命きらめいて☆馬、犬、猫など動物に関する理不尽な事件や心温まる出来事の記録

円山動物園マレーグマ虐待死亡事件/脱走シマウマ水死事件/動物虐殺事件/宮古馬放置死事件/上げ馬神事

脱走シマウマ水死事件の全容と疑問点

2016年07月03日 23時30分31秒 | 事件
事件の全容についての記事を編集し、判明した事実を加筆してわかりやすくまとめてみた。
(記事の題名は「溺死」からより正確な「水死」と訂正)

【バロン】
2014年6月19日
・大阪市天王寺動物園でヒデヨシとナデシコ(東部動物公園とブリーディングローン中)との間に誕生
・事件前日まで母親と一緒に天王寺動物園のサバンナゾーンで飼育されていた
・体高約120センチ、体重約200キロの雄で、アフリカのサバンナに生息するグラントシマウマである

2016年2月1日
・天王寺動物園から動物商Tへ動物交換によって譲渡され、そこから転売されることになる

※ブリーディングローンとは種の保存や繁殖のために動物園や水族館の間で動物を貸借する契約のこと


Photo by 天王寺動物園

Photo by 天王寺動物園

【脱走】
2016年3月22日
動物販売や移動動物園を手掛ける動物プロダクション(有)ガイアプロダクトに転売されたバロンは天王寺動物園からこの日輸送されることになった。いずれ移動動物園で展示するために、馴らしと調教を頼んであった預託先の愛知県瀬戸市三国山にある三国ウエスト農場(有)の乗馬クラブに5時過ぎに到着した。

5時20分ごろ、スムーズに輸送車から出て、放牧場に入ったのだが、直後に恐怖のためかパニックになり暴れて、1メートルくらいの囲いを鼻で押し上げ壊して脱走したのである。乗馬クラブのKを含む乗馬関係者3人と新しい飼い主Sの4人で捕まえようとしたが、どうしてもできなかった。

バロンは愛知県の瀬戸市方面ではなく岐阜県の土岐市方面の山に逃げ込んだので、所有者のSは午後7時20分ごろ、警察に通報し捕獲を要請する。岐阜県警多治見署は一帯の住民にシマウマを見かけても近寄らず、通報するようにアナウンスし、翌朝から捜索し捕獲することにした。その間、真っ暗な山の中を彷徨うバロンの写真がツイッターにアップされたり、国道を走る目撃情報が住民から寄せられた。


Photo by みほちゆん

2016年3月23日
翌朝6時半、バロンは国道のそばにいるところを写真に撮られている。


Photo by 小林哲夫

【逃走】
バロンを追っていた警官たちは民家から遠ざけるためにゴルフ場にバロンを誘導した。午前6時半過ぎ、ゴルフ場の従業員によってゴルフ場に入ったバロンが確認され、場内での大捕物がはじまった。警官約15人、乗馬クラブ関係者2人、獣医師3人、飼い主と合計約20名の人員が捕獲作業に携わった。




Photo by メ~テレ


Photo by yahooニュース

3月22~23日の脱走と捕獲の経緯がよくわかるニュース映像を下にいくつか集めてみたが全てではない。観るにあたっての注意としては新聞記事だけではなく、テレビの報道も各社が流していることは全く同じではないということだ。間違った情報も含まれている。例えば、乗馬クラブ関係者を飼い主か?だとか、追跡の最後の方で麻酔が打たれ池に入ってしまったとか、それらの回数も行動内容もまちまちな報道に驚いてしまった。

アフリカから来たシマウマだとしてレポートしたり、ほとんどのメディアがバロンは農場の乗馬クラブで飼われていたとしていたものが多かった。そのために、脱走したシマウマがまさか天王寺動物園にいたあのバロンだったとは誰も思わなかったに違いない。しかし、ありがたいことに、バロンに気が付いた人たちによるネット上での情報提供がいくつかあって、身元が明らかになった。

https://www.youtube.com/watch?v=69Q8wVNXEcQ&
https://www.youtube.com/watch?v=dtKuEDV16uA
https://www.youtube.com/watch?v=QhwhpF4432g

獣医たちの説明(中京テレビ)
https://www.youtube.com/watch?v=LytIrAolX0E

乗馬クラブへの取材と麻酔に(NHK 岐阜)
https://www.youtube.com/watch?v=blL60exUES0

11発中7発目が当たったところで池に向い誘導されるように落ちるバロン(テレビ朝日)
https://www.youtube.com/watch?v=C2g4sYdxk1Q

