まるくんの旅は青空 ~徒然なる幸福手帳~

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レストラン オノウエ ONOHOUE 大阪市中央区糸屋町 シャンボール ミュジニー レ クラ 2011 ジスレーヌ バルト さようなら愛しのソムリエールまたいつか会う日まで 

2017年09月23日 06時55分50秒 | Weblog
大阪で雨になった―――。
 仙洞御所の見学を終え、阪急四条烏丸駅から梅田へ向かう。
四条烏丸駅の切符売り場前で背後から大きな声で名前を呼ばれ、振り返ると郷土の同級生夫婦が驚きの顔をみせて佇んでいた。
アタシはさして驚きはしなかった。旅先の京都で故郷のひとと会うのは1度や2度ではなかったから。
軽く言葉を交わしてお別れしたはずなのに、ホームでまた会った。彼女らも大阪へでるのだという。
行き先とは逆になるが、一駅向こう始発駅の河原町へ向かうつもりだったが、滑り込んできた準急がすごくすいていたので乗った。ようは座りたかったのだ。茨木駅で特急に乗り換えたが、これもすいていて座ることができた。高槻あたりから車窓は水滴がおびただしく明らかに雨模様になっていた。
梅田へ先に来ていた娘ふたりと待ち合わせだ。
阪急百貨店の1階にいるふたりを拾い、相変わらずアタシにとっては鬼門の巨大な迷路のような梅田駅ターミナルをひたすら歩き、谷町筋線で天満橋駅まで。
地上に出ると雨はなんとか小雨になっていた。
わんわんとみのりんとたちとの間がどんどん開いていったが先を急ぐ。
ちょうど予約時の1時ぎりぎり間に合って店の前に着いた。
「ONOHUE」の看板に雨の雫が無数に光る。
まだ2度目なのに、とてもなつかしい感がする。
中之島バラ園を眺めながらライオン橋を渡り、あるいは淀屋橋から中之島をぶらぶらしながら向かった前店舗とはシチュエーションの点で大いに物足らないが、この店があるビルの地下へ向かう雰囲気が好きだ。
地下の店にありながら前面が2階分吹き抜けの空洞になっており、天然芝が敷き詰められ、木々草花の鉢が無造作に並ぶヨーロッパの庭園風になっている。前日宿泊した俵屋旅館の桂の間が天空の楽園ならここは地下の楽園だ。
階段を降り、店頭で立ち止まる。大きな2枚戸ははじめてのひとはきっと気づかないであろう自動扉で、開閉してしばらくしてフロアスタッフが現れた。意外なことに本日の主役ソムリエールではなく、二番手のソムリエールでもなく、立ち姿の美しさと清楚さからあらたななファンとなった可愛らしいパティシエール兼コミ・デ・ランでもなく、男性スタッフだったので拍子抜けした。
その昔アテネで買ったスウェードのコートとマフラーを預ける。みのりんもうさぴょんを預けようとしたが「席まで持っていけ」と促した。
前回は一番奥の窓際だったが今回は一番手前の窓際に案内された。
奥にはグループが二組。男性ひとりを含む4人組と、年頃は過ぎた女子会人組が休日の午餐を楽しんでいた。
このフレンチレストランはオープンして2ケ月弱になるが、オーナーシェフとなった阪本氏、ネットはおろかあらゆるメディアに露出するつもりがなく、今のところ前店ユニッソン・デ・クールの常連客たちが顔をだす状況らしい。
フランスのシャトーに招かれたような雰囲気の広々とした店内にあって、わずか7席しかないフレンチ・ワンダーランドの幕開けだ。
アタシたちのテーブルは4席あったので、みのりんはうさぴょんを窓際に座らせ、ご丁寧に自分のジャンパーでくるんであげていた。
「ここに住んどるみたい」と長女わんわんが笑う。
今日は三女のお誕生日と、長女の就職祝いを兼ねた祝いの席だ。
「またお誕生日ぃ?」みのりんに突っ込まれはしたけど(笑)。
でも、京都見学の計画を切り上げてまでここに訪れたのは、もっと特別な意味があった。
今日はあるひとに大切な告白をする日なのだ。
それなのに、いつものようにスターターの白ワインの瓶を数本持ってきてくれたあとは一向にアタシたちのテーブルに来やしない。
ワインリストを持ってきたのは2番手ソムリエールで、オーダーも開栓も彼女ではなかった。
彼女は奥の6人組にかかりきりの様子だった。
かわりにプレートを運んでくれるパティシエール兼コミ・デ・ランとお喋りを楽しんだ。
