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<台湾情報17-10>中国の経済圧力をかわす方法

2017-05-10 12:11:01 | 台湾 中台・国際関係

中国の経済圧力をかわす方法

2017年5月8日   WEDGE Infinity

 NAS(新アメリカ安全保障センター)のフォンテイン会長が、中国の、台湾ひいてはアジア太平洋諸国に対する経済的

圧力を成功させないためには、米台・日台FTA、その他、地域の共同対処が重要であるとする論説を、3月27日付け

ウォール・ストリート・ジャーナル紙に寄稿しています。要旨、次の通り。


 2016年の蔡英文総統選出後、中国は台湾への経済的圧力を増やしている。中国は、蔡英文に中国は一つ、との

「1992年コンセンサス」を認めるよう要求している。蔡英文がそれに応じないので、中国は、台湾の大陸委員会との対

話を停止し、台湾への中国人観光客の数を60%近くも減らした。台湾の観光産業は打撃を受けた。最近、中国は台湾

の大学に留学生削減の脅しをかけ、親中的声明を出すよう要求したと報じられている。


 貿易、投資の流れ、中台間の航空便は続いているが、中国は経済的圧迫に他の措置も加えている。馬英九時代の外

交休戦をやめ、昨年、中国はガンビアと外交関係を樹立し、サントメは外交的承認を台湾から中国に切り替えた。昨年

12月には、中国海軍の空母が台湾の東岸を通過し南シナ海に向かい、台湾海峡を通過して帰港した。


 蔡英文は、東南アジアやインドとの貿易・投資を促進し大陸への依存を減らす新たな「南方政策」で中国の経済的圧

力に対抗しようとしているが、課題は大きい。中国は、台湾の最大の貿易パートナー(台湾の輸出の40%は大陸および

香港向け)、最大の投資先である。


 台湾は、南方政策により、貿易、投資、観光の促進を目指す新たな公式の合意等を模索しているが、台湾との経済的

関係を深めるような東南アジア諸国のあらゆる公式の動きに対する中国の拒否権が、大きなハードルとなっている。


 台湾の意味ある多様化政策はもっと遠くを見て、日米などを含むべきである。トランプ政権はTPP反対、二国間協定推

進を主張しているが、台湾の当局者は米国との二国間協定の交渉への意欲を強調している。


 日本も同様の方向に動き始めるかもしれない。二国間貿易協定の台湾にとっての利益は明白だが、パートナー国に

とっても利益がある。台湾の経済は世界で25位以内の規模であり、米国の9番目の貿易パートナー(豪印より上)であ

る。日本にとり台湾は4番目の貿易パートナー(独ロより上)である。


 中国は外交政策上の結果を強要するために経済的手段を用いる。2010年に尖閣をめぐる緊張を受け日本へのレア

アース輸出を停止したし、2012年にはスカボロー礁をめぐる対立を受け、フィリピンのバナナを禁輸にした。今、中国は

ミサイル防衛の配備をめぐり韓国を懲罰している。豪なども自らの脆弱性を心配している。


 こうした中国のやり方に対する共同の対処が、そうしたやり方の成功のチャンスを低下させ、地域の自由な意思決定

を保証する。民主的近隣国への威嚇の企ては屈服ではなく反発を招くとの明確なシグナルを中国に送ることが役に立

つだろう。


 中国が蔡英文政権に加えている経済・政治面での圧迫を良く描写している論説です。外交休戦の停止、国際機関で

の台湾の参加拒否なども問題ですが、中国が経済的な圧力を加え、「一つの中国」を認めさせようという動きには、特に

警戒すべきです。


 台湾が現状のままに事実上独立した状態にあることが、北東アジアの平和と安定のために重要です。そして、この現

状を維持するためには、現在の民進党、蔡英文政権が成功し、継続することが重要です。中国国民党が政権に復帰す

ることがないように、日米は蔡英文政権を支持していくべきでしょう。


ASEAN諸国に期待しても、失望させられる可能性

 ASEAN諸国も中国の経済的圧迫にさらされる危険がありますから、中国の経済的な圧力や強制には反発してくれれ

ばよいのですが、中国は分断策が得意であり、ASEAN諸国も足並みが乱れがちです。フォンテインの対中共同対処論

は望ましいことですが、あまり多くをASEAN諸国に期待しても、失望させられる可能性があります。


 蔡英文政権は、対中経済依存度をできる限り下げていくことを目指しています。経済的関係は互恵関係ですが、中国

は国家主導経済であり、経済関係を政治的に利用し得る立場にあります。したがって警戒心が必要です。


 蔡英文政権は「南方政策」で対中経済依存度を下げようとしています。日本企業が南方に投資する台湾企業と合弁を

組み、日本がそのような企業にいざという時に外交的保護権を行使し得る用意をしておくなど、協力する余地もあるで

しょう。フォンテインが言うように、台湾は日米との経済関係の深化を今以上に目指すべきでしょう。米台、日台のFTAの

締結には、中国の反対もあり得ます。形式にとらわれず、実質的に関係を強められれば良いのではないでしょうか。


 中国が経済的な強要手段で特定の国を狙い撃っている場合、WTO違反に当たる場合があると思われます。そういう

場合には、経済関係での法の支配の確立を重視し、WTOの紛争解決手続きに中国を訴えていくことを考えるべきです。

尖閣問題に関連してレアアースの対日輸出禁止がありましたが、日本などがWTOに提訴し、中国敗訴になりました。


 中国はこれからも台湾に色々な圧力を加えてくるでしょう。台湾側の希望をよく聞いて支援していくのが日本の政策の

基本であるべきです。


 台湾以外の地域諸国に対しても、中国は、経済的懲罰の圧力を今後も使ってくるでしょう。こういう中国の振舞いには

屈服せず反発すること、中国に強引な政策のコストを知らしめることが、中国の覇権主義の萌芽を止めるために必要で

す。

 

出典:Richard Fontaine,‘Taiwan’s Answer to Chinese Economic Coercion’(Wall Street Journal, March 27, 2017)