バンマスの独り言 (igakun-bass)

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秋の日の午後~ホーソーンの短篇集を読む

2012年11月12日 | 本・読書・文学
個人的な感想なのだけれど、この秋の「金木犀」は元気が無かった。

植物の果実などの出来具合は、よく「表の年と裏の年」があるという。金木犀にもそれが当てはまるかは知らないが、定点観測的に毎年チェックしている3か所の金木犀に元気がなかったのをこの秋は感じた。
花の付きが悪く、あの印象的な香りが弱い。
そのせいか心の中ではこの秋はその喜びよりも冬の早い到来の寂しさのほうが強い。

それでも秋の空は高く、空気はさっぱりとしている。紅葉・黄葉も始まり、山には雪が降りはじめた。
車を運転して郊外を走ると、遠くの山々が紫色にくっきりと見えている。富士山も雄大な裾野までよく見通せる。雑木林のケヤキも公園や街路樹の桜・ハナミズキ・イチョウなどもすでに冬支度に入った。

仕事を終え、柔らかな日差しが差し込む自分の部屋で、パソコンの電源を落とし、静かな環境を作り、読書をしていることが増えた。
もちろん音楽も聴くが、外がまだ明るいうちはもっぱら読書に時間を割く。

今、久しぶりにアメリカ文学を読みたくなって「ホーソーンの短篇集」を本棚から出した。ページの裁断面は茶色く変色しているし、どこか古臭い匂いもする文庫本。
僕のライブラリーでは比較的少数派の外国文学の中でもアメリカ文学は目立って少ない。しかし音楽においてはその逆でアメリカ音楽は圧倒的なボリュームで大きな顔をしているのが面白い。

さて読んでいるのはホーソーン(1804-64)と書いた。「緋文字」という作品で一躍人気作家となったが、それに先立つ20年間に約100篇の短篇を書いていた。
ページ数こそ少ないこれらの作品だが、短篇ゆえの読み易さ、アプローチの容易さ、そして無駄なぜい肉のない簡潔かつ示唆に富んだエッセンスの塊みたいなものが、読む者のその時々の環境に応じて変幻自在に心に染みて来る。

多くの作品は若い頃に読んだ。
どういうわけだかこの短篇作品集の中の「デーヴィッド・スワン」(1837)という作品が以前から好きでまずそれを再読した。


(あらすじ)

 若者デーヴィッド・スワン(20歳)が生まれ故郷ニューハンプシャーからボストンへ歩いて旅をしている途中、公道の脇の泉の湧き出すほとりの木の下で一休みすることにし、うたた寝に入った。
そして彼が寝ている途中、いろいな人が彼の寝顔を見て通り過ぎるのだった。

 まずは息子を亡くした金持ちの老夫婦が通りかかる。彼等は跡継ぎとなるべき親戚に落胆していて、この若者の無邪気な寝顔を見た途端になぜか養子にしようと考えるが、結局はそのまま立ち去って行く。

 次は、美しい少女が通りかかる。彼女はスワンの寝顔の目の上に止まろうとしているハチを追い払う。それを知らずに寝ている彼を見てその美男さに恋心を感じるが結局はそのまま立ち去った。

 そしてその後、2人の悪党が通りかかる。この2人、寝ている若者から金品を奪おうとするが、まさに事に及ぼうとした時、一匹の犬が現れ泉の水を飲んだ。悪党どもはその犬の飼い主がすぐに現れるだろうという危険を感じて、結局は何も盗めずにそのまま立ち去った。

 束の間の一時間が経って若者は目を覚まし、その場で自分の身に色々な事が起こっていたのを知らずに、何の感慨も無く泉のほとりを後にしたのだった・・・。



ある時は幸福の予感が、またある時は恋のきっかけが、そしてまたある時は災いの危険が若者に訪れるのだが、束の間の昼寝から目覚めた彼はそのどれにも関わらず、何事も無かったかのように再び人生の旅の歩みを再開する、という話だ。
あの時寝ていなければ、泉のほとりで目を覚ましていれば、お金持ちの老夫婦か、美少女か、悪党のいずれかと浅からぬ関係を持ったかも知れない・・・。

読後感は何だかぼんやりとした気分になるが、人の人生を変えるきっかけっていうのはこんなささいな事の積み重ねや相互の干渉によるものだと思わせる。
だから人生はミラクルなんだ。

そんな気分にさせてくれる10ページほどのファンタジーだ。

長編の作品など読む暇が無い、気力が続かない、といった人には短篇小説をぜひお勧めする。

日本の作品では志賀直哉の「城の崎にて」など短いが心に何かが残る短篇の名作がいくつもある。
秋の夜長をウイスキーでもちびりちびり飲みながら読書、なんてちょっとおつなオトナの時間じゃないだろうか?


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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (ねこっち)
2012-11-17 10:24:26
こんにちは

確かに元気のない金木犀がいましたね。
霞が関の金木犀は香りがしなかったですよ。
すごく近づいて、やっと微香がするくらい?

しかし、北鎌倉の金木犀は近所より一週間はやく開花して、香りもすごかったです

最近、近所に図書館が開館して、よく通ってます。 秋晴れの日には、散歩がてらに近くのカフェに行ってゆっくりしたり。。。

ウィスキーをおともに読書。。なんて大人ですね。素敵
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おはようございます (バンマス@発行人)
2012-11-18 10:52:45
>ねこっち さま

お元気そうですね。何よりメンタルが健全そうでとてもうれしいです。

北鎌倉ですか~。 あの辺りを平日にゆっくりと散策したいものです。金木犀は終わりましたが、来る冬本番をじっと我慢して明るい春を待ちたいと思いますね。
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