厚生年金基金の破綻
昭和41年(1966)、厚生年金基金制度(厚生年金の代行分を持つ企業年金)が発足し、多様な問題を抱えながら、平成13年(2001)の確定拠出年金(個人勘定の年金制度)にバトンタッチされて、35年経過して事実上厚生年金基金制度は破綻しました。
予定利回り5.5%の足かせ、運用ド素人の厚生年金基金スタッフが代行分を含めた巨額資産運用の危うさ、国の低金利政策に伴う厚生年金基金運用利回りの低下、日本経済の成長鈍化、右肩上がり経済の終焉、少子高齢化に伴う加入員数の減少等々、厚生年金基金の「失敗の本質」はどこにあるのか、いまだ全容解明はされていません。
また、当時の厚生年金基金の資産運用能力を別にして、雪崩を打って代行返上・基金解散に走った経営者の判断の妥当性は問われてもいません。
後の人による歴史の審判の一助に供するため、筆者にできるわずかなことは厚生年金基金経験の記録を保存することだけです。
筆者は、このような厚生年金基金業務の経験を「公的年金と企業年金の総合年金カウンセリング!」の一環として電子書籍化を図り、皆様にご覧いただくと共に、併せて記録・保管することにしました。それが、この「厚生年金基金アーカイブ」です。
筆者は厚生年金基金事務所での25年に及ぶ下記のような実務経験
●事務所の人的物的体制構築
●規約規定の整備
●基金業務の機械化
●加入員の年金計算年金振込み
●基金財政の検証
●基金の予算決算
●ライフプランセミナー開催
●OB会運営
●年金給付改善
●資産運用体制構築
●海外年金調査研究等
をさせていただき、それがそのままライフワークとなりました。
また、企業年金連合会の「受託者責任研究会」のワ-キンググル-プに参加させていただき貴重な経験をさせていただきました。
さらに、基金事務所定年後、社会保険事務所で年金相談員を5年経験させていただきました。
「厚生年金基金アーカイブ」一覧
1.年金シリーズ
❶検定:年金入門
❷年金記録問題解決! 年金履歴書
❸知らないじゃ、すまないでしょ! 事例で学ぶ年金
❹Q&A年金の行方
❺ちょっと待った! これから年金の50代の方 年金生活への第一歩
2.基金シリーズ
❶厚生年金基金事務長奮闘記
❷人様のお金―厚生年金基金は何になるのか
❸日本版401k誕生秘話! 誰も知らない厚生年金基金
3.運用シリーズ
❶401kの秘法 勝手格付け
❷厚生年金基金の資産運用に 再々の肩叩きをスルーして 25年のめりこみました!
❸1990 ヨ―ロッパ 資産運用
❹iDeCoで転ばぬ先のシミュレーション 確定拠出年金をはじめる方への先人の ドハハな教え!
4.確定拠出年金シリーズ
❶401(k)の百聞は一見に如かず
❷iDeCo確定拠出年金はじめのはじまり
❸iDeCo確定拠出年金入門
ご参照:厚生年金基金アーカイブ 年金eBook15冊
厚生年金基金について、ご興味のある方は以下もご覧ください。
「厚生年金基金事務長奮闘記」
あらまし
戦後日本経済の復興と興隆を懐古趣味で振り返るのはマイナス思考の極みであり、日本経済の「失われた10年」とか、「20年」と言われるときに必須のことはそれをリアリズムに徹して見据えることであろうと考えるのは一般常識でありましょう。
戦後日本経済の数あるスキームのなかでも一時的にもっとも機能した年金制度、特に厚生年金基金制度については、いっとき1800余基金、資産規模60兆円、加入者1,200万人にも達しましたが、ほとんどの基金の代行返上・解散を招き、残るのは辞めるに辞められない総合基金ばかりになってしまいました。
つまり、いまや厚生年金基金制度は歴史的使命を果たし終えて、官僚の敗残の記念碑となりおおせてしまっております。
もはや、三種の神器も右肩上がり経済もありえず、あるのは少子高齢化とグローバリズムという現実の中で、いかに生き抜くかということになってきました。日本の年金制度の見直しはどう展開したらよいのでしょう。それには、この厚生年金基金制度の実態はどのようなものであったのかについてリアリスティックに見据えることが不可欠でしょう。それを、基金事務所のドメスティックな現場に視点を定めて、以下の五章で明らかにしてまいります。
第1章 ブレイクスルーな事態
この章は筆者の講演録です。はじめに年金に関わった筆者の自己紹介をして、基金業務の幾つかの改善をしている最中に、改善に改善を重ねても動的現実に対処できないでいるとき、ブレイクスルーな思考方法に巡り合いました。
基金の資産運用が日本の金融システム、ノウハウの従来手法では機能不全をきたしているが、その原因は官僚による統制計画経済によりスポイルされた国民の総サラリーマン化であろうと考えられます。グローバル経済の下でサラリーマンでは太刀打ちできないと論じます。
第2章 厚生年金基金とは?