パティシェールの立ち姿は本当に美しい。立ち姿が美しいのはおもに頭のてっぺんからつま先までの縦のラインが重要なのだが、彼女はもって生まれた肩、鎖骨、腰まわりといった横のラインが美しいからなおいっそうそう映るのだ。
「リッツカールトンやインターコンチネタルのレセプションでもそんなに美しい立ち姿のひとはいないよ」と、思ったとおりのことを彼女に伝えた。
大量に持参したバリィさんもスタッフにそれぞれ渡し、あとは彼女が来るのを待つばかりなのになかなかテーブルにきてくれない。
少量小皿の数々の食事を終えてメインディッシュにさしかかる一歩手前でようやくワインをサーブしに姿をみせてくれた。
もうあまりチャンスはないと思い慌てて足元の旅行鞄を開けて一本のワインを取り出した。そしてすぐさま無造作に彼女に渡した。
彼女はキョトンとしていたが、ラップにリボンがかけられ、メッセージカードが添えてあったのでそれを一瞥し、ようやくことに気づいたようだった。
「○○さんの好みかどうかは知らないけど、○○さんをイメージして一生懸命選んでみました。でも、答えはすぐみつかったんだけどね(笑)。ヴォルネイ・カイユレかシャンボール・ミュジニィ。繊細で女性らしいっていう。でも、僕は赤ワインだとコート・ドゥ・ニュイしか詳しくないからこっちのアペラシオンにしました。ミュジニィやレ・ザムルーズ、レ・シャルムだとありきたりなので、ここは敢えて北斜面のほうを。レ・クラはたしか標高350m一番高いところかな?ボンヌ・マールに近く、モレ・サン・ドゥニのニュアンスがあるからシャンボール・ミュジニィのなかでもやや男性的。そんなイメージで(笑)」
彼女は幾分頬を染め、礼のかぎりの言葉をつづけた。
「私をイメージして選んでくださっただなんてとてもとても嬉しいです。こんなのははじめてなので本当にありがとうございます。ラ・クラ!なかなかお目にかかれないシャンボール・ミュジニィで・・・・・・。もう何年も大事にしまって、とっておきのときにいただきたいと思います」
「なんて馬鹿なことを(笑)これは今日にでも家飲みで大切なひととサクッとやっちゃってください。そういうワインです」
「とんもないっ。大事に大切にいただきたいです」
あとは淡々と食事をいただく時間が過ぎていった。
今日は皿の数を合わさなければならず、みのりんがいるのではじめてデジュネのコースをいただいたが、それでも思わぬときが過ぎ、予約済の新幹線出発30分前になってしまい、男性スタッフにタクシーを依頼する。
時間がないなか、「今日は寒いから」とホールでスタッフとお別れし、いつものように総出で記念撮影し、店をでた。
わんわんたちは先にタクシーに乗り込み、ソムリエールだけ戸外に見送りにでてきた。
必ず再会できることを伝え、手を振り階段を昇る。
そうだ、今日一番肝心なことを伝え忘れるところだった・・・・・・・・・・・・。
「僕、ひとつだけ嘘をついたことがあるんです」歩を止め、振り返って彼女を見つめる。
「はい?」声が大きすぎたので階段を降りながらつづける。
「前のお店でね、ある従業員の態度や姿勢がゆるせなくってね。っていうと誰のことかすぐわかると思うけど(苦笑)」
「□□ですね・・・・・」
「うん(笑)。でも叱り付けたりしちゃ彼女の場合ふて腐れて逆効果だと思って。で、褒めて伸ばそうと思って、別の従業員を通じてだけど『ファンです』って言ったことがあるんです。そしたら、彼女だんだん、僕以外のお客さんにも笑顔がつくれるようになって」
「ええ(微笑)」
少し間をあけて伝える。
「でも、本当はずっとずっと○○さんのファンだったのにね」
「・・・・・・・・(微笑)」
正確かどうかはともかく、想いをやっと伝えることができた。
美しく優しいソムリーエル、足掛け6年お世話になったが、今月一杯で店を去る。
ありがとう、そしてまた、必ず、いつか、どこかで――――。
タクシーに乗ると同時に、また雨になった。
心は晴れやかなはずなのに、涙と同化したみたいだった。
そして、この熱く込み上げてくる真贋の涙は、もうすぐ訪れる長女との別離だと、ようやく悟った――――。
 

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