紅葉の季節は過ぎ山間はすっかり冬支度ですね。
空気も乾燥してきました。
女性は毎日のスキンケアが大変になってきますね。
ボクは大丈夫だよ温泉で常に潤ってるから、と思ってた。
九州のひとり旅の途中、昼下がり。
今夜はどこに泊まろうかと思案しながら車を走らせていたら
国道沿いに「○○温泉 源泉かけ流し」ってのぼりが何本も立ち並んでいた。
!?
○○温泉とはノーマークだったぞ…。
この誘うようなのぼりの感じからしてきっと日帰り入浴OKの施設だろうし、
そのシンプルな字体と配色はどこか自信を感じさせる。
良い湯の予感。
ボクは迷わず左合図を出し、その敷地へグイとハンドルを切った。
いや、左合図を出し、巻き込み確認をして、その敷地へグイとハンドルを切った。
バッサ!
うん。今、「バッサ!」つった。
バッサ
それは湿気をはらんだ音。
バッサ
それは意を決する時の音。
バッサ
それは天高く舞い上がる音。
急に目の前が薄暗くなる。
次にボクが目にしたのは、
照明のぼんやりとした灯りに照らし出された看板の
平日フリータイム4,000円の文字だった。
いやいやいや!
ボクだってバッサなんてしたくなかったよ!!
今までの人生、色々やって来た。
ひとりファミレスとか、ひとりカラオケとか、ひとり家族風呂とか、
それは全てひとりで生きるための修行であり孤独への戒めであり崇高な意味を持つ。
ただこのひとりバッサだけはね、何の意味も持たねぇ。
悲しみしか生まねぇ。
でもさ、バッサのやつ、国道から入り口に曲がってすぐの死角に隠れてやがったの。
国道にはすぐ後続車もいたし、
バッサ回避のためだけに急ブレーキを踏むわけにはいかないんでね。
なんだろ、蟻地獄みてぇな仕掛けになってた。
暗い地中へと吸い込まれる可愛そうな一匹の蟻みたいに思っていただければ
そん時のボクの気持ちが痛いほど伝わるかと思います。
で、結果すごい勢いでバッサ!ってなった。
普通ね、こういうもんはバッサなんて音は立てずに入るもんだと思うんですよ。
こう、暖簾をヒョイと持ち上げ「まだやってる?」って、常連の余裕みたいな。
そんな小料理屋のような入り方をするのがせめてもの男の美学だと思うんですよ。
そこへいくとこのバッサ、
多分国道にいた後続車からは
「うわ!バッサて!昼間っからすげぇ急いでんなこのカップル!」みたいに思われた。
もうさっきからバッサバッサ言い過ぎなわけですけど、
浅香光代の大立ち回りみたいになってるわけですけど、
実際、ミッチーに斬り捨てられるほどの衝撃を受けたわけですよボクは。
血糊とか持ってたら潰してた。
血の代わりにどっと汗が吹き出て薄っすら涙も出てきそうになりました。
もちろんその後はすぐさま外へ脱出しようとしたんですけどね、
ふと横見たら掃除のおばちゃんらしきひとがこっち見てた。
あたしゃここは長いけど、こんなすごいバッサ初めて見たよ!みたいな顔で。
で、慌てて逃げ帰るのも何か悔しいんでね、
目の前の看板を興味深そうに眺めてみた。
ちょっとね、下調べに来ましたよー、みたいに。
フムフムみたいに。
そしたら看板にはシステムとか料金の事とか結構色々と書いてあるのね。
「平日フリータイム」て…
こっちは全日どフリーだっつのチクショウ!
あとね、「おひとり様大歓迎!」てのも書いてあった。
一人泊可で源泉掛け流し…
条件バッチリじゃねぇかよドチクショウ!!
とか思って見てたら、おばちゃんどっか行ってくれたんで、
ボクは慌ててチェンジレバーをリバースに入れ、バックで方向変換した。
いや、チェンジレバーをリバースに入れ、3点確認をして、バックで方向変換した。
で、もう二度とひとりバッサなんてしねぇからな!!って思って前を向き直したら、
ああ、そっか、出口でもう一回バッサしなきゃいけないのか…って痛恨の気付き。
バッサの隙間から光が見える。
やっと混沌と闇の世界から抜け出せる。
ボクはアクセルを踏み込んで外へ出た。
そしたらね、心なしか、今度はパサッっていったような気がしたんだ。
P.S.
今回の件で一番ショックだったことはね、
バッサしたことよりもショックだったのはね、
看板に「シルバー割引」って書いてあったことでした。

←クリックひとつで応援できちゃいます。