対岸に上がろうとするも痙攣がはじまり足腰が立たない様子がわかる
https://www.youtube.com/watch?v=Qy_JDzW_Bn4

登りかけて痙攣が始まり池に落ちる様子がよくわかる動画(後で非公開となってしまった)
https://www.youtube.com/watch?v=qhVkEgs9wf8

水中でもがいていたがすぐ動かなくなったバロン
https://www.youtube.com/watch?v=IWR_V-_cZKw

【捕獲】
映像からはどういう捕獲方針であったのかつかめないまま、時間だけが過ぎていった。ロープでの捕獲作業もことごとく失敗した。獣医師などによると捕獲は吹き矢で麻酔薬を打ち込み、動けなくなって倒れたところを軽トラックにのせて運ぶ予定だったという。

まず、土岐市の獣医Hが吹き矢3本で手持ちの麻酔薬すべて、およそ300ミリグラムを打ち込んだが、十分に麻酔は効かなかったので、応援の獣医師Nを多治見市から呼び、午後0時半までにさらに8本の吹き矢を打った。合計7本が命中し、麻酔薬あわせておよそ1300ミリグラムが体重約200キロのバロンの体内に入った。それは大きめのサラブレッドくらい、体重520キロの馬用の分量である。


Photo by 朝日新聞




Photo by BBC NEWS




つまり麻酔薬を標準の2・5倍も打ち込んだことになる。獣医たちは動きが鈍ってじっと立っているバロンに吹き矢を追加し、よろめきながら池に入ろうとするバロンを飼い主たちは止めもせず、誘導するように池に入らせてしまう。


Photo by メ~テレ


Photo by 共同


Photo by 産経

一度は今まで通り、対岸に上がろうとしたが痙攣が始まり、池の中に崩れ落ちてしまった。息をしようと暴れもがくバロン。だが、体がいうことを聞かず、泳ぐこともできない。バロンは人が追ってこないので、それまでも何度も池に自ら入り、泳いだりして対岸に逃れていた。今回もそのつもりで入ったのだろうが、痙攣がはじまり岸に上がることができなかった。弱々しく力尽きようとしていたが、誰も助けようともせず見守るだけであった。横に浮きながらもがいていたが力尽き、最期に数個の大きな泡ぶくを吐くと、まったく動かなくなった。その後、池から引き上げられた。


Photo by テレビ愛知


Photo by テレビ愛知

【死因】
警察によると引き上げられたときには、すでに心臓が止まっていたという。獣医たちから目を見開いたまま心臓マッサージを受けていたバロンが蘇生することはなく、午後12時45分ごろ死亡が確認された。死亡確定後、飼い主のSは動物好きなのだろう、ショックを隠し切れない様子を映し出されていたが、反対に獣医たちは安どしたのか笑顔を見せていたのが印象的だった。


Photo by BBC NEWS


Photo by テレビ愛知

冷たくなったバロンの亡骸はブルーシートに包まれながら、軽トラの荷台に乗せられて運ばれていった。獣医のリーダー的立場にあった土岐市の専従獣医師Hは「野生のシマウマを見たのは初めてだったし、どんなふうにやっていいのか分からずなかなかうまく薬が注入できなかった。麻酔が一番効いている状況の時にシマウマが池に入ってしまい、泳ぐことができず最悪の結果になった。なんともいいようがありません」とレポーターに答えた。

結局、解剖もされないうちに「池に入ったことによって低体温になり、薬が効き過ぎたため溺死した。」というH獣医師の発表で事件は片づけられてしまった。こうして人間のエゴと不注意によって、不本意にもバロンは1歳9ヶ月の若さで苦しみながら命を終えなければならなかった。19時間にも及ぶ逃亡劇のエピローグはこのように衝撃的で悲惨なものであった。


【疑問】 
・バロンはブリーディングローン契約に基づき繁殖されたのに、なぜ余剰動物になってしまったのか

・乗馬クラブに着いたとき、落ち着かせるために馬房に入れることをせず、なぜいきなり放牧したのか

・気は荒いがシマウマは猛獣ではなく、まして天王寺動物園では準間接飼育され人慣れしていたことから、 人に進んで危害を加えるものではないのに、なぜ必要以上に警戒していたのか