厚生年金基金制度の仕組みは、その年金給付の仕方に特徴があります。それは国の厚生年金の一部を基金から支払うという世界にも稀な奇怪な姿をしています。
第3章 経営資源の有機的連結
厚生年金法を始めとする政令・省令・告示・通知等の大枠に伴う行政サイドの規制と行政指導、それに基金を取り巻く日本経済の保守的環境の中で、小さな基金事務所の自主性確保の切磋琢磨な試行錯誤の一端を「経営資源の有機的連結」と題して述べます。
つまり、基金事務所のドメスティックな現場の奮闘をお話して、基金事務所の自主性獲得の様子をお読みいただきます。
第4章 フレームワークの刷新
厚生年金基金制度のフレームワーク(給付建て年金・設立形態・給付形態・業務委託形態等々)はシンクタンクとしての金融機関(信託銀行と生命保険会社)が主導して法律化された経緯があります。
その法律により、企業は厚生年金基金の設立認可申請を大臣宛にし、認可された後、人を派遣して事務所運営を行います。当初、機材搬入はありません。商店街にある不動産屋の店舗みたいなものです。机二つに椅子が二つで事足ります。
店開きしてみれば、所与のものとしてフレームワークが与えられており、年金給付は他に選択肢のない「給付建て年金」(確定給付年金)、設立形態は単独、連合、総合の選択肢があり、給付形態は代行型と加算型、業務委託形態はⅡ型とⅠB型とⅠA型の選択肢があります。当初、一般的には単独、代行、Ⅱ型で設立されました。
このフレームワークは選択肢があるものについても継続的に維持されるばかりで、これを刷新しよう、改善しようという気運は基金事務所には起きませんでした。といいますのも、基金を取り巻く環境も基金事務所も保守的な姿勢が支配しており、自主性などという観念は革命的なもののように忌み嫌われたのが実態です。
そういう保守的土壌において、小さな基金事務所で単独設立を連合設立へ、代行型を加算型へ、そしてⅡ型をⅠA型へ移行し、フレームワークの刷新を図った事例をお読みください。
第5章 資産運用の立ち上げ
厚生年金基金は一般的に、貸借対照表の借方の資産を守り、貸方の債務を果たすことで、加入員等の老後生活を保障することを設立趣旨としています。つまり、資産の保全と債務の遂行のために基金は掛金を徴収し、年金を支払うことになります。これを全うするために、受給権を保護し、受託者責任を果たさなければなりません。このことは、基金は常に資産と債務のバランスを視野に入れた〈最良執行〉を求められているということになります。
基金は〈最良執行〉を達成し、事業主と加入員等にローコスト・ハイリターンの老後生活保障を提供することになります。
これを達成するために基金事務所ではミクロの積み上げが重要になってきます。とは言え、ミクロを単発で個々バラバラに行っていては基金の顔が見えて来ないことになりますし、そういう基金の多いことも実態ではあります。そこで、重要になってくるのが「経営指針」に基づく資源の集中化・集約化、経営資源の有機的連結による資本のシナジー効果を高めることであります。具体的には、〈資産運用〉を中心にして衛星的に〈給付改善〉と〈福祉事業〉と〈広報事業〉を配置し、これらの有機的連結によってローコスト・ハイリターンの老後生活保障を実現することになります。
それでは、厚生年金基金事業の有機的連結の中心になる〈資産運用〉はどのように立ち上がり、どのように展開し、どのような成果をもたらしたのでしょう。
その事例をご案内いたします。昭和44年設立当初、ABC厚生年金基金の基金事務はソロバンで行われていました。筆者着任後、電卓をいれパソコンを設置して、業務委託形態もⅠA型にして自前で事務処理ができる体制を築きました。福祉施設事業も利差益を使って、弔慰金、OB会のパーティ運営、年金ライフプランセミナー開催、年金受給者の大型観光バス三台を連ねて一泊旅行も十年ほど行いました。
資産運用については、電気科・哲学科出身の筆者には畑違いも最たるもので、何の予備知識もありませんでした。また、会社にも事務所にもそのような経験を持っている人は誰も居ませんでした。
