いむれ内科クリニック

愛知県豊橋市のクリニック
内科・感染症内科・呼吸器内科・アレルギー科

安全・安心な感染症診療

2020-10-21 00:16:51 | 診療
「いむれ内科クリニック」の院長の山本景三です。

当院は感染症を疑う患者さんを診察するために専用の待合室と診察室を備えています。これらの部屋は簡易的な「空気感染隔離室」にもなります。

患者さんが咳やくしゃみをして飛沫が発生すると、乾燥して空気中を長く漂います(飛沫核と言います)。患者さんが結核菌や麻疹(はしか)・水痘(みずぼうそう)のウイルスに感染していると、飛沫核の中に病原体が存在するので病原体が部屋中に長く浮遊することになります。専用待合室・診察室では気圧を少し下げることによって飛沫核が一般の患者さんがいらっしゃる区画に出ないようにしています。これを「空気感染隔離室」と言います。

さらに当院には「喀痰・鼻咽頭ぬぐい液採取室」があります。

肺炎や結核の診断には痰の検査が欠かせません。またインフルエンザや新型コロナウイルス感染症の検査では鼻に綿棒を入れてのどの奥の粘液を採取します。このような検査を行うと患者さんは咳やくしゃみをするため大量の飛沫が発生することになります。飛沫は周囲の方への感染のリスクになるため、検査には特別の対策をした部屋が必要です。

写真は「喀痰・鼻咽頭ぬぐい液採取室」でのどの奥の粘液を採取する検査をしているところです。部屋の壁に穴が開いており、検査をする者(私)が室外から腕を差し入れて行います。こうすることによって検査をする側も感染のリスクを減らすことができ、また防護服を着たり脱いだりする手間を省くことができます。またこの部屋も強力な換気装置を備えており「空気感染隔離室」となっています。撮影のため扉を開けていますが、実際は扉を閉めて検査を行いますのでご安心ください。

今冬は新型コロナウイルス感染症とインフルエンザが同時に流行する可能性も指摘されています。他の医療機関では駐車場にトレーラーハウスを設置したり、患者さんに自家用車で待っていただいて車外から診察するなど、いろいろと工夫されているようです。私は感染症専門医として開院当初から上記のような設備を整えて診療しています


新型コロナウイルス感染症対策としての紫外線空気殺菌装置を設置しています

2020-03-08 17:22:14 | 診療

新型コロナウイルス(COVID-19)感染症の患者さんが全国で増加しています。

報道されているようにコロナウイルスは元は風邪を起こすウイルス(のうちの一種)です。コロナウイルスは、新型コロナウイルスを含めて主に咳やくしゃみのしぶきにより伝播します。これを飛沫(ひまつ)感染と言います。またウイルスで汚染した手指を介して目・鼻・口の粘膜に伝播します。これを接触感染と言います。従って感染を防ぐには咳やくしゃみのしぶきを出さないように咳エチケットやマスクの着用が必要です。また手指衛生(手洗いや消毒)も大切です。

一方で結核菌や麻疹ウイルスは空気中を長時間漂うことが知られており、これを吸い込むことで感染します。これを空気感染と言います。新型コロナウイルスは現時点では空気感染の可能性はきわめて低いと考えられますが、ウイルスが一時的に空中を浮遊し感染源となる可能性は指摘されています。

当院では空気感染するような病原体までも無効化する特殊な紫外線殺菌装置UVGI(ultraviolet germicidal irradiation)を設置しています。床から高い位置で紫外線ランプを照射し部屋の上部の空気を殺菌します。空気は自然に対流するので次々に殺菌され、部屋全体の空気が清浄化します。紫外線は水平方向にしか照射されないような特殊な構造になっているので、部屋の中の人が有害な紫外線を浴びることはありません。またオゾンを発生しないため嫌なにおいもしません。このUVGI以外にも多くのメーカーから空気清浄機が発売されていますが、医療の現場で推奨されているものはUVGIだけです。当院では開院当初からUVGIを待合室・診察室・処置室に設置しています


インフルエンザはタミフルを飲まなくても治ります

2018-02-01 22:10:15 | 診療

「いむれ内科クリニック」の院長の山本景三です。年明けからずっとインフルエンザの流行がピークの状態でしたが、今週に入りやや減少に転じた様子です。しかしまた寒波が来るようなので体調にはご注意ください。

さてインフルエンザの診断ですが、最近は迅速検査キットがよく用いられています。鼻や喉に綿棒を突っ込んでグリグリするアレです。写真は迅速検査キットの試薬で、インフルエンザB型陽性であることを示しています。

実はこの迅速検査というものは感度があまり良くないことが知られており、少し前の研究では感度62.3%とのことです。最近の検査試薬は改良されてもう少し良くなっているのでしょうが、大雑把に言ってインフルエンザを発病している人の3人に1人は反応が出ません。要するに迅速検査で「陰性」の結果であってもインフルエンザではないことを証明するものではありません。「陰性です」とお伝えすると「やったー! インフルエンザじゃなかったー!」と絶叫される方がいますが、それ、間違いです。「検査で陽性なら休めるけど陰性なら出勤しなければならない」とおっしゃる方が時々いますが、それって会社の危機管理としてどうかと思います。

インフルエンザと診断されたら、次は治療についてご相談します。まず必要なのは解熱薬や咳止めで、症状をやわらげるためにしっかりお出しします。いろいろと問題なのはいわゆるインフルエンザの薬(ノイラミニダーゼ阻害薬)です。

  • タミフル(内服)
  • リレンザ(吸入)
  • イナビル(吸入)
  • ラピアクタ(点滴)

