アーム通信(海外会員インドだより)

国際子ども権利センターの元運営委員の成田由香子が、インドのデリーで滞在する暮らしの中で体験することを伝えます。

インドの教育:ノンフォーマル教育

2005-12-11 04:59:16 | Weblog
今回は、インドの教育形態の一つ、ノンフォーマル教育の状況についてお知らせします。今日は長くなってごめんなさい。

ノンフォーマル教育スキームの概要

ノンフォーマル教育(NFE)は、1979年以降、6-14歳までの全ての子どものうち、働く子どもや女子など学校に行けない児童に教育機会を与え、公的な教育制度を補完する代行手段として導入されたパートタイム教育である。1986年国家教育政策では、中途退学した子ども、学校がない住居地域、働く子ども、学校に終日出席できない女子などにとって、幅広い体系的なノンフォーマル教育が必要であることが認識された。このようにノンフォーマル教育は、初等教育普及(Universalisation of Elementary Education: UEE)達成のための重要なコンポーネントとなった。ノンフォーマル教育スキームは、1987-88年に改定され、これまで重点を置いてきた教育の遅れている10州だけでなく、他の州にある都市のスラム、丘陵地域、部族の多い地域、砂漠地域、働く子どものための事業へも力を入れることになった。

ノンフォーマル教育センターは、1)主に州政府によって設立、運営されるか、2)NGOがセンターを運営し、それに対して中央政府が直接資金補助しているか、3)NGO等による試験的・革新的な手法による教育プロジェクト、の3つの形態がある。現在の状況は以下の通り。
・25の州・連邦直轄領で、州政府と826のNGOによって導入されている。
・288,000の小学校、6,800の中学校が、州政府によって認可されている。
・58,000の小学校、1,000の中学校が、NGOによって運営されている。
・41の試験的・革新的な手法による教育プロジェクトが、NGOによって運営されている。
・ノンフォーマル教育スキームによって教育を受けている子どもは全部で約740万人

しかし、ノンフォーマル教育には多くの問題点も見つかっている。
例えば、地域参加が不十分、正式な学校へ入学できる体制が十分でない、異なる子どものニーズにあった教育体制の柔軟性がない、女子が十分に通っていない、州政府とNGOの連携がうまくいっていない、初等教育レベルを終了する割合が低い、などであり、ニーズへの柔軟性や教育の質の問題が指摘されている。

よってこれらの問題点を克服するために、インド政府は新たに「Education Guarantee Scheme and Alternative and Innovative Education(EGS&AIE)(教育保障スキーム及びもう一つの革新的な教育)」を策定した。(これについての詳細は別の機会にご紹介します。)


◆ノンフォーマル教育センターの様子

ノンフォーマル教育センターは、主に農村地域か、都市のスラム地域にあり、家の手伝いなど1日の仕事を終えた児童は、夕方五時頃にこのセンターへ集まり、授業を受ける。
センターの壁には布製の黒板、地図、掛け図などがかけられ、子どもたちには教科書とノートあるいは石板とチョークが支給される。1人の教師が年齢も進度も多様な多くの生徒を対象にするため、小グループに細分化したグループ指導が基本となる。また、学習の進んだ児童が、学習の遅れた児童を教えることもある。

センターによって異なるが、一般に、1日に2時間、1週間に6日間の授業が行われ、通常の学校とは異なって、長期休暇はなく2年間で第5学年(初等教育)修了と同等の資格を得ることができる。さらに、11~14歳の上級初等教育(中学校)に相当するプログラムもある。しかし、限られた指導時間と年数で学習成果をあげることは実際には難しく、そのプレッシャーの中で、退学や低い進学率などの問題がある。働く子どもにとって、ノンフォーマル教育学校は、読み書きなどの学習の場だけでなく、子ども同士のコミュニケーションの場でもある。

現在、上記のように、ノンフォーマル教育は、国家教育政策によって推進されている。また、最近は、NGOが、公立学校に通えない子どものいる地域において、教育に関する意識啓発を地域で行いながら、より多くの子どもを受け入れて通常の学校のように終日の教育活動を行う試みや、公立学校へ進学できるよう、あるいは就職に役に立つよう、教師の訓練なども行いながら質の高い教育活動を行うなどの努力がなされている。


