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アメリカがギュレン師をトルコに引き渡せない5つの理由

2016-07-20 10:15:51 | トルコ

アメリカがギュレン師をトルコに引き渡せない5つの理由

2016年07月19日(火)15時00分 Newsweek
 

<トルコのエルドアン政権は、クーデター未遂に関与したとしてアメリカに滞在中のイスラム教指導者ギュレン師の引き渡しを求めてい る。しかし確たる証拠も提示されない中で、アメリカがこの要求に応じることは考えにくく、結果としてトルコと欧米側の関係が悪化する可能性もある>

(写真はペンシルベニア州の自宅で取材に応じるギュレン師〔2013年9月撮影〕)


 先週末にトルコで発生した「クーデター未遂」事件に関して、トルコのエルドアン政権は、

アメリカに亡命している宗教指導者ギュレン師の引き渡しを要求し ています。

同師が事件の黒幕だというのですが、これに対してアメリカのケリー国務長官は引き渡しを拒否する考えのようです。

 その理由としては色々ありますが、5点議論してみたいと思います。

 ◆1点目は非常に基本的な法律論です。ケリー長官によれば、犯罪行為に加担したという証拠がなければ、身柄の引き渡しはアメリ

カの国内法上許されな いし、何よりもアメリカの裁判所からそのような執行命令は出せないということです。

ケリー長官は最初からこうした姿勢を示していますが、トルコのユルデゥ ルム首相からは具体的な「証拠」の提示はありません。

 ◆2点目は人道的な判断です。政治的迫害を理由に事実上亡命してきている人物を、その迫害者のところへ送還することは、人道上

の問題になります。特 に今回のトルコでは、EU加盟の可能性を失うことを覚悟しつつ「死刑復活」の論議が始まっていること、ギュレン

派の人々に対する大統領支持派による殴打の 様子を映した写真が出回っていることなどから、迫害が行われているのが明白だという

こともあります。

 

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 ◆3点目は宗教上の問題です。ギュレン運動というのは、政教分離、世俗主義との整合性を掲げた穏健な教義で知られます。欧米に

とっては、イスラム教 の教派の中でも最も理解しやすい考え方です。

地元のペンシルバニア州「ポコノ地方」の新聞によれば、ギュレン師の立場というのは、原理主義の対極にあるも のだとして、仮にタリ

バンがブッシュ前大統領とギュレン師を捕まえたとしたら、ギュレン師に先に危害を加えるだろうと書かれていました。

その例えが適切か どうかは別として、そのような人々に迫害が加えられている中で、指導者を送還するという判断は取りにくいと思わ

れます。

 ◆4点目は政治的な問題です。

トルコのエルドアン政権は、6月末にロシアのプーチン大統領との劇的な関係改善を行うなど、シリア情勢への関与、 ISIL対策の問題

などで米欧との協調姿勢から外れつつあります。そのような中で、原則論を曲げてまで関係改善を図る政治的な環境にはないことがあ

りま す。

 

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 ◆5点目は地理的な問題です。現在ギュレン師が居を構えているのは、ペンシルベニア州のセイラーズバーグという場所です。

このセイラーズバーグというのは、州北東部にある「ポコノ山地」という高原地帯の入り口にある閑静な山間部のコミュニティです。

 筆者の住んでいるニュージャージーからは車で1時間半程度の距離で、ニューヨーク州の北部やペンシルベニア州の北部に用事の

ある際には良く通る州 道の高速33号線に沿ったところにあります。本当に静かな山の中です。言ってみれば、ポコノが軽井沢なら、セ

イラーズバーグは松井田とか下仁田という感じ でしょうか。

都会からは離れた山地ですが、静かな住宅地、あるいは別荘地として知られています。

 興味深いのは、このセイラーズバーグにはヒンドゥー教の改革運動である、アーリヤ・サマージ系の宗教学校もあります。

そもそもアメリカというの は、旧大陸で迫害を受けた清教徒(ピューリタン)が建国しましたが、なかでもこのペンシルベニアというのは、

その設立者の一人であるウィリアム・ペンの考 え方により、特に「信教の自由」「他宗教への寛容」を徹底する考え方が今でも生きてい

ます。

 ですから、ドイツのルター派の中で近代文明を否定したり、徹底した博愛主義を唱えたりして迫害を受けた「アーミッシュ」のコミュニ

ティが、ペンシ ルベニアには今でも残っているのです。

そうした風土がアーリヤ・サマージ系の拠点となった背景にあり、亡命地としてギュレン師がここを選んだのも同じ理由 だと思います。

 そのような土地に暮らすギュレン師を、迫害される可能性が濃厚な中で、トルコに送還してエルドアン政権に引き渡すのは、アメリカ

の建国の理念そのものに反することになってしまいます。

 

 以上のように、アメリカがギュレン師の身柄をエルドアン政権に引き渡すことは、非常に考えにくく、結果として米欧とトルコの関係は

一層の冷却が進むことが考えられます。

エルドアン政権は、そこまで計算して行動している可能性もあります。

 とは言え、他の中東のイスラム諸国とは違って世俗主義を旨とするトルコで、ナショナリズムに火が付いて「反欧米」的な運動が強ま

り、大統領の求心 力を支えるような展開になるかどうかは見えにくいところがあります。

トルコで発生した「クーデター未遂」によって、ペンシルベニアの静かな高原の町はにわ かに騒々しくなっています。

最後までお読み頂きましてありがとうございます。