これらの薬を使うと発熱期間が半日からせいぜい1日程度短縮する(早く熱が下がる)という効果があります。特効薬と思っている方が多いですが、それほどの効果はありません。「発熱したら医者にかかって必ずインフルエンザの迅速検査を受けなければならない。検査で陽性と出たら必ずタミフルを飲まなければならない。飲んだらすぐ治る(飲まなきゃ治らない)」と思っている方は結構多い気がします。

普段元気で持病がない方は、たまたまインフルエンザにかかっても自然に治ります。そこで当院では上記をご説明した上でご希望の方には処方することにしています。一方で高齢の方、重い持病のある方、妊婦さんなどはインフルエンザの薬を使う方がメリットは大きいと思います。

タミフルについての以前の調査では、全世界の生産量の75%を日本で消費していたそうです。欧米では解熱薬を飲んで体を休めるのがインフルエンザの一般的な治療のようです。


いむれ内科クリニックの「だいたいウンコ」度は如何に

2017-12-23 23:17:38 | 診療

「いむれ内科クリニック」の院長の山本景三です。

前の記事を書いていて自分の抗菌薬の処方傾向が気になったので、電子カルテである期間の経口抗菌薬の処方量を調べてみました。抗菌薬は薬によって1日の服薬量が異なるし、飲むべき期間も異なります。患者さんの人数も考慮しなければなりません。こんな表はあまり意味が無いのですが、大雑把な傾向は分かるかも知れません。

  • ペニシリン系
    • サワシリンカプセル250 5943カプセル
    • ワイドシリン細粒20% 313g
    • オーグメンチン配合錠250RS 702錠
    • クラバモックス小児用配合ドライシロップ 244包
  • マクロライド系
    • クラリス錠200 4992錠
    • クラリス錠50小児用 60錠
    • クラリスドライシロップ10%小児用 140.65g
    • ジスロマック錠250mg 98錠
    • ジスロマック細粒小児用10% 6.9g
    • ジスロマックSR成人用ドライシロップ2g 3バイアル
  • セファロスポリン系(第1世代)
    • L-ケフレックス顆粒 318包
  • セファロスポリン系(第3世代)
    • メイアクトMS錠100mg 18錠
  • フルオロキノロン系
    • クラビット錠500mg 39錠
    • クラビット錠250mg 10錠
    • クラビット細粒10% 7包
  • その他
    • バクタ配合錠 928錠
    • ミノマイシンカプセル100mg 84カプセル

ペニシリン系抗菌薬が圧倒的に多く、マクロライド系薬もかなり多いです。一方「だいたいウンコ」であるところのメイアクトMS錠は18錠しか処方していません(1日6錠ですから3日分です)。フルオロキノロン系のクラビットも極めて少ないです。その他の薬でバクタ配合錠が多いのは、膀胱炎に対して処方しているからです。ご同業の方が見ていたら、こっそりコメントをメールしてくださるとうれしいです。


だいたいウンコ

2017-12-23 21:16:57 | 診療

「いむれ内科クリニック」の院長の山本景三です。前の記事の続きです。

病原体が変化して抗菌薬が効かなくなることをAntimicrobial Resistance; AMRと言います。わが国では2016年4月に「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン」が閣議決定されたと書きましたが、これを読むと恐るべきことがさらっと書いてあります。

  • 2020年の人口千人あたりの一日抗菌薬使用量を2013年の水準の3分の2に減少させる。
  • 2020年の経口セファロスポリン系薬、フルオロキノロン系薬、マクロライド系薬の人口千人あたりの一日使用量を2013年の水準から50%削減する。
  • 2020年の人口千人あたりの一日静注抗菌薬使用量を2013年の水準から20%削減する。

要するに現在使用されている全抗菌薬の3分の1は不適切な使用で、経口抗菌薬(飲み薬)に至っては半分が不適切な処方と言っているわけです。まさに製薬メーカーにとって恐るべきことです(笑)。

ちなみに問題とされている経口セファロスポリン系抗菌薬(第3世代)には次のような薬があります。

  • セフジニル(商品名: セフゾンなど)
  • セフカペン(商品名: フロモックスなど)
  • セフジトレン(商品名: メイアクトなど)
  • セフポドキシム(商品名: バナンなど)
  • セフテラム(商品名: トミロンなど)

病院で風邪薬と一緒に処方されて見たことがある方が多いのではないでしょうか? これらの薬は海外ではあまり販売されていません。服用しても吸収が悪いものが多く、そのまま便の中に出る割合が多いのです。そう、「だいたいウンコになる」薬たちなのです。これを感染症業界ではDUと言います。私が言い始めたのではなくて、超専門家のとても偉い先生が言っています。

誤解の無いように言いますが、これらの薬は全く役に立たないわけでは決してありません。ある細菌感染症に対して最適な抗菌薬がアレルギーなどの理由で使えないときに、ピンチヒッターとして使うこともあります。当院でもセフジトレンは採用しています。

感冒は抗菌薬を服用しなくても自然に治る病気です。「感冒になったときに、医者から抗菌薬をもらったので良くなった」という過去の成功体験は捨てましょう。良くなったのは抗菌薬が効いたためではありません。それは良くなる時期が来たためです。抗菌薬は飲んでも飲まなくても自然に治ったのです。

この記事を読んだからといって、必要な薬を自己判断で中止するのはいけません!  用法用量どおり飲みきってくださるようお願いいたします。でも風邪薬と一緒に抗菌薬が処方されたら、「風邪に抗菌薬って効くんですか?」と担当の先生に尋ねるくらいはいいと思いますよ。