◆ムンバイのNGOによるノンフォーマル教育学校の事例から:

以下は、前にMSNニュース毎日新聞(2005年7月5日付け)から見つけたニュースです。今回は、前回お知らせした記事の続きのNGOによる学校教育についてお知らせします。

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「インドの次世代教育 ダイヤモンド商人の子どもとストリートチルドレン」(後半)

◇NGOが教育で自立を促す

同じムンバイに、ストリートチルドレンの「学校」がある。グリーンローンズ校から北に車で約1時間、アンデリという地区の、商店街からひと筋入った4階建てのビルの一室だ。医師や弁護士らがメンバーのNGO「VOICE」(本部・ムンバイ)が、5歳から14歳までのストリートチルドレンを集めて教育を施している。

12畳ほどの部屋で、この日は27人が勉強していた。机は全員分そろっていないので、10人弱は床にノートを広げている。寺子屋のような感じだ。

思ったより、子どもたちの身なりはきちんとしている。制服を着ている子がいるが、VOICEが通学用に買い与えているという。内容は読み書きや算数の基本の勉強で、女性教師2人が個別に指導する。数字の3や8をノートいっぱいにいくつも書いて覚える子もいれば、ヒンディー語の文字の書き取りをする子がいる。10×1から20×10まで、2ケタの掛け算を一つずつノートに書いている子もいた。

ムンバイには、25万人以上のストリートチルドレンがいる。孤児以外に親が面倒を見ない子もいて、物乞いや残飯をあさって生きている。

教育なしには貧困の悪循環から抜け出せない。VOICEは1991年に設立され、当初は鉄道の駅構内で、ムンバイ市内の駅名の表記で文字を教えたり、列車を数えて数字を教えていた。ここに来るまで子どもたちは、文字はおろか、基本的な道徳観も身につけていない。スタッフは道徳や倫理、社会生活上の決まりを、双六のようなゲームで単純化して教えている。「働いてお金を貯めれば、家が買える」「酒やたばこを飲まなければ、健康に過ごせてお金も貯まる」という具合だ。ヨガ、少林寺拳法、歌、ダンス、裁縫も教えている。

1年前からきょうだい5人で通っている長姉のカビータ・サーバンナ・クルクンバルさん(11)は、「ヒンディー語が一番好き。ヒンディー語がわかれば読み書きができるから」とうれしそうだ。VOICEは大人の自立支援の場でもあり、教師の1人、シャンティー・ガウドさん(35)は、子ども4人を連れて8年前にここで働き始めた。翌年からアパートの一室だが、念願の「家」暮らしが始まった。

貧富の差は簡単には埋まらない。だが、二極化の一端から抜け出す試みは、着実に成果を上げつつある。
(ここまで)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

写真は、デリーのNGOであるDeepalayaが運営しているノンフォーマル教育センターで撮影(2005年11月30日)。「インドでは2桁の掛け算を暗算するのか?」と聞いたらやって見せてくれました。すごい。

参考資料
http://www.mainichi-msn.co.jp/kokusai/asia/india/archive/news/2005/07/20050705org00m020009000c.html
学士論文「初等教育におけるノンフォーマル教育の開発」成田

インドの教育:私立学校

2005-12-01 01:46:14 | Weblog
今回は、インドの私立学校の状況についてお知らせします。

◆私立学校の概要
経済的に豊かな家庭では、学費が払える限り、教育条件のより良い私立学校へ児童を通わせる傾向がある。

都市部に多くある私立学校は、その形態や教育内容に幅はあるが、公立学校よりも、英語による比較的質の高い教育を提供している。私立学校では校舎や学校施設、教師の質などの条件がよく、教育内容も充実している。知識理解やコミュニケーション能力を育てるディベートや朗読コンテスト、スポーツ競技会や文化活動での発表会など、課外活動も充実している。

近年、インドでは学歴社会の傾向が見え始め、幼い時期からの受験競争が激化している。中間層の教育熱は、都市部における多様な私立学校の増加と、レベルの高い私立学校への人気集中、学校間競争の激化とそれによる公立学校との教育の格差をもたらしている。私立学校には、有名なエリート校から、英語教育だけをセールスポイントとする小規模な塾のような学校まである。評判の良い私立学校には、幼稚園から入学しなければならない。このため競争は早期化し、入学できても子どもは大学受験までの圧力に耐えて勉強しなければならず、精神的ストレスを感じているケースもある。

