Ⅰ はじめに
近年、「痩せたい」と思っている人の数が増加し、特に青年の中には「やせへの希望」が高まっている。
メディアでは、ダイエットに関する記事や番組も数多く、テレビCMやインターネット広告などでダイエット食品がよく宣伝されている。その上、社会的に多く注目を集めている有名人(女優・歌手・テレビのアナウンサー・アイドル等)の中に、かなりやせている体型の例が多い。
以上の理由で、「やせている」は「美しい」というイメージと結びついて社会的価値観(かちかん)となってきた。そして、特に若い女性の中に「やせたい」希望が強くなってきているのに伴い、ダイエットへの関心も高まってきた。
さらに、この「痩せる」ことに対する関心が高じて、適切な(健康的な)限度を超えたダイエットも増え、食行動・食生活(食事のとり方)に関する問題(いわゆる摂食障害(せっしょくしょうがい))が増えてきている。筆者の母国のブルガリアでも、近年ダイエットブームが話題になり、拒食症(きょしょくしょう)(アノレクシア)、過食症(かしょくしょう)(ブリミア)など、摂食障害(せっしょくしょうがい)にかかっている人の数が増えている。
本稿では、少人数ではあるが、日本語話者(日本人・外国人の日本語使用者)を対象に行ったアンケート調査を通して、ダイエットから始まる摂食障害(せっしょくしょうがい)に関する意識(理解・とらえ方)について調べたことを報告する。
但し、本稿で取り上げられているアンケートの対象者数は、かなり限られているため、国別の意識や傾向の有り様について述べることはしない。
Ⅱ 調査方法
アンケートは、以下の要領で行った。
日程:2016年11月4日~17日
対象:青年、成人(10代~70代)の日本語使用者(母語話者、学習者)
方法:Googleドキュメントのアンケートフォーム、SNS(e-mail,Facebook)拡散
回答者:男性8人・女性28人・計36人
日本(9名)、ブルガリア(5名)、ルーマニア(5名)、インドネシア(2名)、
ロシア(2名)、ベトナム、トルコ、ミャンマー(2名)、
アゼルバイジャン、モンゴル、ラオス、キューバ、ブラジル(各1名)
質問のカテゴリー:
1. 食生活・ダイエットに関する質問
2. 理想の体型に関する質問
3. 過度なダイエットと摂食障害の関係に関する質問
4. 摂食障害に対する意識に関する質問
Ⅲ 調査結果
1. 食生活・ダイエットに関する質問
カロリーを全く気にしないという回答が、全体(36人)の約3割で、1位を占め、その次に「少し気にしている」と答える人が3割弱(27%)であった。ダイエットへの関心に対しては、「とてもある」「少しある」が同割合で30.6%ずつ、「あまりない」(25%)の順で多かった。回答者の大部分にダイエット経験があり(「少しある」(36%)、「ある」(33%))、「全くない」と回答した人が30%であった。「周りに過剰(かじょう)なダイエットをしている人がいる」と回答した者が4割を占める。
2. 理想の体型に関する質問
理想的(りそうてき)だと思う体型に関しては、「健康的なら、どんな体型でもいい」と回答した人が最も多く(25%)、「標準体重の体型」(22%)、「やや痩せている体型」(22%)、「筋肉質(スポーツ選手のよう)」(16% ほぼ男性)、そして、「モデルのようなスリム体型」と回答した人が14%であった。
3. 過度なダイエットと摂食障害の関係に関する質問
対象者がほとんど(91.7%)「無理なダイエットは摂食障害につながっていることを知っている」と回答した。
4. 摂食障害に対する意識に関する質問
拒食症(きょしょくしょう)(Anorexia) や過食症(かしょくしょう)(Bulimia)について「聞いたことがある」と回答した者が、全体の75%を占め、「どちらも聞いていない」という回答は2割弱であった。
「まわりに摂食障害にかかっている方がいる」と回答した者が36人のうち8人(22%)であった。
「摂食障害(せっしょくしょうがい)についてどのように思いますか」という質問に対して、「だれでもかかる可能性がある」が最も多く(50%)、「特別な人だけがかかる」が2割弱(17%)、「女性だけの問題」(11%)の順に多かった。
摂食障害の治療に関しては、「精神的治療(せいしんてきちりょう)が必要」が6割で最も多く、「身体的(しんたいてき)な治療(ちりょう)で治る」と回答する者が3割弱であった。
Ⅳ考察