・時間があったのに、なぜ周辺の馬を扱う専門家の助けを要請しなかったのか

・興奮させたら麻酔が効きにくいというのは馬も同じだが、なぜ叩いたりして必要以上に追いまわしたのか

・多量の麻酔薬を打ち込んでいて効き始めている様子だったのに、なぜ待つことができなかったのか

・動きが鈍ってきてじっと立っていた状態で、なぜ再び麻酔を追加して打ち込んだのか

・なぜ危険な水辺の近くで吹き矢を打ったのか

・死因についてだが、合計で標準の2.5倍の薬が撃ち込まれたこと、痙攣からはじまって目を開いたまま死 亡していたことなどから、溺れてはいたものの、薬の過剰投与が原因でショック死したのではないのか

・なぜ解剖にまわして死因を確定しなかったのか

【原因】
関係者が以下のことをしっかりすれば事件は防げた可能性が高い。

計画的に繁殖させたのならばなおさら責任をもって最後まで飼うこと
新しい飼い主には責任を持って譲渡すること
シマウマを飼うにふさわしい施設を準備すること
輸送後はまず落ち着かせるために餌を用意した馬房に入れること
麻酔が効きやすいように刺激せず、興奮させずに打つこと
ヘリコプターや大勢のマスコミ取材を自粛してもらうこと
捕獲と獣医の専門家にアドバイスを受けること
麻酔の効き具合の様子をよく見ながら追加すること
麻酔で倒れる場所を想定すること
麻酔後の入水を阻止すること

これらのことがそんなに難しいことだったのだろうか

事件を掘り下げてみると不可解なことばかりだったが、一つだけはっきりしたことがある。この事件もマレーグマ・ウッチーの時と同じく、かかわったほとんどの人たちがグラントシマウマであるバロンの命を軽んじた結果起こった、ということである。関係者たちはこのことを重く受け止めてくれるよう、切に願いたい。


Photo by 朝日新聞


バロンがいたころのサバンナゾーン2015.9.7Photo by 天王寺動物園

事件の影響(加筆有り)

2016年07月03日 14時45分37秒 | 事件
このニュース記事によって新たに判明したことがあったので、下線で示すことにした。

NHK NEWS WEB
2016年03月23日 18時54分
脱走シマウマ捕獲も溺死

<23日午前、土岐市のゴルフ場に入り込んで逃げ回っていたシマウマは麻酔のため動けなくなった状態で池に入って溺れ、引き上げられましたがまもなく、死にました。
このシマウマは22日夕方愛知県瀬戸市の乗馬クラブ「三国ウエスト農場」から逃げ出した2歳のオスのシマウマです。
23日朝6時半ごろ瀬戸市の隣の土岐市の国道で見つかり、土岐市妻木町のゴルフ場、「名岐国際ゴルフ倶楽部」に逃げ込みました。
シマウマはコース内を走ったり池を泳いだりして5時間あまりにわたってゴルフ場内を逃げ回りました。
シマウマは吹き矢の麻酔で動けなくなった状態で池に入っておぼれ、警察官らに引き上げられましたがまもなく、死にました。
捕獲に当たった獣医によりますと溺れて死んだと見られるということです。
獣医師などによりますと捕獲は吹き矢で麻酔薬を打ち込み、動けなくなって倒れたところを軽トラックにのせて運ぶ予定でした。
このため、土岐市の獣医が吹き矢、3本で手持ちの麻酔薬すべて、およそ300ミリグラムを打ち込みましたが十分に麻酔は効かず、シマウマは逃げ回りました。
このため、応援の獣医師を多治見市から呼んで、午後0時半までにさらに8本の吹き矢をうち、
麻酔薬あわせておよそ1300ミリグラム、馬にすると体重520キロ分が体内に入ったということです。

池に入っておぼれたことについて捕獲にあたった土岐市の嘱託獣医、服部明さんは「野生のシマウマを見たのは初めてだったし、どんな風にやっていいのか分からずなかなかうまく薬が注入できなかった。
麻酔が一番効いている状況の時にシマウマが池に入ってしまい、泳ぐことができず最悪の結果になった。なんともいいようがありません」と話していました。…>



大阪市役所のサイトの「市民の声」係にはバロンの繁殖などに対して抗議が寄せられ、そこには抗議の内容とともに団体に送付された回答書とよく似た「回答」が掲載されている。

