12月24日、クリスマス・イブ。先だって結婚披露宴から新婚旅行まで人生最大の散財をしてしまったので、地味~に食事でもして済まそうかと思い描いていたら、嫁が「結婚して最初のイブなんだから~、温泉行きた~い!」と宣う。当初は山のごとく動じないで『倹約!』を押し通そうと踏ん張っていたのだけれど、「結婚して最初の・・・。」の殺し文句が最後まで響いて結局お出かけすることにした。
それなのに、休日出勤の会議。暇な年寄り役員のために毎月月末に開催されるわけで、そりゃあ御歳7?歳にもなれば、アットホームなイベントがあるわけでもなく、仕事とゴルフ以外やることがないんだろうけど、働き盛りの部課長はじめ下々の者達の家庭の事情なんぞ関係ないんだからなぁ。今時変則の週休2日さえ珍しいのに・・・。
と言うことで、今回の日程は会議が終わってからの一泊コース。初日は殆ど時間が取れないので、近場の宿に向かうだけになった。それでもちよっと芸がないので、仙台まで足を伸ばして定禅寺通りの『光のページェント』なんかをちら観しての温泉はどうか?と考えついた。
ふふふ、なかなかロマンチックやろ~。でも時間ギリギリだなぁ。会議が2時頃までに終わらないと難しい。
そして本日の会議。そんなこちらの期待も虚しく、案の定堂々巡りの長話が続き、終わってみたら間もなく午後3時。残念ながら、夕方から大寒波がやってくるという予報もあって、ホテルに直行するしかなくなってしまった。そそくさと帰宅して嫁を拾い、一目散に東北道を北上する。目指すは宮城県は蔵王町の遠刈田温泉。お宿は宮城蔵王ロイヤルホテルだ。毎度ギリギリになっての予約のため、殆ど空きがなく分相応な価格帯ではそこしかなかった。
徐々に日が暮れていく中、村田JCまではスムースに走り抜けたが、山形道に別れて蔵王連峰を前にした途端、雪がちらつき始めた。『今のうちに宿に急ごう』とはやる気持ちを抑えながらハンドルを握る。しかし、裏腹に降り積もる雪はどんどん嵩を増していき、あっと言う間に前方の景色が白一色になってしまった。ヘッドライトの光を容赦なく遮る無数の雪粒。視界は悪くなる一方だ。「怖いから、スピード落としてよ~。」嫁が不安そうに訴える。「大丈夫、もう少しだから。」僕は自分に言い聞かせるように答えた。 宮城川崎で降りて旧笹谷峠に向かって走ると、間もなく宮城蔵王に通じる457号線。ここを左に折れればもう直ぐだ・・・と考える浅はかさ。夏場ならまだしも冬の雪道。青根温泉峡の山道は更に厳しかった。連続するヘアピンカーブ、降り積もった新雪の上を左右に横滑りしながら進む。スタッドレスは履いていたものの、今年初めての雪面走行はいまひとつ調子が出ない。ついついアクセルを踏みすぎて、タイヤをスピンさせてしまう。「気をつけてー!」と嫁が叫ぶ。さすがに僕も緊張する。こんなことなら素直に手前の白石でおりれば良かった~。ようやく信号の明かりが見えてホテルの看板を頼りに角を曲がる。約束のチェックイン時間を数分だけ上回っていた。
宿は近辺で一番規模の大きいホテルにして、少々野暮ったい観光ホテルだった。部屋は随分ゆったりしていたが、床のカーペットには所々シミが付いていて、築年数の長さを思わせた。とりあえずくつろぐために浴衣と羽織に着替えてダイニングルームへ。
夕食のメニューは『ビッグ アメリカン ステーキ!USサーロイン250グラム』のコース。嫁の機嫌取りに主役は肉にしたわけだ。ころがこれが命取り。暖かい内は柔らかくて美味しいのだが、やはりUS、冷めてくるといつの間にか硬くなる。嫁が残した半分まで平らげるのに少々苦労した。しまいにあごが疲れてこめかみが重くなった。やっぱり無難なフレンチコースにしときゃ良かったかなぁ。でも食わず嫌いな嫁はフォアグラなんか口にしないに決まっている。
さて、次はいよいよ温泉浴。ネットで検索したときに見た露天風呂の写真に期待しつつ大浴場へ。広々とした湯船に伸び伸び浸かれば体が芯から温まる。続いて今度は露天風呂だ。湯気で曇ったガラス窓の向こう、扉を開けるとすうっと冷気が吹き付ける。山間の宵闇の中に浮かび上がる風情のある木造りの床と柱、石造りの風呂と木造りの風呂。そして内庭の植木に景色良く積もった雪。立ち上る湯気の中に、ほんのりと柔らかい照明が灯されて幻想的な世界を作っている。とっぷりとお湯に浸かっていると、空から僅かに粉雪が降りてきて、その冷たさがまた清々しい。正に極楽、極楽・・・。
その後は、日常の疲れを癒しながら部屋でゆっくりくつろいだ・・・かと思えば、嫁は「カラオケやりた~い!」と唄う気満々。どうもこれが我が家でのお泊まりの基本パターンになりつつある。フロントで尋ねると個室は既に満杯、メインバーでは家族連れが酔っぱらって騒いでいる。仕方がないのでカラオケ・バー『カナリア』なる怪しげな部屋を覗いてみると、だ~れもいない。でも40人収容のボックス席とカラオケ用のステージが完備されいる。「すいませ~ん。」恐る恐る声を掛けると、カウンターの奥で暇そーにしゃがみ込んでいた若いボーイさんが、「あっ?いらっしゃいませ~。」なんてとぼけた声で迎えてくれた。
システムは『歌い放題・飲み放題セット!男性2,000円 女性1,500円』というから破格の値段。驚くやら安心するやら、すかさずこれに飛びついた。それからは僕たち2人だけのオンステージ。閉店まで散々歌いまくったとさ・・・。帰りしな精算を済ませて店を出ると、背後から「すげ~。」とため息を吐くような声が聞こえてきた。ほぉ~、すげーですか?そりゃあ当たり前です。なんたってボーカルの“いのっち!とチャーリー”なんですから。むふふ、またやっちまいましたなぁ~。こうして大満足の2人は仲良く部屋に帰って行ったとさ・・・。
翌朝も朝食を済ませてからまた露天風呂へ。チェックアウトが11時なのが嬉しい。すっかり油抜きされた僕たちは、ほっかほかに火照ったまま部屋に戻る。気がつくと嫁の実家から、2人同時に着信が入っていた。なにやら胸騒ぎがした。そしてやはり悪い知らせだった。嫁のお爺ちゃんが緊急入院したのだという。僕たちは慌ただしく帰途についた・・・。その後暮れから正月にかけて重苦しい日々が続くことも知らずに・・・。
※写真の一部は宮城蔵王ロイヤルホテルHPより拝借しました。