アーム通信(海外会員インドだより)

国際子ども権利センターの元運営委員の成田由香子が、インドのデリーで滞在する暮らしの中で体験することを伝えます。

インドの児童労働法の強化 :2

2006-10-27 00:23:51 | Weblog
前回お伝えした、「児童労働(禁止及び規制)法(1986年)」の改正に対する、市民、メディア、NGOの反応はさまざまのようです。今回は、この法律に関するさまざまな視点について一部簡単にお伝えします。


<児童労働法・改正の成果>

ポジティブな反応の一つは、使用人としての家事労働が禁止されるべき児童労働として認められたことです。これまで多くのNGOや人権活動家などによって、子どもが家事使用人として雇用されていることと、そのような子どもが人身売買や身体的・性的な搾取などの対象になりやすく、またその現状が見えにくいため、問題が深刻で、効果的な対策の必要性について提起されていました。

また、飲食店やホテルなどのサービス業での児童労働者数も多く、劣悪な労働条件や給料不払いなどの問題も多いことから、これらの職種の児童労働に対策が及び始めた、と言う点で何らかの進展が見えたと肯定的に捉えています。


<児童労働法・改正後の課題>

しかし、ネガティブな反応も多いようです。この法令について最も懸念されていることは、どんなに法律が新しくなっても、それに伴った具体的な政策と成果が伴わない(=実効性がない)ことです。

この新しい法規制によって、
働かなくなり、行き場をなくした子どもたちが保護されるのでしょうか?
職場でつらい目にあった子どもたちが、リハビリなどのケアを確実に受けることが出来るようになるのでしょうか?
そして、そのような子どもたちが、確実に学校へ通えるようになるのでしょうか?

前回のブログでお伝えしたように、インド政府は、働いていた子どもたちに対して、教育の支援やシェルターの提供の準備があると発表しましたが、その具体的な活動計画をまだ発表していません。

子どもたちへの具体的な対策がないまま、雇用者側への取締りを強化するだけでは、かえって雇用者は児童労働の存在を隠してしまい、児童労働の状況を見えにくくし、その対策も難しくなってしまうかもしれません。


<児童労働法のそもそも論>

そもそも、1986年の児童労働法は、特定の危険な職業や作業を指定し、14歳以下の児童労働を禁止、あるいは労働条件を規制している法律であり、あらゆる形態の児童労働を禁止しようとするものではないため、不十分であると指摘しています。

また、そもそも、この法律にもかかわらず多くの禁止された児童労働が行われています。職業においては、鉄道での物資の運搬・配達、鉄道・駅での建設に関わる仕事、港構内での作業、爆竹や花火製造にかかる仕事。作業については、粘板岩作り、絹・カーペット織り、ビーディ(葉巻き)作り、石鹸・マッチ・セメントの製造などです。

さらに、1986年の法律は、「危険な」児童労働の定義と現実にもギャップがあります。児童労働の禁止の対象となる「危険な」職業や作業の定義について問題視されています。この法律で危険とされている以外にも、危険な職業や作業があり、劣悪な労働条件で子どもが働かされている現実が多くあることを、これまで人権団体や児童労働に取り組むNGO等が証明しています。例えば、この法律では、児童労働は、製材所では禁止されていますが、大工の仕事では禁止されていません。また農業機械を使っての仕事は禁止されていますが、鎌を使っての農作業は許されています。

そして最後の「そもそも」は、この法律には、義務教育の保障とのギャップがあることです。

インドの憲法では、2002年の改正によって、無償義務教育が児童(6~14歳)の基本的権利であると規定しています。つまり、憲法での児童の義務教育が保障されているにもかかわらず、児童労働法は、児童労働を限定的にしか禁止していないため、結局はその他の児童労働を許してしまっています。これは、義務教育政策が徹底していない、という理由にもよります。義務教育が徹底していれば、児童労働はなくなるはずですが、インドの教育政策は、特に農村など行き届いておらず、学校へ通っていない子どもの多くが農業などで働いているのが現状です。インドでは、児童労働者の約85%が農村におり、約80%が農業に従事していると推測されています。

(インドの教育については、2005年11月6日付の「インドの教育制度」、2005年11月30日付のブログ「インドの教育:公立学校」をご覧下さい。)

このように、インドは、あらゆる形態の児童労働をなくすための法整備がまだ不十分であり、また限定的に児童労働を禁止している児童労働法さえも、その内容や実効性が不十分であることが指摘されています。

インドの児童労働の取り組みについては、インド政府による児童労働国家政策や、ILOのIPEC(児童労働撲滅国際計画)、NGO等による児童労働者のための教育・リハビリ支援などが行われていますが、すべての児童労働者をカバーするには至っていません。すべての子どもが働くことがなく学校へ通えるような環境づくりを行うには、貧困削減、教育政策、雇用者への対策、家族や地域での意識啓発などさまざまな分野で取り組まれなければなりません。また、児童労働法に新たな規制が追加されてからの、子どもたちの受け皿となる対策についても今後見守っていかなければなりません。

児童労働の詳しい情報は、ILO駐日事務所の以下のwebsiteよりご覧下さい。
http://www.ilo.org/public/japanese/region/asro/tokyo/ipec/ilo/index.htm

参考:
THE HINDU, October 10, 2006

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2 コメント

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応援してます (成田さんへ)
2006-11-11 00:21:27
再開、うれしいです。
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質問です。 (waya)
2006-11-13 02:51:52
 私は卒論でストリートチルドレンについて調べようとしている大学生です。
成田さんは、インドの子どもたちの状況についてよくご存知なようなので、ぜひお聞きしたいことがあります。
 デリーのような大都市では、子どもをさらって手足を切断し、その子どもたちに物乞いをさせ、それをビジネスとしている団体が存在すると聞きました。そういったことについての資料を探したのですが、中々見つかりません。何かご存知でしたら、どんな事でも構わないので、ぜひ教えてください。
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