コラム:新興国襲う「大嵐」に警戒せよ
2018年6月25日 / 11:39 REUTERS
[ニューヨーク 22日 ロイター BREAKINGVIEWS] - このところアルゼンチン、メキシコ、トルコなどの
新興国市場が不安定な動きを見せているが、この程度で済むと思ってはならない。市場は今後数週間、数カ月中に
顕現化するであろう新興各国の緊張や課題、そして世界的な金融環境の急速な変化を十分に認識できていない。
現在の動揺は大嵐の前触れに過ぎないのだ。
ブラジル、インド、インドネシア、トルコ、南アフリカなど、非常に多くの国々で経常収支の赤字が拡大している。
そして中南米、アフリカ、トルコなどの国々や企業はこれまで、海外の潤沢な流動性を利用して外貨で多額の
借り入れを積み上げてきた。
米連邦準備理事会(FRB)はバランスシートを縮小し続け、今後半年以内に少なくとも2度の利上げを行う見通し。
パウエル議長は金融引き締めによる新興国通貨への影響を認識しつつも、これまでの政策運営でその要因を考慮に
入れておらず、今後もそうだろう
欧州中央銀行(ECB)も量的緩和を終了する計画だ。こちらはユーロ圏自体の要因によって米国より緩やかな
調整となるだろう。
あまりにも多くの機関や個人が世界金融危機の教訓に学ばない行動を取っているため、市場への圧力は増幅するだろう。
利回りを求め、痛手を被ることが分かり切っているのに、目先の利益確保に専念しているのだ。
先進国が高失業率、低い生産性伸び率、低成長、記録的な低金利という局面から脱したことに、気付いている
投資家はほとんどいない。米国を中心に、経済はより正常な環境に戻っており、金融引き締めによって、
金融市場のすみずみに潜んでいる脆弱性が露わになっていくだろう。
時を同じくして、中国も金融面の課題に取り組む必要に駆られている。私は権力基盤を強化した習近平国家主席
が今後、従来よりやや低い成長率を看過すると予想している。これは国内総生産(GDP)対比で250%を超える
債務の制御に欠かせない。
中国の景気減速は多くの資源輸出国にも打撃を及ぼすだろう。さらには国際エネルギー価格の見通しが
不透明になっており、価格が上昇すれば、新興国の中でも石油輸入国の市場と通貨への重圧が増すとみられる。
こうした難局に立ち向かう上で政治が重大な影響を持つだろうが、断固とした行動を取れそうな政府はほとんど
見当たらない。2015年末に就任したアルゼンチンのマクリ大統領は「漸進主義的な」改革を進めるという
失敗を犯し、来年10月に国政選挙を控えるこの時期になって国際通貨基金(IMF)の支援を仰ぎ、
より強固な財政健全化に取り組む決意をした。
24日のトルコ大統領選では、エルドアン大統領が勝利宣言しており、同国への投資には悪影響が及ぶだろう。
メキシコとブラジルも今年、国政選挙を控え、いずれも政治のマヒ状態につながりそうだ。
メキシコは7月1日の大統領選で左派野党のロペスオブラドール元メキシコ市長が勝利しそうだ。
現政権が深刻な汚職に対処できなかったとの国民の不満が背景にある。
同国の選挙制度では議会選挙も7月に実施されるが、新議会の発足は9月、新大統領の就任は12月を
待たねばならない。つまり最長6カ月もレームダック政府が居座ることになるが、この間メキシコは米国から
前代未聞の保護主義的な圧力にさらされる見通しだ。
ブラジル大統領選で誰が勝つかは不透明な情勢。最も人気のある政治家のルラ元大統領が収賄罪で服役中だからだ。
結果が予測できない選挙がこれほど多く控えている局面は珍しい。
ここまで書いてきた大嵐シナリオを締めくくるにあたり、米政府に注目しないわけにはいかない。
1930年代以来、今ほど世界の貿易制度が大きな脅威にさらされたことはない。当時は近隣窮乏化政策が
悲惨な結末につながった。現在、米国とその貿易相手国の間で、貿易戦争の火ぶたは切られた。
今後さらに多くの国がこれに続くだろう。
輸出は大半の新興国の生命線だ。米政府の行動はその輸出を圧迫し、世界市場の緊張を激化させかねない。
すべての国々とすべての投資家が、敗者になるだろう。
*筆者のウィリアム・ローズ氏はシティグループの元上級副会長で、現在はウィリアム・R・ローズ・グローバル・アドバイザーズの社長兼最高経営責任者=CEO。著書に「国際金融危機にどう立ち向かうか─最前線で学んだリーダーシップ」。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。