「ノーッ!」
外国の女性は表情が豊かだ。
全身でノーを表現された気がする。
慌てて違う言葉で説明し直すボクは必死だった。
まるでこっちが車に乗ってくれと頼んでいるみたいだった。
何とか意思疎通を図って彼女を車に乗せた。
初めて会ったばかりの二人が向かうのは、
ホテール。ではなく、街の旅館。
よく考えたら、ヒッチハイクのように全く知らない人を車に乗せるのは初めてだ。
しかも相手は日本語の通用しない外国人女性。
ボクの人生、ついてるんだかついてないんだか。。
海岸沿いを走る車。
運転席と助手席の間には天高く言語の壁がそびえ立っていた。
こんな時、世の日本人男性は以下のタイプに分かれるだろう。
1.苦手でもつたない英語でコミュニケーションをとろうとする。
2.相手に伝わらなくてもおかまい無しに日本語で喋り続ける。
3.ガイジンっぽくカタコトの日本語で喋り続ける。
嫌だ!3だけは!3だけにはなりたくない!!
「ワタシノ名前ハ、ソフィーデス」
え?
ボクは思わず拍子抜けした。
日本語が喋れるのか尋ねると、その他は全く喋れないとのことだった。
結局、彼女が話した日本語はそれだけだった。
きっと彼女は、自分が喋れる唯一の日本語をボクに披露してくれたんだ。
ボクも彼女の誠意に応えなければ!
ボクだって、自己紹介ぐらい英語で出来るさ!!
「私の名前は、○○デース」
………。
ついつい日本語で自己紹介してしまう弱い自分がいた。
お言葉に甘えてしまうというのはこういうことをいうんだろう凹
とりあえず、お互いを名前で呼び合う仲になったわけで。
一歩前進だ。
そういえば、留学経験のある教習生がこんなことを言っていたのを思い出した。
ジャパニーズボーイは海外でかなりモテる。と。
これは、今後の会話の展開次第では、ひょっとすると…
そうだ。女性を助手席に乗せておいて、何も話さないのは失礼だ。
会話をせねば!(必死)
ボクは簡単な質問をすることにした。
まず、どこから来たのか尋ねると、彼女はデンマークと答えた。
へぇー、デンマーク?
………。
リョーユーのチーズデンマーク(菓子パン)しか思い浮かばなかった。
話が弾まない。
ソフィーはそんなボクの焦りを察したのか、色々喋りかけてくれた。
日本の美しさとか、泊まっている旅館のこととか。
ソフィーの分かりやすい英語とボクの分かりにくい英単語の会話はとても楽しかった。
何かの話の流れで、ボクは彼女が誰と一緒に来たのか尋ねた。
ひとりよ。ソフィーは答えた。
そう答える彼女の意志の強いグレーの目が印象的だった。
彼女は常に堂々とした振る舞いだった。
言葉の通じない国でひとり旅をしていても。
砂浜で着替えをしている時も。
わけの分からない男の車に乗っている時も。
そうか。彼女はあの鹿だ。
彼女は強くて優しくて美しい、砂浜にいたあの雄鹿だ。
女性は男性よりもカッコイイ生き物なんだと思った。
長いようで短い、不思議な時間だった。
車は旅館の前に着き、彼女が降りた。
ボクたちは笑顔で別れた。
孤独な男と一匹の鹿と一人旅の女性が出会ったお話。
-完-
P.S.今回の反省点を挙げます。
反省点1
女性に「ひとりよ」と言わせといて飲みに誘わないのは失礼極まりない。
正直、誘おうとは思ったんですよ?
でもね、言えなかった!
分からなかったんです…
「飲みませんか?」ってのは「Shall we~」を用いるんですかね!?
反省点2
「私の名前は、○○デース」(記事中盤)
不覚にも無意識のうちに語尾がカタコトになってた!!!

←予想通りの期待外れな結末だったらpush!