入門介護講座。老人ホームの選び方

元、「特別養護老人ホーム」の施設長が、施設の「選び方」などを、エッセイ風に伝授します。新聞でも紹介されたコラムです。

第5回 小さな親切、大きなお世話

2008-06-19 | 特養施設長覚書
 ある大手損害保険会社の、リスク・コンサルタントとして活躍し、「介護施設における利用者の事故防止」を研究している、主任コンサルタントに、Aさんという方がいます。

 その方は、東京都にある、ある「特養」が、至極お気に入りで、時どき、そこのショート・ステイなどに、職員と一緒になって宿泊し、「研究」されたりしています。

 その方が、なぜ、その施設を「お気に入り」かというと、イヤー、話を伺うと、その方自身も、すごく目が肥えているんですね。
 その施設は、「事故防止のために、入居者の生活を奪わない。」という、ポリシーが、徹頭徹尾、全職員に行き渡っていて、「目からうろこ」の経験をたびたびするから、だそうです。

 例えば、直近のお話では、3日前に病院から退院されてその施設に戻られた、認知症の高齢女性の話です。
 その女性は、体調不良で、1週間ほど、入院されていて、病院で、“拘束”的な生活をされていたので、歩行が出来なくなっていました。

 戻ってから、その施設の介護職は、寝かせきりは勿論、危ないからと無理にすぐ座らせようともせず(すぐ、座らせませんか)、「見守り」をしながら、バランスをくずしそうな、そのときだけ、絶妙のタイミングで手を貸すのです。
 このときは、このタイミングの「絶妙」さ、に感嘆されたわけです。
 バランスをくずす前に手を貸してしまえば、バランスをくずしたときに修正する、という能力が取り戻せなくなるからです。

 その介護職いわく、(夜勤で、そのときは大変でも)「あと2日もすれば、安定して歩けるようになるから、それまでの辛抱。入院前は歩いていたんだから。ここで、危ないからと、座らせちゃったら一生歩けなくなるよ。」

 よくありますよね。経験の浅い職員を見ていてください。例えば、車椅子に移ったとき、自分がかがんで、一生懸命、すぐ、足を車椅子の「足のせ」にのっけてあげるっていうの。
 あんなの、親切じゃないんですよ。
 まるっきりマヒされている方なら兎も角、なんでも、できるだけ、御自分でするよう、やさしく、声かけしつつ見守るのが一番いいのですよ。

 「ひどい」?ところでは、危ないから、とお年寄りに「包丁」も持たせないところもあるでしょ。長年、家族のために料理をつく打て来られ方です。もっと、考えましょう。
 
 かゆいところに手の届く、親切ないい施設、といったときに、ちょっと「疑う」必要があります。入居者、利用者を早く老いさせているのではないかと。

 このあたりの、難しさです。純サービス業とは違う観点が必要な所以です。
また、お年寄りの「骨」やリスクの特性と、施設の介護方針を具体的に、じっくり御家族にお話しておくことも大切です。このコミュニケーションがあれば、骨折などで「争い」には発展しません。
 現に、私は、これらで、一度も苦情を受けたことがありませんでした。
 
 ああ、これは、「選び方」のカテゴリーで書くべきだったかな。
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1 コメント

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施設にも人柄が? (タラレバ)
2008-06-20 00:06:51
あまり頻繁に書き込むのは控えようと思ってたのですが、今回もまんまと食い付いてしまいました。
ポリシーを貫けるのは、介護従事者の芯の強さや志しの高さもあるでしょうが、施設長や主任?との信頼の深さが大きく影響している気がします。うっかり犯人探しや証拠探しに終始してしまった過去を、各々がどう打破して士気を高めて行くか。一般企業でもよく耳にするお話ですね。初めからできた人材など存在しませんし、また経験年数で倫理観が成長するものでもないと思います。介護職は他人に触れるのだから臆病になって慎重になるのは当たり前、でも人間同士が向き合うのだから卑怯にはなって欲しくない。私は多少設備がボロでも、正直でいる勇気を持ってる施設がいいなぁ。どこかの高級料亭や、作り置き点滴医院みたいなのは腹が立ちますもの。
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