そのような背景の中、金融本の読書から始めました。また、筆者が移動アンテナになって、先行する基金に教えを請い、金融機関等のセミナーにも通い、数多くの研究会にも参加しました。そうして得た金融知識を事務所に反映し、業務に展開しました。
しかし、平成時代へ移行した頃、日本経済の凋落と共に厚生年金基金の積立金不足が明らかになり、厚生年金基金は未曾有な事態を迎えました。〈給付削減〉、〈資産運用効率化〉、〈基金解散〉が当面の緊急課題となりました。
こうして資産規模60兆円、1,200万人が関わった「厚生年金基金」という一大ページェントが幕を下ろそうとしています。
平成25年8月二訂
「人様のお金―厚生年金基金は何になるのか」
目 次
はじめに
第1章 制度発足30年経過して
第2章 厚生年金基金の経営フレームワーク
1.経営などしたこともない!
2.基金経営の組織機能
3.厚生年金基金の過渡的な経営フレームワーク
第3章 厚生年金基金の資産運用方法
1.それとも資産運用で稼ぐか
2.基金の見た日本の資産運用環境
3.世界の資産運用環境
4.平成10年度現在の資産運用状況
5.資産運用マネジメント
第4章 厚生年金基金経営上の諸問題
1.基金運営から基金経営へ
2.厚生年金基金のリスク管理
3.代行の金縛り
4.〈人様のお金〉
5.果たすべき約束
6.パブリック・コメント?
第5章 凍結した死に体
1.「厚生年金基金は死に体!」
2.基金問題のインパクト
3.〈人様のお金〉が変える日本のインフラストラクチュア
第6章 ビジョン「年金基金」
1.戦後日本の哲学もどき
2.「年金基金」というビジョン
3.ビジョンのメッセージ
謝 辞
・厚生年金基金の経営フレームワーク資料集
・情報収集先
・書籍等一覧
・年金関係インターネット・サイト
・著者
「誰も知らない厚生年金基金―日本版四〇一k誕生秘話!」
目 次
はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5
目次
第1章 厚生年金基金の成立・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12
1.厚生年金基金の成立前史
2.厚生年金基金制度の仕組み
第2章 厚生年金基金の展開・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・63
1.ブレイク・スルーな事態
2.厚生年金基金経営の有機的連結
3.代行の金縛り
4.〈人様のお金〉
5.基金の見た資産運用環境
6.戦略アセツト・ミックス構築の経緯
第3章 事例で学ぶ厚生年金基金・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・154
第4章 厚生年金基金を問う・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・188
1.厚生年金基金は死に体!
2.基金問題のインパクト
3.〈人様のお金〉が変える日本のインフラストラクチャー
4.未曾有な事態
第5章 Q&A年金の行方(基金解散と代行返上)・・・・・・・・・・・・・・・・・218
1.基金解散と代行返上に伴う年金の行方
2.基金解散と代行返上の真因
第6章 401(k)の百聞は一見に如かず・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・248
1.401(k)一見
2.訪問先個社マター
3.取敢えずの401(k)論
第7章 確定拠出年金スタート・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・280
付 録・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・284
1.これは宝もの!
2.読書案内
3.基金広報誌「めんばぁ」
著者
著作・評論等
ご参照:「厚生年金基金事務長奮闘記」
ここまでご高覧いただきましてありがとうございます。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます