アーム通信(海外会員インドだより)

国際子ども権利センターの元運営委員の成田由香子が、インドのデリーで滞在する暮らしの中で体験することを伝えます。

路上の子どもたち-ストリートチルドレン-

2006-02-13 21:00:00 | Weblog
南の国へ行くと、路上や交差点などで物を売りや、くず拾い、あるいは物乞いをしている子どもたちなどをよく見たことがあると思います。そんな姿に目を留め関心を持つことがあまりないかもしれませんが、そのような子どもたちもそれぞれ違う人生を抱え、そして一人の人間として人格を持っています。今日は、インドのストリートチルドレンと言われるそんな子どもたちの状況についてです。

◆ストリートチルドレンって何?
ストリートチルドレンとは、路上で生活したり働いている子どもを言います。家庭の事情により、家族とのつながりはあるけれど家計を助けるために路上で働いている、家を逃げ出し家よりも安全な路上で生活する、孤児など家族とのつながりが全くなく自分一人で生き延びなければならないなど、その子どもたちの背景は様々です。

◆どんなことをしているの?
ごみ拾い、荷物運び、靴磨き、新聞売り、車の窓拭き、家内労働、店や食堂での単純労働など、多くが都市部のインフォーマル経済での仕事につき、1日に4-10時間働いて、平均Rs.20(60-70%が食事代)稼ぎます。

◆どんな問題があるの?
上記の仕事のほか、麻薬取引、人身売買などの危険にさらされることもあり、劣悪な環境や危険な労働に関わることが多いため、ILO第182号条約に定められている、できる限り迅速に撤廃しなければならない最悪の形態の児童労働とみなされる場合が多いです。
学校には通うことができず、病気になっても病院に行くことができません。また、警察などからの嫌がらせや暴力交通事故薬物依存などの問題にも直面します。このように関わる問題は広範囲で多様であるのと、子どもは移動するため、保護したりケアするのが困難です。

◆どこから来るの?
多くは農村地域から、または地方都市から、あるいはネパールやバングラデシュなどの近隣国から、インドの大都市へやってきます。

◆どれくらいいるの?
世界に約1億人いると言われています。インドのストリートチルドレンに関する正確な統計データはありません。その定義や移動性などによって正確に調査し全体を把握することが難しいからです。2003年ユニセフによる調査によるとストリートチルドレンは約480万人と推定されています。またあるNGOの報告では、ムンバイには約50万人、デリーでは約40万人いると言われています。

◆なぜそのような子どもたちがいるの?
1)家計を助けるため:
ストリートチルドレンが生まれる背景には貧困の問題があります。家族の収入を助けるために、学校には行かせてもらえず、働かなければならない子どもたちがたくさんいます。子どもが働く家庭の親が失業していることも少なくありません。

2)不適切な家庭環境:
でも、貧困家庭の子ども全てがストリートチルドレンになる訳ではありません。失業中の親がアルコール中毒で子どもに暴力を振るうなど、家庭環境が不適切であったり、子どもと家族の関係が好ましくない場合、子どもは家出の居場所を失い路上に逃れるのです。

3)搾取的な労働環境:
児童労働に関わる子どもが多くいます。雇用者にとっては、子どもは、安い賃金で雇え、また従順であるため、都度の良い労働力です。家族によって出稼ぎとして送られた仕事場で、精神的・身体的・性的虐待、劣悪な労働条件等の搾取を受けて、そこから逃げ出し行き場を失った子どもも多くいます。

4)性的差別:
 インドでは特に農村で女性の地位はまだ非常に低いです。女の子たちは学校へ通わせてもらえず、農作業や、家事手伝い、妹弟の世話、家畜の世話などをして生活しています。ムンバイの駅で保護されたある女の子は「もっと勉強したいのに親が学校に通わせてくれない、このまま家にいたら私の将来は絶望的だと思った」と言って、家を出た理由を教えてくれました。また、家事手伝いなどで雇われた女の子は、親戚などを通して送られた働き先で暴力性的虐待を受け、逃げ出す子どもも多くいます。最悪の場合、人身売買に巻き込まれ、騙されて売春宿に売られ、強制的にセックスワーカーとして働かされることもあります。

5)障がい:
 ストリートチルドレンの中には、身体的・知的障がい者もいます。インドでは障がい者が約7000万人いるといわれていますが、障がい者のための教育、職業訓練、リハビリなどを行う施設や公的サービスは、まだ質・量ともに不十分です。障がいを持つ子どもの家庭にとっては、それらの教育やケアのための費用も必要です。特に農村では、障がい者に対する差別偏見もあります。これらの状況から、特に農村や貧困層の家庭が、障がい児を見捨ててしまうことも少なくありません。


このように、子どもたちが路上に現れなければならない要因には、社会全体の貧しさのもとでの、農村と都市の経済的格差、急速な都市化、インフォーマル経済の増大、家庭崩壊といった経済的社会的な問題が関わっています。これらを克服するには、農村部での貧困緩和、おとなの雇用創出、生活に役に立つ教育へのアクセス、健康・医療ケアなどの政策がきちんと行き届いていること、児童労働・人身売買・子ども買春などを取り締まる法律がきちんと施行されていることが重要です。 またさらに大切なのは、家庭や地域社会のおとなたちが、子どもは有害な労働、経済的・性的搾取、暴力、虐待などから保護され、心や体が健やかに成長し、子ども自身とその意見が尊重される権利を保障する努力をすることです。

インドのストリートチルドレンに関する政策は、以下のMinistry of Social Justice and Empowerment(社会公正・エンパワーメント省)のウェブサイトからCare and Protection of childrenのページをご覧ください。
http://socialjustice.nic.in/social/welcome.htm


参考ウェブサイトおよび資料:
国際子ども権利センター: http://jicrc.org/pc/teigen/index.html
Butterflies (バタフライズ):http://www.butterflieschildrights.org/
ILO(国際労働機関):
http://www.ilo.org/public/japanese/region/asro/tokyo/ipec/facts/sectorial/st_child/01.ht
「国際開発ハンドブック-NGOのフィールドメソッド-」友松篤信編著、明石書店