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いのっちのブルースは絆

ブルースハープを吹きながら歌う「いのっち!」のブログです。音楽と関わりながら家族や友人達と楽しむ日々を綴ります。

ライブスケジュール

1月17日(土)13:00~14:00 新潟ジャズストリート          ふくわうち滋烈亭◆新潟市中央区西堀通3番町258       TEL025-229-6700                         料金◆1,000円(フリーチケット)

鬼怒川でちょっと夏休み~その2

2012-08-22 15:48:49 | 旅行記

Pict0055 翌8月16日早朝、エアコンを掛けっ放しにしてすっかり冷え切ってしまった室内で目が覚める。するとHisaがベッドに潜り込んできた。ムムッ?と思いきや、直ぐに小さないびきをかき始める。どうやら寒くてたまらなかったらしい。な~んだ。猫みたいだな。エアコン切ってくれればいいのに・・・。これまたつけっ放しのテレビが、オリンピック選手達の帰国や近頃騒がしい領土問題を報じている。それでもしぶとく掛け布団にくるまってまどろんでいると、窓から明るい光が差し込んで、今日の晴れ模様を知らせてくれた。

Pict0054 ぐずぐずしている内にも容赦なく時間は過ぎる。朝食の予約は8時だったから、もう出向かなければならない。場所は昨晩と同じレストラン。メニューはお魚中心の和風膳だった。普段から朝食を摂らないHisaは、付け合わせのスクランブルエッグとハムとマグロの山かけなんかを口にした後、なかなか食が進まないでいる。僕は僕で、いつものように彼女の残したお粥まで平らげてお腹が一杯になってしまった。
Pict0057 そのあとは二手に分かれて、僕は一風呂浴びて元を取り、彼女は部屋に戻って身支度に手間を掛ける。さっぱりして部屋に戻って寛いでいると、「あっ、船が来たよ!」Hisaが声を上げた。そこで窓辺に近づいて峡谷を見下ろしてみれば、ライン下りの船が連なって進んでいる。「ほおー、良い眺めだなぁ。」流れの先には高い橋脚、鬼怒川ならではの風景が手に取るように見渡せた。ありふれた近場の観光地にしては、悪くない選択だった。
Pict0058 それにしても戸外は既に蒸し暑い。今日は少し上流の竜王峡を散策してみようかと考えていたけれど、それなら思い切って足を伸ばし、奥鬼怒の涼風を楽しんでみようと変更することにした。そう言うことでチェックアウト。会津西街道を北に戻って、川治から西に折れ川俣温泉、そのまた先の奥鬼怒温泉郷に向かう。
 車を走らせて20分程、川俣温泉を過ぎた辺りから、道はどんどん細くなって、峡谷に沿って曲がりくねり、人家も見えなくなった。時折すれ違う車も、互いに譲り合わなければ通れない。左は深い谷間、命綱のガードレールは所々ひん曲がって錆びている。右は山の尾根に向かって切り立った壁で『落石注意!』の標識が不安をあおる。忘れた頃に食堂が現れれてホッとする間もなく、『熊注意!』の看板。「大丈夫なのぉ!」と不安になったHisaが問いかけてくる。「大丈夫でしょう。」そう言ってハンドルを握る僕だったが、なにせ初めての場所。正直この先どうなっているのかは分からない。温泉があって、バスも走っているんだから何とかなるさぁ~。なんくるないさぁ~。なんてボケをかまして自分を励ましてみる。
Pict0063 そのうち、そろそろ引き返した方が身のためかな~と弱気になったところで、突然視界が開けて女夫淵温泉に辿り着いた。それにしても、さすがにここまで来ればずいぶんと涼しい。爽やかな風が心地よい。バス停並びの駐車場には十数台の車が停まり、リックサックにトレッキングシューズ姿の年配の一団が山に向かっ歩いていた。
 ここは奥鬼怒自然研究路の起点。これからうっそうと茂る原生林の中に分け入って秘境を探勝することになる訳だけれど、僕たちの出で立ちは間違いなく際立っていた。Pict0059真面目なトレッカーに白い目で見られそうなお気楽な軽装。すんませ~ん。それでもここまで来たのだからご勘弁。気を取り直して件のグループを追いかけた。
 先ずは鬼怒川の源流に掛かる橋を渡ると、いきなり見上げるような鉄製の急な階段。ここで早くも断念して緩やかな広い車道を上る。虻の一群に悩まされながら暫く歩いてようやく案内板を見つけた。『奥鬼怒自然研究路』という文字の下に矢印。薄暗い木立の中を指している。「え~っ、ここ入るのぉ~。」Hisaはご不満の様子だったが、僕は聞こえないふりをしてそのまま進んだ。「こわいよぉ~。」更に訴える彼女に「ここまで来たらしょうがないよ。」と引導を渡す。そうして枯れ枝を踏みしめながら歩く僕の後ろを彼女は諦めて付いてきた。
Dsc_0178 10分程して二股に分かれる。道しるべには『左-奥鬼怒温泉郷3.4K、右-女夫淵温泉0.2K』とあった。僕は近い方に寄ってから本道に戻ればいいと考えて、何の気無しに右を選んだ。すると、どうだろう、道はどんどん山を下って行く。終いには見覚えのある鉄の階段、その先には橋まで見えてきた。どうやら振り出しに戻ってしまったらしい。「あれぇー、元に戻っちゃったぁー。」僕は照れ隠しの言い訳するように「坂を上って引き返すのはど~お?」と提案したが、Hisaは「嫌だ!」とにべもなく一蹴した。残念だがこれまで。まあ、僕たちのような不心得な根性無しにはちょうど良い体験だったのかもしれない。Pict0061_2 3.4Kの山中トレッキングは、たった200メートルの坂下りで終わってしまった。なさけなや~。後で調べてわかったのだけれど、本コースは所要3時間30分ということで、昼食抜きの強行軍だったら遭難してしまったかも知れない。おそろしやぁ~。
 帰りの車中、助手席の彼女はいつの間にか眠りこけていた。あらもう疲れちゃったのねぇ~。暫くしてスッキリした彼女。今度は「お腹空いたぁ。」と宣う。もうお昼を大分回ってしまったから仕方ない。しかしこの辺りは判で押したように蕎麦屋しか出てこない。ならばと急いで鬼怒川温泉にとって返す。