2015年、ブルガリアの厚生省により行われた調査で、摂食障害(せっしょくしょうがい)の患者は、約4万人(人口≒650万)いることが明らかになった。ただし、摂食障害(せっしょくしょうがい)を抱えつつも、受診・相談をしない人は、治療を受けている人数をはるかに上回り、 メンタルヘルス協会「ヴェガ」のデータ によると、現に推計15万もいるとされている。
日本の場合、厚生労働省研究班の調査により、拒食症(きょしょくしょう)や過食症(かしょくしょう)などの摂食障害(せっしょくしょうがい)で治療を受けている患者が、全国に推計2万6千人いることがわかった。
こういった情報から、いずれの国でも、摂食障害は社会的に深刻な問題となっており、その問題に対する意識の検討を重視すべきだと考えられる。
摂(せっ)食(しょく)障(しょう)害(がい)を引き起こす原因は複数あり、必ずしも今回調査した「ダイエット」をきっかけに起こっているとは言いきれないが、軽いダイエットの急激な発展など、食生活の変更に関連する場合が数多くある。
上記のように、アンケートの結果から、ダイエットに関心を持っている人が多く、ダイエット経験のある人も少なくないことがわかった。
無理なダイエットは摂食障害(せっしょくしょうがい)につながっていると認知している人が9割を超え、摂食障害の具体例である拒食症(きょしょくしょう)(Anorexia) や過食症(かしょくしょう)(Bulimia)について「聞いたことがある」と回答した人も多かったことから、問題の重要性が認知されていることは明らかであると考えられる。一方で、心の治療の必要性や、誰もが可能性があると認識している人は多かったものの、「めったにない問題」、「女性だけがかかる」、「ダイエットを変えたらすぐ治る」という回答も、わずかながらも、あったことから、認識を高める余地があると思われる。
アンケート調査のコメント欄に、「ダイエットは栄養(えいよう)、水、運動など幅広い知識が必要」というコメントが書かれていたように、摂食障害のみならず、ダイエットに関する理解も重視すべきと結論できる。
本稿の作成中、このテーマに関心を持った友人の中に「健康上の理由で、新しいダイエットを試し、食生活を徹底的(てっていてき)に変えた結果、不健康的な状態になった人が回りにいる」という経験を語る人がいたように、過剰(かじょう)な健康志向も、問題のきっかけになりうる。
Ⅴ まとめ
摂(食障害(せっしょくしょうがい)は、国際的に増加しているため、この問題に対する意識も徐々に増えつつある。
上記のように、摂食障害に対する意識は、ある程度あると考えらる一方で、充分だとは言えない。摂食障害の予防、また摂食障害にかかった場合、病気の発見や介入への取り組みが必要不可欠である。そこで、問題に関する情報を増やすことによって、摂食障害に対する理解や意識を高めることが重要であると結論できる。
以上述べた結果や考察は、あくまでも、少人数を対象に行われた調査で得られたデータやインターネット上の情報に基づくため、全般的な傾向を示すことができない。今後の課題として、アンケートの規模(対象者の数・質問の内容)を広げた上で、男女及び年別による比較、回答者の背景の相違を検討することが必要であると考えている。
参考文献
1 広島大学『総合保健科学』第28巻(2012)9-13「大学生における摂食障害に関する意識調査http://ir.lib.hiroshima-u.ac.jp/files/public/3/32558/20141016190827549899/SogoHokenKagaku_28_9.pdf 2016年11月18日参照
2 一般社団法人日本摂食障害協会ホームページ
https://www.jafed.jp/ 2016年11月18日参照
3 メディアプール新聞・電子版 http://www.mediapool.bg/40-000-balgari-stradat-ot-anoreksiya-i-bulimiya-news238512.html 2016年11月18日参照
4 一般社団法人 メンタルヘルス協会「ヴェガ」ホームページhttp://www.vegabg.com/%D1%81%D1%82%D0%B0%D1%82%D0%B8%D1%81%D1%82%D0%B8%D0%BA%D0%B0-%D0%B7%D0%B0-%D1%80%D0%B0%D0%B7%D1%81%D1%82%D1%80%D0%BE%D0%B9%D1%81%D1%82%D0%B2%D0%B0-%D0%BD%D0%B0-%D1%85%D1%80%D0%B0%D0%BD 2016年11月18日参照
5 摂食障害治療・クリニック・病院の紹介 ウェブページ
https://welq.jp/50467 2016年11月18日参照