今でも覚えている。
ボクが教習指導員になって初めての繁忙期。
ひとりの女の子の担当を任された。
彼女はオートマではなくマニュアル車の免許を取りに来た。
マニュアルの場合、クラッチやギアなど複雑な操作が嫌になり、途中で諦めてオートマに変更する女性は多い。
彼女はのんびりとした性格だったのでマニュアル車で卒業するには苦労したと思う。お互いに。
あれは確か第1段階後半の教習での事。
指定した速度を出せない彼女に「もっとアクセルを」と言い続けていると、彼女は泣いた。
初めて教習中に教習生を泣かせてしまった。
その後彼女は頑張って無事にストレートで卒業してくれた。
この仕事をしていると、たまに女の子の教習生を泣かせてしまうことがある。
未だに女性の涙には慣れないが、フォローの仕方はあの時より大分ましになっただろうか。
そんなことがある度に、ボクは泣き虫の彼女を思い出した。
ボクはあの時の彼女の泣き顔と、梅雨の空のようなモヤモヤとした気分が忘れられないでいた。
先日の教習所の祭。
アニメのキャラクターショー。
でっかい着ぐるみを搬入する業者の中に、見覚えのある顔があった。
驚いた。彼女だった。
彼女は現在広島でフリーアナウンサーをしているのだという。
キャラクターショーのお姉さん役として、偶然この教習所での仕事が入ったのだ。
驚くボクを面白がるようにニコニコしながら話してくれた。
仕事のこと、運転のこと、教習のこと。
「バックの時は後にバァチャンがいるかもしれないからゆっくり行くんですよね!?」
ボクが指導したことを覚えていてくれた。ボクは覚えてねぇけど。
嬉しかった。
少しの時間だったけど話が出来て良かった。
ショーが始まった。
「みんなー!前においでー!」
大きな身振りで明るく元気な声を出す彼女。
どこかオッチョコチョイで頼りなさそうなキャラは変わってないけど、
大勢の観客の前で堂々としていた。
余裕と自信。
見事に落ち着いて仕事をこなしていた。
それは仕事を心から楽しんでる顔だった。
そういえば彼女、笑顔が素敵なひとだったな。。
「あれから何年経つんだろ?お互い、歳食ったな。」
「ハイ。あの時は私も18でしたからねぇ。」
彼女は成長した。
ボクはあれから成長しているんだろうか。。
しっしーは言ってた。
仕事を貰った時は、その後のことを考えるんだと。
本当にそうだな、と思った。
仕事はただの消化じゃない。
彼女に負けてらんねぇな。。
ボクが教習指導員になって一番最初に受け持った担当。
きっとこれからもふとした時に彼女のことを思い出すだろう。
でももうその顔は泣き顔ではなく、キラキラとした笑顔となるだろう。

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