 ナビを頼りに、『石窯焼きピザが名物!』というイタリア料理店に辿り着く。さっそくドアを開けるなり「予約のお客様とお待ちのお客様でお終いですぅ。」と断られた。パートらしいおばさんが、もう沢山とでも言うように愛想がない。ガイドブックに掲載されて人が集まるのは良いけれど、忙しすぎて客あしらいが悪くなるのは逆効果なのではとつくづく思った。
Pict0069 「お腹が空いたぁ!!」いよいよHisaの機嫌が悪くなる。さあ困った。ガイドブックを開いて更に探してみる。するともう一件のお店を発見。改めてナビをセットし会津西街道を更に南下。小佐越駅の先を分岐して鬼怒バイパスに乗って直ぐ。沿道にピッツァ&パスタ『香音(Canon)があった。広い駐車場を前にしてログハウスのような店舗。ウッドデッキのテラスには白いパラソルが開いたテーブル。玄関に入るなりウェイトレスが愛想良く出迎えてくれた。そして大きく縁取られた窓際の席へ。ゆったりとした店内と戸外の景観が作る雰囲気は、リゾート感に溢れている。

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 注文はHisaが大好物のパスタにしようかなと思えば、意外にも彼女は「肉食べたい!」と宣う。よほどお腹が空いたと見える。そうして「チキンのグリル!」という彼女の選択に引きずられて、僕も「ハンバーグ!」とオーダーしたところ、「昨日も食べたのに~。」とたしなめられてしまった。なるほど仰るとおりだった。Pict0070 すっかり忘れているのも問題だなぁ。歳の差婚の果てに夫が痴呆になる悪夢に苛まれる彼女の心中を察した。ん~、洒落にならないかも~。さっぱりとした冷静スープとドリンク付きのセットをいただいて、期待なしに訪れたわりには美味しい昼食にありつけた。

 さて帰りはナビを屈指して最短のコース。とは言っても、何かにつけて有料道路を示すシステムに逆らって最後の手段、『広い道路』という不可解なカテゴリーのボタンを押したところ。ようやく出た納得の選択!会津西街道から逸れて461号日光北街道へ。広く整備された国道を矢板までストレスなくひとっ走り。そこから国道4号を経て西那須野塩原ICから東北道で郡山へ。Uターンラッシュとは逆方向だったお陰で、渋滞とは全く無縁の極楽走行。疲れる暇もなく2時間弱で無事帰宅できた。
 観光王国の栃木県はまだまだ奥が深い。日光、鬼怒川ときたところ、次回はもっと近い那須あたりにしようかな・・・。それにしても、今回初めて新型のナビを利用してみたのだけれど、ことのほか重宝いたしました。またよろしくですっ!新しい愛車マツダCX-5とナビくん。


鬼怒川でちょっと夏休み~その1

2012-08-21 15:04:50 | 旅行記

Pict0056 8月15日、早くもお盆休み終盤。一泊2日の小旅行にお出かけした。5連休のスタート12日は母を外泊させ、翌13日に墓参りをしながら病院に送り、続いて14日にはHisaの実家の新盆のお手伝い、そのまた親戚の新盆とかけ回った。

 そして一夜明ければようやく休暇らしい休暇。それでも一息吐く間もなく、早起きをしてバタバタと支度にかかり、なんとか午前のうちに我が愛車で東北道を南下。栃木県は鬼怒川温泉に向かった。通行車両はいつもより多かったものの、早めに出発したお陰で渋滞という程に混み合うこともなかった。
 小一時間走って西那須野塩原ICで下り、400号湯の香ラインを西へ。そこからおよそ30分で121号会津西街道に突き当たる。それを南に折れて暫く下ると、ダムによってできた五十里湖を横目に川治温泉へ。その辺りでちょうどお昼になった。そこで街道に沿って走る会津鬼怒川線の一駅先の竜王峡駅近く、目星を付けていたふるさとの料理わらび』に車を着けた。小綺麗な創作和食の店である。
Pict0020 待合いでひとしきりすると見晴らしの良い窓際のテーブルに通された。さっそく、僕はガイドブックに載っていた『大田原牛ハンバーグ御膳』、Hisaは『霧降高原うこん豚ステーキ御膳』を注文した。ハンバーグはナイフを入れると肉汁が溢れ出し、うこん豚はさっくり柔らかい。どちらもポン酢風味のおろしダレだったけれど、さっぱりとして美味しかった。鬼怒川の名勝竜王峡付近の緑豊かな景観を楽しみながら、ゆったりとランチがいただけた。

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 さてその後は、メインイベントの『鬼怒川ラインくだり』。お約束だけれど、数年前に体験した岩手は一ノ関の『猊鼻渓舟下り』が、とてものどかな印象だったので、期待して乗ってみることにした。車を走らせて20分程で、鬼怒川温泉駅近くの専用駐車場に辿り着く。専用とは言いながら500円はちゃっかり取る。これもまた観光地ならではのこと、なにかにつけて無心されるのが旅の常と言うものだ。
Pict0027_2 老舗の鬼怒川温泉金屋ホテル前をやり過ごし切符売り場まで歩いて行くと、木製の船を5艘積み上げた大型トラックが目の前を横切った。見れば1艘ずつ断崖の底に向かってクレーンで降ろしている。なんとも大胆なやり方だ。切符を買って、つづら折りの階段を下りたら船着き場の川原に出る。浅瀬に並んだ船の回りで、屈強な船頭達が黙々と準備に掛かっていた。
 乗船時間を待つ間に70~80人は集まったろうか、その中でHisaは誰よりも顔を強張らせてカチカチに固まっている。口先だけはおてんばだが、いざとなると臆病風に吹かれるんだよね。Pict0028_2 ・・・船着き場に向かう車中、立岩橋の上から峡谷を見下ろした時、ちょうど水しぶきを上げながら流れて行く船が見えた。「怖いよぉ~。」彼女はそれを目の当たりにしてすっかりすくんでしまったのだ。・・・
 「ライン下りの切符をお持ちの方は並んでください。」係りの若者の声に乗客達が集まる。そうして5艘の船に各々15人ほどが振り分けられた。僕たちは2艘目に乗り込んで救命具の装着方法や水しぶき除けのビニールシートの取り扱いなどを聞く。ここに来てHisaの緊張はますます高まっているに違いない。

Pict0029 さあ出発。船頭が操る櫓のきしむ音に従って、船は滑るように動き出し、彼が川面に向かって反り返る度に少しずつ速度を増していった。水の流れは至って穏やかだったけれど、それでも川幅や水の深さ、溜まりや浅瀬によって変化する。船頭はそれを良く知っていて、難所を前にすると「は~い、シートを上げてくださ~い。」「もう降ろしていいですよ~。」と案内する。勢いよくはじけ飛んだ水滴が、時折顔に当たって、臨場感を増した。

Pict0030 両脇を断崖に挟まれた川辺は、冷ややかな風が吹いて心地良かった。Hisaは既に場に馴染んで表情が落ち着き、この夏らしい風物詩を楽しんでいる様子だった。見渡すと、連なって進む船とは別に、ゴムボートに乗ってラフティングを楽しむグループもいた。ヘルメットにライフジャケットの重装備で、7、8人が各々パドルを手に水面を掻いている。中には若い女性だけのチームもあって、頼もしい限り。急流でバウンドしたり、溜まりで休んだり、時には2、3メートルの高さの岩場から飛び込んだりと、川遊びを満喫している。

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Pict0038_2 そうこうする内に件の立岩橋の真下を通過した。遙か頭上の橋がどれ程の高さなのかを改めて実感する。そして間もなく楯岩大吊り橋。欄干に捕まりながら峡谷を見下ろす人々が小さく見える。船頭に促されて手を振ると、向こうも手を振って応えてくれた。
 出発してから30分程過ぎて、川はいつしか湖のように深く静かな淀みになる。ここからは、5艘まとめてモーターボートに牽かれ、船着き場の渡しに寄せられる。そこで船は5艘重ねてトラックに積まれて、再び出発地点まで運ばれるという。なるほどそう言う仕掛けになっていたのか。僕たちは沿道のバス乗り場で迎えを待ち、鬼怒川温泉駅前まで運んで貰い、そこから車に乗り換えて宿に向かった。
 10分程で鬼怒川パークホテルに到着。緑に囲まれたエントリーは、自然の癒しを感じさせるリゾートの趣。木立の中の遊歩道を抜けるとこぢんまりとした玄関が出迎える・・・。ここまではそれなりなのだが、予約したコテージが思いの外遠かった。本館を突き抜け、非常階段を下り、別館をやり過ごして、貸し切り露天風呂を横目に屋根付きの歩道をだんだんに下りて行く。ようやく辿り着いたのは、小さく仕切られたマンション風の建物だった。案内の仲居さんも、受付から行き来するだけでくたびれるのか、簡単な説明の他に多くは語らなかった。直前に予約したものだからHisaのご希望だった和室は叶わず、離れと言うにはあまりにも遠い安息の場所だった。更に残暑と疲労が追い打ちを掛けてHisaはいささかお冠だった。

Pict0043 ベッドの上に大の字になり一息吐いてからお目当ての温泉へ。大浴場は手入れも行き届き、お湯は透明で癖がなくまずまずだった。遠くに蝉の声を聞きながら、木陰で浸る露天の岩風呂も心地よい。少々残念だったのは、子供じみたはしゃぎ方をする学生達と、そして調子に乗って水掛け遊びに興じる子供連れの若い父親に遭遇してしまったこと。癒されるどころか騒々しくて閉口した。リーズナブルな宿を選んだ結果がそんなところに現れた。

Pict0045_3 夕食は玄関を出て前庭脇のレストラン。人口の滝を演出したプールを眺めながら2人がけのテーブルに着く。メニューは和風懐石に特選和牛、那須高原麦豚のロース、地鶏の陶板焼き。付け合わせは月並みだったけれど、肉はどれも極上。和牛はとろけるほど柔らかく、豚は風味豊か、地鶏は小気味よい弾力で何れも甲乙付けがたい食感だった。これ焼き鳥にしたらさぞかし上手いだろうなぁ。なんぞと野暮なことまで想像してしまった。

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 食後は頑張ってもう一風呂浴びていこうと決心していたのに、Hisaの「カラオケやりた~い。」の要求に優先順位の座を奪われてしまった。そこで貸し切りボックスをお願いして彼女のワンマンショー。ようやく納得していただいて、再び長い道のりを歩いてコテージに戻った。
 と、先を歩いていたHisaが立ちすくんでキョロキョロしている。「お部屋がわかんなくなっちゃった~。」と彼女。何をバカなことを言っているんだろう。ルームキーの番号を順番に辿っていけば・・・、あれ?無いぞ!110のとなりが無くて次が112。111が消えてしまって真っ白な扉。一瞬ぞぉ~っとした。しかし勇気を振り絞ってドアの前へ。すると、うっすらと黄色い文字で・・・111。あーっ!あったぁー!なんと外灯の光に消し込まれていたのだった。それにしても他の部屋の文字は緑や黒なのに、よりによってどうしてここだけ黄色なんだろう。人騒がせだなぁ。この怪奇現象、おそらく他のお客も肝を冷したに違いない。

 そんな事件の後、疲れ果てた僕たちはエアコンで部屋をガンガンに冷やしながら爆睡したのでした。


ああ、日光は雨だった~その3

2012-05-15 14:34:34 | 旅行記

Pict0087_2 5月2日夕方、神社参拝で時間が押した上に『遊晏山房』でのんびりしてしまったから、中善寺湖に戻ったのは4時過ぎだった。今晩の宿『中善寺ペンション』は湖畔の分岐点立木観音入り口から間もなく。高台から湖面を見下ろす絶好の場所にある。でも残念なことに、雨足は更に強まり、観光どころではなくなってしまった。前線を伴った低気圧が本州の南海上を北東に進んでいるために、関東だけでなく全国的に大雨になっているらしい。
 駐車場から玄関まで荷物を抱えて小走りに駆け上がる。そこで別棟から戻ってきた女将と一緒になった。「いらっしゃいませ~。雨の中大変でしたねぇ。」と気遣う彼女に、僕は「いやいや参りましたぁ。」とこぼした。ゴールデン・ウィーク真っ直中、宿泊先、旅行者どちらににしても迷惑な天候には違いない。
 チェックインとともに夕食と入浴の時間を確認した。風呂は家族用が2つあるという。ひとつ選んで食後に予約した。部屋に入るとすかさずベッドに寝ころんでくつろいだ。今日は雨の中を歩き回ったので、体が冷えて大分疲れた。2階の窓から臨む湖は、土砂降りの雨に煙って霞んでいる。暮れ始めるにつれて周囲に外灯が点り、ロマンチックな雰囲気を演出しはじめたけれど、残念ながらそれを楽しみに出掛けることは出来ない。仕方がないので荷物の整理やら、明日の準備を始める。デジカメ、スマホ、髭剃りを充電しながら、昔はこんなに電化製品を持ち歩くことなどなかったなぁとしみじみ思った。
 戸外が闇に包まれた頃、夕食を採るために別棟のレストランに向かう。降りしきる雨の中の移動は少々億劫だった。フロアには6組分の食卓が用意されて、3、4組は既に席に着いていた。女性2人の1組を除いて、他は総て示し合わせたように団塊の世代の夫婦らしき熟年カップル。僕たちはと言うとそのどちらにも属さない訳でいくらか違和感を覚えた。
 そのうちに左隣のテーブルの太った女性が時折こちらを見ているのに気がついた。会話も弾んでいない様子で暇をもてあましているのか、それともこちらに興味があるのか。Hisaは「ねぇ。私たち不倫旅行に見られてるんじゃない?」なんぞと囁いて喜んでいる。なんじゃそりゃ。自分だけ若い振りしてぇ。「そうかなぁ。」僕は少しむっとして反論した。僕たちは確かに年の差夫婦には違いないが、そんな怪しい2人連れではない。まして本当にそうだったら、もっと人目に付かないホテルを選ぶんじゃないのぉ?な~んてむきになっても仕方がないんだけど。