私立学校は高等教育へ進むために圧倒的に有利であり、私立学校に就学するためには、初等教育入学時に学校を選択しなければならない。このように、家庭の経済力に応じて入学できる学校の差異化が進んでおり、貧困層は、経済的な制約によって学校選択の余地が限られ、入学以前の段階で、将来の子どもの高所得の機会は約束されないことになってしまう。


◆ムンバイの私立学校の事例から:
以下は、前にMSNニュース毎日新聞(2005年7月5日付け)から見つけたニュースです。今回は、この記事の前半の私立学校についてお知らします。次回は続きのノンフォーマル教育学校についてお知らせします。

(ここから)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「インドの次世代教育 ダイヤモンド商人の子どもとストリートチルドレン」(前半)

経済発展中のインドで、競争力の源泉となる初等・中等教育はどのように実施されているのか。私立学校とストリートチルドレンの教育の場を取材した。インド最大の都市、ムンバイ南部の市街地ブリーチキャンディに、幼稚園から10年生(日本の高校1年生)まで約1500人が学ぶ中堅の私立の共学校、グリーンローンズ校がある。保護者の9割がダイヤモンド商人という、裕福な家庭の子どもたちの学校だ。

◇学校は受験勉強の場 運営は効率と評価重視

同校のカリキュラムは、インドの教育政策に従ってインド学校検定試験評議会が実施する全国規模のICSE試験(インド中等教育検定試験)に照準を合わせている。この試験で進学できる大学が決まるのだ。教科は英語で教えるが、ヒンディー語や現地語の履修は必須だ。入学試験はないが、学校に兄弟姉妹がいたり、政府関係者の子弟の場合は優先的に入れる。

学年は3月に始まり、訪問した6月8日は、2カ月余りの夏休みが明けた初日だった。

1学年は3クラスで、1クラスは38人。1時限は30分。9年生(中学3年生)の数学の授業では、因数分解を勉強していた。「729x6-64y6」と教師が黒板に書くと、まず生徒が口頭で「(27x3)2 -(8y3)2」と答えていき、その答えを教師が黒板に書き取っていく。回答時間は1問2分くらいで、すぐ別の計算に移る。生徒は暗算の調子ですらすら答えていて、答えに詰まる生徒はいなかった。

学校は7階建てのビル。ムンバイは人口1800万人で、人口過密で学校の敷地が足りないため、同校の授業は入れ替え制で行われる。幼稚園と5~10年生は午前8時~8時15分に授業が始まるが、1~4年生の授業は幼稚園と入れ替わりに、午前11時15分に始まる。5~10年生は午後2時以降の下校で、昼食は帰宅後に取る。

学校の運営は随所に企業経営的なところがあった。1年間のテストの日程は年度初めに生徒に知らせ、勉強の計画を立てやすくしている。週1~2回、単元ごとのテストがある。こまめにテストすれば、生徒は早めにつまずきを発見できるからだ。日本の校則以上に決まりごとが多く、学年末のテストは点数ごとに予め評価が定められていて、点数と評価は生徒手帳に明記されている。学業以外にも、校内での行動はポイント制で得点化され、表彰の対象になる。遅刻は1点減点、教職員に失礼な態度を取ると5点減点。テストで満点を取ると2点加算だ。

授業料は月1000ルピー(約2600円)。同様のカリキュラムを提供する新設校は4000ルピー(約1万400円)のところもあるといい、「非常にリーズナブルだ」とキラン・バジャジ校長は強調する。教師の月給は新卒者で8400ルピー(約2万1840円)。大半の教師の給料は低いので、教師80人中20人が家庭教師のアルバイトをしているという。

生徒の半数は米国など海外の大学に留学する。「ほぼ生徒全員が塾に通い、家庭教師についている」と校長は嘆くが、生徒は猛勉強の結果、受験戦争を勝ち抜いていく。
(ここまで)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

参考資料
http://www.mainichi-msn.co.jp/kokusai/asia/india/archive/news/2005/07/20050705org00m020009000c.html