、今やモルディヴを支えているのは中国という
状況になっています。
南アジア、インド洋地域で中国の影響力、権益は拡大しており、インドは守勢に立たされています。
懸念すべきは、このような中国の海上権益の増大が、通商面にとどまらず軍事面にまで及ぶ可能性があることです。
既に中国はジブチに海軍基地を建設しています。昨年6月に米国防省は、中国はジブチの後パキスタンに軍事基地を建設する可能性が
ある、と述べています。
解説記事は、インドは中国の攻勢を受けてインドの勢力圏を維持するのに苦労してきたが、今後はインドの政策が変わるのでは
ないかと示唆しています。
しかし、インドが中国に対抗するのは容易ではないでしょう。何よりも中国の武器である資金援助について、インドの援助は効率が
悪いという前に、規模の面で中国にかなわないでしょう。
記事は、インドがこれまでインド同様中国の拡張を懸念する他の国々との協働を避けてきた、と言いますが、この点はすでに
変わりつつあります。日本もこれまで以上にインドとの協働に努めるべきでしょう。
また、南アジアには「南アジア地域協力連合(SAARC、サーク)」があります。これは印パの対立に加えて、インドが圧倒的大国で
あることにより、ASEANに比べてあまり機能していませんでした。中国の挑戦を受けている今、インドがサークの有用性を見直す
ことが望まれます。
出典:‘India faces growing competition with China in its own backyard’(Economist, December 19, 2017)
https://www.economist.com/news/asia/21732851-maldives-nepal-and-sri-lanka-are-no-longer-meek-they-used-be-india-faces-growing