アーム通信(海外会員インドだより)

国際子ども権利センターの元運営委員の成田由香子が、インドのデリーで滞在する暮らしの中で体験することを伝えます。

インドの児童労働法の強化 :1

2006-10-25 02:09:32 | Weblog
<インド政府の発表:家事労働、飲食業などでの児童労働禁止>

インド政府労働省は、2006年10月9日(月)、サービス業及び使用人としての家事労働における児童労働に関するデータを発表しました。それによると、現在、インドには約1200万人の児童労働者がおり、そのうち18万5000人が家事使用人として、そして、7万人がレストランや食堂で雇用されています。

翌10月10日からは、8月1日に発表された「児童労働(禁止及び規制)法(1986年)」に、加えられた新たな規制の施行が開始しました。1986年に制定された法律は、特定の職業と作業において14歳以下の子どもの労働を禁止、あるいは労働条件を規制しています。

この法令を強化するために、今回は、児童の雇用を禁止している職業に、使用人としての家事労働、レストラン、食堂、ホテル、茶店、観光地、温泉、その他のレクリエーション施設での労働を加えたのです。

インド政府は、新たな規制によって1986年の法律に触れた人への処罰を強化すると同時に、これまで従事していた労働から解放された子どもには、国家教育政策SSA(Sarva Shiksha Abhiyan)の下で、教育の機会を提供する準備があること、これらの児童のためのシェルターを用意すると発表しました。
これをうけて、女性及び子ども開発省は、州政府に対して、この法改正後、もと児童労働者のためのシェルターの収容力を拡大するよう要請しました。


<働く子どもたち、NGOへの影響>

インドの首都デリーにも、裕福な家庭で家事使用人として雇用されている子どもや、レストランやホテルなどで働いている子どもがたくさんいます。10月10日以降、これらの子どもたちの生活にはどんな影響が及んでいるのでしょうか。

国際子ども権利センターも支援しているNGOバタフライズは、デリーでストリートチルドレンや働く子どもたちのために活動しています。
(詳しくは、http://jicrc.org/pc/project/india-project/butterfly-project.html
バタフライズのURLは、http://www.butterflieschildrights.org/)
その代表者リタ・パニカさんは、「この法改正によって多くの問題が起きている。」と言っていました。

新たな規制が追加された10月10日から、デリー市内にあるバタフライズの夜間シェルター(3箇所)やコンタクト・ポイント(働く子ども、ストリートチルドレンと共に活動する場所、12箇所)などでは、これまで来ていた子どもたちが来なくなりました。この子どもたちは、どこへ行ってしまったのでしょうか。

また、バタフライズ事務所には、この法令を知ったおとなたちから、たくさんの問い合わせや依頼の電話が殺到しています。例えば、レストラン等で働いている子どもがいることを知らせ、対応するようにといった依頼です。しかし、バタフライズは、スタッフの人数や財政的な制約などから、これらのすべての要望に応えるのは簡単なことではありません。

バタフライズだけではなく、働く子どものため連携して活動している他のさまざまな団体も、子どもたちと連絡がとれなくなったり、市民からの依頼の電話が多くかかったりという、同様の問題に直面し、頭を悩ませているようです。

なぜ、このような事態になっているかというと、上記のようにインド政府は、働く子どもたちに対して、教育やシェルターをとおして支援する用意があると発表しましたが、具体的な活動計画をまだ発表していないからです。なので、児童労働の問題に取り組むNGO等は、法改正に伴って、子どもたちに対してどのように対応したらよいか分からないのです。

実は8月にインド政府がこの改正について発表した後、バタフライズは他団体と共に、記者会見を開き、法改正に伴うインド政府の対応について議論したり、アクションプランを作成して中央政府、州政府、関係省に対して提言しました。(詳細は、分かり次第お伝えいたします。)しかし、10月10日以降これまで、中央・州政府いずれからも、その提案を受け入れて実施するなどの動きは全くないようです。

(つづく)

参考:
THE HINDU, October 10, 2006
インド労働省websiteのLabour News プレスリリース(August 01, 2006)
http://labour.nic.in/ 

最新の画像もっと見る