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 飲み物をオーダーした後に、前菜のサラダとスープが運ばれ、続いて中禅寺湖名物のマスのソテーが登場。淡水魚は食べないHisaには酷かなぁと心配していたところ、彼女は「がんばって食べてみる。」と恐る恐る腹を開いて白い身を口に運んだ。そして「あっ大丈夫。」と言ってそっくり平らげてみせた。そうなんだマスは元来淡泊な味で、鮎なんかより癖がない筈だから。さてメインはお目当てのステーキ。程よい柔らかさだが、タレが強めで肉の持ち味が大人しくなってしまったけれど、ファミレスならそこそこというところか。しんがりはデザート。でも2人ともほとんと手を付けられなかった。近頃小食なHisaと、彼女のステーキ半分まで平らげた僕は既にギブアップだった・・・。
 部屋に戻って、はち切れそうなお腹を持てあましていると、間もなく入浴の時間。2人揃って家族風呂に出向くと、それだけで息が上がってしまった。ビールも飲んだしなぁ。などと情けない言い訳をする。温泉ではなかったけれど、2日続けて湯船にしっかり浸かってみると、大分体も解れて調子が良くなった気がする。2人がゆったり入れるお風呂で、四方山話をしながら入れるのもたまにはいいもんだねぇ。
 そのあとは何するでもなくTVを眺め、ニュースで大雨の被害が報じられれば、思わしくない明日の天候を憂いだりした・・・。
Pict0078_5 翌朝、雨足は少し落ち着いたものの、一向に止む気配はなかった。オムレツと焼きたてロールパンの朝食をいただいた後、今日の行動を思い描いてみても、野外の散策など不可能だった。 するとHisaがガイドブックに載っていたオルゴール館に行きたいと言う。珍しく少女趣味な選択だった。それではと出発。立木観音入り口の三叉路をいろは坂に向かって程なく、道路端にそれはあった。店内には数々のオルゴールと共に可愛らしい小物が揃えられ、あたかも童話の世界の様だった。そこには実際に手作りできるコーナーもあって、子供連れのお客達も訪れていた。
Pict0081_3 気がつくとHisaが飾られた商品を手にとって眺めている。その姿は普段のお転婆娘とはうってかわって、お淑やかな乙女を思わせた。そんなところもあるんだねぇ。彼女はクラシックな宝石箱と写真立てをねだった。しかし僕は、ここのところ無駄遣いの多い彼女を敢えてたしなめようとした。ところがその時、目の前で小学生らしい少女がもっと高価な宝石箱を父親に買って貰ったものだから、僕の男心に火が点いてしまった。そうして競うように買ってあげたのだった・・・。
 店を出て車を走らせると、Hisaは黒磯のCAFE SHOZOに行きたがった。しかしそれは周辺の可愛い小物や洋服のお店でお買い物をすることも意味する。既に今回の予算も超過しているところ、さてどうしたものか・・・。

 僕は、白河の北、羽鳥湖高原にあるリゾート、レジーナの森を思い出した。そこで旧友のN川くんが働いているのだ。彼は僕たち2人が出会ったばかりの頃、良く通ったお洒落なバーの主。そして昨年11月の結婚披露宴では、M沢さんと2人でシェイカーを振りお祝いのカクテルを作ってくれたその人だ。それ以来あっという間に半年、いつかお礼に行きたいと思いつつ時が流れてしまった・・・。行くならば願ってもないチャンス。Hisaに提案してみると「私もN川さんに会いたい。」と言う。交渉成立。

 日光宇都宮道路から東北道に入り、何度か渋滞に引っかかりつつも昼過ぎには白河に辿り着いた。ここからは山間のワインディングを飛ばしながら、次第に急勾配の山道になる。きついカーブが続く雑木林を抜けて視界が広がったところが羽鳥湖高原。そこから間もなくレジーナの森があった。
Pict0089_2 N川くんはそのリゾートのレストランに居た。途中で電話したものの結局通じなかったから、突然の訪問で驚かせてしまった。それでも彼は屈託のない笑顔で迎えてくれた。そして仕事中ながらも合間を見てテーブルに出向いてくれた。お陰で僕たちは久しぶりに旧交を温めることができた。彼は副店長としてここで働いていたが、連休明けには新しい職場に移るという。そこではなんとあのM沢さんが待っているらしい。ということは、今日を逃していたら会えなかったと言うことか。天が与えてくれたまたとない機会につくづく感謝した。
Pict0090_3 昼食後、またの再会を約束してN川くんと別れた。そうしてしみじみと思った。皆それぞれの道を歩みながら、己の立ち位置で頑張っている。そしてお互いを勇気づけている。ここに来て良かった。かつての仲間の絆を再認識したような気がした。 みんな!改めて僕たち新米夫婦を暖かく見守ってね!宜しくお願いしま~す。
小旅行の締めに、殊勝な気持ちになって自宅へと帰途についた。最後まで雨に祟られた今年のゴールデンウィーク。案外中身は濃かったかも知れない・・・。

 数日後、仕事帰りに買い物に寄った店で今度はM沢さんに遭遇した。彼も帰宅途中に買い物に来たと云う。相変わらず飄々とした風貌で、新しい勤務先である那須のリゾートホテルについて語ってくれた。これこそなんたる偶然の巡り合わせ。かの縁結びの神様の御利益だとすれば大変有り難いことであります・・・。


ああ、日光は雨だった~その2

2012-05-12 11:08:51 | 旅行記

Pict0048 5月2日、雨が降り続いている。4階の窓から戸外を眺めながら恨めしく思った。Hisaは「テレビが映らない!」と朝からご機嫌斜めだ。おかしいなぁ。僕は寝しなに見ていたのに。リモコンをいじってみてもダメだった。せっかくなので3度目の温泉通いとも考えたが、彼女の様子をうかがいながら、心当たりをあれこれ探しているうちに、朝食の時間になってしまった。

 メニューはシンプルにご飯とみそ汁と山菜。塩鮭と豆腐の陶板焼き。調子に乗ってお代わりをしてしまってた。チェックアウトの10時までゆっくりして出発。小雨降る湯の湖のほとり湯元界隈を車で散策し、中禅寺湖へ。そしてコーヒーハウス・ユーコンで一服。ここは金屋ホテル系列で『百年ライスカレー』が有名なお店。朝食後の口直しにカフェオレとモンブランをいただく。山荘の風情溢れる居心地の良い場所。離れのトイレまでかわいい山小屋風だった。

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 日光市街に移動する道すがら、華厳の滝の下り口は大分混み合っていた。Hisaが「前に行ったからいい。」と言うのでやり過ごす。そのままいろは坂を下って町内に入り、大谷川に架かる朱塗りの神橋を横目に東照宮方面へ。市営の大駐車場手前にお目当ての洋館がある。『明治の館』という洋食レストラン。時代を感じさせるレトロな内装が評判。しかし既に空き待ちの状況。勧められるままにテラス席に。屋外用のヒーターは焚いて貰ったもののやはり少し寒かった。Hisaは店内の重厚な明治の雰囲気に触れたかったらしく、少々不満げだった。それでも料理が届けば気を取り直す。彼女は焼きポークのデミグラスソース。僕はロールキャベツ。ロールキャベツはナイフを添えるだけで切れてしまう程の柔らかさ。そして見た目よりもさっぱりとした味付け。「ねえ、食べてみて。」Hisaが少し残してくれた焼きポークは香ばしく柔らかい肉にこくのあるソース。そして付け合わせのマッシュポテトは、丁寧に裏ごしされた生地に濃厚なバターの風味が加わって絶妙。どちらも今までにない美味しさだった。

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 さて、お腹がいっぱいになったところで恒例の神社詣で。傘を手に足下に気を配りながら歩く。東照宮はいつもながら多くの参拝客で賑わっていた。連休にも拘わらず制服の中学生まで集まっている。僕達は人気を嫌って二荒山神社に流れた。

 五重塔から上新道に入るところ、何気なく看板に目をやると、『二荒山(ふたらさん)』と仮名がふってある。これは驚き!僕は宇都宮に6年住んで以来、今まで宇都宮二荒山神社を『ふたあらさん』と読んでいたのだ。なんともお恥ずかしい。しかし!よくよく調べてまた驚き!HPには確かに『ふたらさん』とあるのに別のルビ付の読み仮名は『ふたあらさん』。これじゃあどっちが正しいか分からない。更に検索すると宇都宮の二荒山神社は実のところ『ふたあらやま』だった。おまけに市民からは『二荒さん』の愛称で親しまれていると云うからなんとも紛らわしい・・・。更に日光(にっこう)という地名は、俗説として「二荒」(ふたあら)を「にこうと読んで「日光」を当て字したものなんだと!ますますややこしい。おまけに「ふたらさん」の読みは、観音菩薩が住むとされる補陀洛山(ふだらくさん)が訛ったんだって!もう無限ループだなぁ、こりゃあ・・・

 つまらない屁理屈はさておき、二荒山神社は縁結びの神様として名高い。どうりで若いカップルの多いこと。それでは僕たちも参るとしよう。楼門をくぐって札所脇に、太い古木が二本立ち構える『夫婦円満杉』が奉られている。Hisaは早速それにあやかろうと熱心に拝んでいる。しかし、神門の内、参道を挟んでその向かい側にも三本の古木があって、そちらは『家内安全杉』。しかもご丁寧に賽銭箱まで用意されて、なんとも商魂逞しい。

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 さて踵を返して本社参拝。賑々しくお参りした後に、四百円支払って拝殿入り口、ついでに本社脇の神苑という小さな社の集まりを拝観できるのだった。料金は安いものの、陳腐な展示物ばかりで、やはりお約束のように賽銭箱が置いてある。これでは小銭がいくらあっても足りない。それでもHisaはその都度神妙に夫婦円満、家内安全を祈願して、あまり信心深いとは言えない僕を引っ張って社を一回りさせたりしては、賽銭を放って柏手を打った。お花見のくだりでも書いたけれど、彼女はと言うか、女性はこういう事にはとても熱心なのだ。

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 雨中境内を歩き回ったおかげで2人ともすっかり濡れネズミになってしまった。雨足は次第に強くなる。早々に暖かい場所でくつろぐために、急いで来た道を戻る。行き先は明治の館別館の『遊晏山房』。駐車場の背後を登り、裏庭の木立のなか細い道筋を分け入って進むと、緑に埋もれるようにひっそりと佇む平屋の洋館が見えた。好き放題に枝を伸ばした庭木の間を縫うように進み、濡れた庭石に足を取られながら辿り着くと、入り口の奥からフロアマネージャーらしき中年の男性が、ガラス戸越しに招き入れてくれた。

Pict0065 もう既に3時近い。ランチのお客達はとうに引けてしまった様子。心配になって「いいですか?」と尋ねると、「どうぞどうぞお入り下さい。」と丁重に案内され、エントリーからすぐの窓際の席に通される。ガラス越しにしっとりと潤う初夏の風情を湛えた庭の景色が美しい・・・。

 彼の勧めで炭焼きコーヒーと焼きプリンをオーダー。話に寄れば、かつてのテレビ番組『料理の鉄人』の辛口審査員、「おいしゅうございます。」のきめ台詞で有名な料理記者の岸朝子が、テールシチューの食後に必ずいただくというデザート。その彼女にして「最高のプリン」と言わせる逸品ははたして如何なるものか。

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 そしてそれは大胆なデザインの大皿の中央に鎮座して、うやうやしく登場した。香ばしいカラメルの風味を楽しみながら、素朴な仕上がりのボディにスプーンを差し込むと、意外にもしっかりした手応え。これは綿ごし豆腐より固い。しかし、口に頬張ると滑らかに溶ける。しかも至極濃厚な味わい。なるほどねぇ。感心する僕達にマネージャーが人懐っこく語りかけてきた。「庭に小鳥が来るんですよ。椋鳥が水浴びをしたり、ヒバリがさえずったり。それを見つけては写真に撮るのが私のささやかな趣味でして・・・。」彼は目を細めながら嬉しそうにデジカメの画像を披露してくれた・・・。

 暫し僕達2人だけの贅沢な時間が流れた。帰り際、戸口を出たところで、マネージャーが追いかけてきた。そうして今度は庭木や咲く花の名前を教えてくれる。惜しみなく人に尽くそうとする彼の姿勢は、こちらが恐縮するほどひた向きだった・・・。


ああ、日光は雨だった~その1

2012-05-11 15:51:45 | 旅行記

Pict0020_2 5月1日、久しぶりに泊まりがけの小旅行。朝一番に東北道を南下。目的地は日光だ。ありふれた観光地だけれど、今回はちょっと大人の贅沢を楽しもうと考えた。更に本音を言えば、震災復興の高速道路無料化が3月末で終わってしまったから、庶民の懐具に合わせて、なるべく近場にした次第。
 天気は上々、道は上り車線の故か至ってスムース。宇都宮から日光宇都宮道路に分かれて日光ICで下り、そのまま真っ直ぐ霧降高原に向かって駆け上がる。途中三叉路を右に逸れれば霧降の滝。自宅から休憩場所の茶店に辿り着くまでおよそ2時間半だった。そもそも、ガイドブックで目星を付けておいた、斜向かいの『山のレストラン』で昼食をと考えていた訳だから、予定通り順調な滑り出しと言える。これまでの強行軍、盛岡や弘前に比べれば随分と安楽な道のりだった。
 高台に構える件の店は木立に囲まれて瀟洒な佇まい。その脇をすり抜けるように、雑木林を分け入って続く山道。でこぼこの石畳を5分程下ると、霧降の滝が見えてきた。間もなく展望台。一斉に芽吹いた木々の緑に山桜の桃色が映え、遙かに見下ろす谷間の奥に勢いよく流れ落ちる水柱。少し汗ばむような陽気に清涼感溢れる景観だ。

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 数人の観光客が眺望に見入ったり写真を撮ったりしている。僕たちもゆっくり休みながら、雄大な自然の立体感と豊かな色彩、耳を和ます清流の音色と頬を撫でる爽やかな風の感触を楽しんだ。Pict0008_3 そこから元の道を辿って上り坂、少々息が上がった頃、前方に見えてくるのがレストランのテラス。一服のお茶で喉を潤したい。そんなちょうど良い頃合のロケーションは見事だ。
 お昼にはまだ早い時間だったから、店内に入るなり見晴らしの良いテラス席に通された。先ずは飲み物をオーダー。谷を渡る小鳥のさえずりに耳を澄ますと、日常の胸のつかえがいつの間にかどこかに消えてしまう・・・。間もなく冷たい風が吹いて、雲が厚くなった空からぽつりと雨粒が落ちてきた。気まぐれな山の天候。ウェイトレスに頼んで店内に移動させて貰うことにする。

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 今度は、瑞々しい新緑を映す窓際のテーブル。テラスにも劣らない景観だ。山の空気に包まれながら食事を堪能できるのは贅沢この上ない。 2人でジャーマンハンバーグを頼む。程なく運ばれたプレートを見て、思わず「きれい!」と声を発した僕に、ウエイトレスは「ありがとうございます。」と落ち着いて答え微笑んでみせた。僕好みの粗挽き肉とナツメッグが利いた深い味わいに感謝。

 お腹いっぱいになって店を後にすると雨が降り出した。急ぎ車を走らせる。日光の町内を抜けていろは坂のワインディングを登る。明智平に到着する頃には雨は上がっていた。しかしドライブインの駐車場から臨む男体山の頂上付近は雲に覆われている。ダメもとでロープウェイに乗ってみた。すると広大なパノラマの中央に中禅寺湖そしてしぶきを上げる華厳の滝が見えた。

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 再び小雨が降り始める。予報ではこれから更に下り坂。今回の旅行ではここで絶景ポイントの見納めか。残念だが仕方がない。あとは温泉に期待するとしよう。中禅寺湖までドライブすると午後2時前。奥日光の宿のチェックインが3時だから湖畔のCafeでPict0032_2雨宿りする。『レストラン・シェ・ホシノ』。落ち着きのあるシックな店内に、「こんなおみせいいなぁ~。」とHisaも納得している様子。暖かいカフェオレで体を温めながら一息吐いた。壁際にグランドピアノと黒いギターケース。どうやら何かイベントもあるらしい。そんなこを思いめぐらしながら時が過ぎだ。

 雨の中、奥日光湯元温泉まで30分。戦場ヶ原を経て間もなく湯の湖が現れる。温泉地はその北西の岸辺。立ちこめる硫黄の匂いに思わず効能を期待する。今晩のお宿『湯元  板屋』は立ち並ぶ旅館街の入り口にあった。由緒ある宿をモダンに建て替えたようだが、既にいくらか傷みが見受けられる。2食付でひとり一万円だからこんなものか。

 

 さてそれではひとっ風呂。日々パソコンにかじりつき、目疲れとストレスでひどい頭痛持ちになってしまった我が身を癒しに行くとしよう。大浴場とまではいかないものの、ゆったりした露天風呂もある。暖簾をくぐると、真っ先に例の硫黄臭につつまれ、ドアノブや浴槽、そこかしこに凝結した湯ノ花が、独特の野趣を醸し出していた。なるほどこれは効きそうだ。乳白色の湯の中に肩から首の付け根までとっぷりと浸かる。芯から体が温まると、小雨降る冷ややかな外気がかえって心地よい。脳髄の奥深くまで凝り固まった僕の後頭部がどうにか元に戻ってくれればなぁ。そう願いながら首をひねったり指圧してみたり。歳を取るとやがてこんなことになる。なさけなやぁ~。

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 夕食は、豚シャブ付の和風懐石。もちろん日光名物の生湯葉を始め、旬の筍ご飯などボリューム満点。湯上がりのビールも手伝って、その場で横になりたい程満腹になった。そこに「カラオケ行こう~?」とHisa。彼女は羽織の袂から『飲み物サービス券』を取り出して誘う。「ねぇ、歌い放題で1ドリンク付で千二百円だから、これで2杯飲めるよぉ~。」こういう算段は見事なものだ。

Pict0038_2 ロビーの隣にスナックがあった。客の気配はない。カウンターの奥にバーテンがひとりポツンと座っていた。なんだか昨年末の蔵王を思い出してしまう。案の定また2人歌合戦。Hisaが熱唱していると、おもむろにバーテンさんが話しかけてきた。Pict0040 眼光鋭く小刀のように細く手入れされた眉、さっぱりと刈り上げて整えられた髪型。どう見ても元ヤンだ。彼は、冬の寒さ、戦場ヶ原の地吹雪、待ち遠しかった春のことなど、積もり積もった胸の内をぶちまけるように語った。横で唄っているHisaの気持ちもなんのその、上前をはねる高い声で畳みかける。どんだけ人恋しいのか?ホンマ失礼なやっちゃ!しかしそれでもめげずに約2時間、勝手にやらせていただきました。Hisaは彼の態度に憤慨していたけれど、充分元はとったんじゃないのぉ~?

 深夜、酔い覚めしてどうにも眠れなくなった。Hisaは眠っている。仕方がないので風呂に行ってみた。誰もいない露天風呂で、身を投げ出すように伸ばして深呼吸する。静かな宵闇の下で湯の中に溶け込んでいく。無心になり天然の慈愛をからだ全体で受け入れる自分がいた・・・。ありがたや、ありがたや。