「市民の声」

「天王寺動物園のしまうま【バロン】が逃げ出し、捕獲の際に上手く捕獲できず、池に追いやり溺死させた件について。あのように苦しんで亡くなる結果になり大変悲しく、遺憾な思いです。
 元々あのしまうまは天王寺動物園で繁殖させられたバロンだと知りました。どうして余剰になるような繁殖の方法を取るのですか。余って居場所がないからとオスだからと、動物を親から引き離し、人間にもまだあまり慣れていないのに、きちんとした施設も用意できないような業者に引き渡したんですか!天王寺動物園にも問題があると思います。そもそもバロンの立場を考えるならば親から引き離し、いきなり知らない場所に連れてくるなど駄目な事です。余剰繁殖自体が問題です。初めから責任の持てない、動物が幸せでない繁殖などさせるべきではありません。捕獲の際も警察や獣医など知識もあまりないような人達になぜさせたのですか。知識ある天王寺動物園がアドバイスすべきであったと思います。捕獲の際になぜ天王寺動物園は関与しなかったのか、大変な過失ですね。
 そもそも天王寺動物園の動物達は全然幸せそうじゃありません。ストレスで鳴いてる動物や異常に動き回ってる動物達がいました。自然で暮らしたいに決まってます。あんなに狭い所に閉じ込め、可哀想でしかありません。もっと動物の立場になるように動物園を改良してください。本来は動物園自体が反対ですが。評判も悪いです。
 以上お話しした点を全て改善して頂きたく思います。天王寺動物園を含め全ての動物園に改善して頂きたく思います。大至急検討してください。宜しくお願い致します。良いお返事お待ちしております。」

「先日、愛知県内の乗馬クラブから逃げたシマウマが岐阜県内のゴルフ場に逃げ込み、捕獲作業によって死亡するという痛ましい事件がありましたが天王寺動物園にいたシマウマのバロンだと知りました。
 不要な動物が出るとわかっていても繁殖を行い、動物の数を増やしてその後、動物の飼育環境が徹底していない業者に渡してしまうとは人間としてとても無責任な行動だと思います。
 お金儲けの為に、尊い動物たちの命が軽々しく扱われる社会は危険なもので、子ども達の道徳教育にも悪影響だと思います。
 動物たちの命を尊重するように行政として徹底した指導を行ってください。」

「回答」建設局公園緑化部 天王寺動物公園事務所(電話番号:06-6771-2174)より

「当園で飼育しているグラントシマウマについては計画的な繁殖を行っており、バロンの母親もブリーディングローン(繁殖のための貸し借り契約)に基づき当園で飼育されているものであり、増えるに任せての自然繁殖ではありません。
 自園内のように施設等の状況を把握している場所で逃走事故があった場合には捕獲方法についての助言は可能ですが、今回のような広いフィールド内でなおかつ地理的状況も把握していない場所で逃走している場合は、捕獲方法についての的確な技術的助言ができず、曖昧な助言をすることでかえって捕獲作業に従事している方に危険を及ぼす可能性もあることをご理解いただきたいと思います。
 当園では動物園・水族館以外にも動物商との動物交換を行っておりますが、その際には動物商が「動物の愛護および管理に関する法律」に基づく「販売業」の登録を有していることを確認したうえで、同法に定める規定に照らして、当該動物商が動物の取引に関する関係法令に違反していないことを聴取し契約を結んでおります。
 今回、当園の所有であったシマウマが二次販売先でこのような不幸な結末を迎えたことについては非常に遺憾であり、今後再発防止の観点から動物の交換や譲渡を行う際には、二次販売先までの情報収集に可能な限り努めてまいります。
 また、飼育動物のほとんどが動物園等で生まれた動物となっている状況の中、動物園の動物に応じた動物福祉を考えていくことは大変重要なことだと認識しています。当園では動物の飼育環境に変化を与え、動物の生態から見て望ましい行動を引き出す環境エンリッチメントや、動物の安全な治療や収容などのための自発的行動を引き出すハズバンダリートレーニングといった手法を導入するなどの取り組みを進めており、今後さらに動物福祉の向上のために努めてまいりたいと思います。」

http://www.city.osaka.lg.jp/seisakukikakushitsu/page/0000322149.html

http://www.city.osaka.lg.jp/seisakukikakushitsu/page/0000322150.html

事件が終わるまで、近隣住民は長時間にわたって外出もままならなかったろう。ゴルフ場の営業をストップさせ芝を荒らしまくり、ニュースを見る人たちを呆れさせ、悲しませたこの事件。張本人たちはお互いのせいにしたいかもしれないが、一蓮托生なのだ。ネット上でいいので、迷惑や影響を受けた多くの人たちへのひとことがあってもいいのでは?と思う。

人間の不注意でバロンは殺されてしまったが、大きなケガをした人はなく、ゴルフ場も翌日から営業できたくらいの被害で済んだことは不幸中の幸いであった。