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【#ナショナルジオグラフィック】新型コロナの厄介さと怖さを知る:2つの致命割合CFRとIFRとは

2020-05-17 16:38:27 | コラム
 それでは、COVID-19の基本的な特徴を見ていく。潜伏期間や、致命割合といった、その病気の厄介さや、怖さにかかわる特徴だ。

「潜伏期をはじめ疫学的な特徴については、北海道大学の西浦博さんのチームの研究を含めていくつかの論文が出ています。まず、潜伏期の中央値は5日と長いんです(※1)。インフルエンザなら2日ですから、この長さがCOVID-19のひとつの特徴です。また、西浦さんたちのチームの別の論文(※2)の分析では、発症間隔の中央値が4日と潜伏期よりも短いことが分かりました」

 ここで、えっと思う人もいると思う。潜伏期間よりも、発症間隔が短いというのはどういういうことか、と。発症間隔とは、「発症した患者から感染した次の感染者が発症するまでの期間」だから、それが潜伏期間よりも短いというのは、よくよく考えてみると、つまり、潜伏期間にある感染者からも感染が起きているということを意味する。西浦さんは、2月上旬に開いた外国人記者クラブでの会見で、発症前の人からの感染が約半分と述べていた。

「これは4月になってから出た中国のチームの研究(※3)でも追認されました。二次感染の44パーセントは発症前に起こっていて、発症の2.3日前からウイルス排出が増え始め、0.7日前に一番高くなるというんです。潜伏期にも感染力があるということですから、その追跡が難しいということも意味します。本当に厄介なウイルスです」

 ちなみに、一般論として、病気が発症した日ならともかく、感染した日を特定するのは難しい。また、誰から誰に感染したのかということも、直接、その瞬間を見ることはできない。だから、新しい感染症が報告された時、理論疫学者たちは、数理的なモデルをつくり、潜伏期などを推定する。特にCOVID-19のように、無症状の時にもウイルスを排出していることがほぼ確実な感染症だと、潜伏期の推定自体、数理モデルを使う以外の方法ではなかなかできない。防疫上大切な情報なので、潜伏期間などの推定は、利用可能なデータを使って世界中の研究者たちがそれぞれ試み、次第にコンセンサスが得られてくる。

 COVID-19の場合、中澤さんが「厄介なウイルス」と言った通り、長めの潜伏期間や、発症前にすでに他の人を感染させうる性質など、嫌らしい特徴が揃っている。

致命割合:どれだけ人が亡くなるのか
 次に気になるのは、おそらく、どれだけ重症化して、どれだけ亡くなるのか、という問題だろう。

 日本で感染者が報告されるようになった頃、危険な感染症がやってきた! という警戒とともに、「ちょっと重たい風邪のようなもの」「若者は重症化しない」と強調する「専門家」も見られた。その後、子どもが亡くなったという痛ましいニュースや、著名な芸能人が感染したり亡くなったりするニュースも報じられるようになり、「重たい風邪」では済まされないことは多くの人が理解するようになった。それでも、「致命率(疫学用語としては、致命割合、あるいは致命リスク)は、インフルエンザなみという論文が著名な論文誌に出た」という誤った「朗報」が伝えられることもある。このあたりはどう捉えれば適切な理解になるのかちょっと整理する必要がありそうだ。

「まず、疫学でよく使われる病原性の指標である致命割合は、CFR(Case Fatality RatioまたはRisk)というものです。これは確定診断がついた患者のうち、その感染によって死に至る割合です。分母が確定診断がついた患者だというところがポイントです」

 確定診断された患者の数は実数が把握できるので、その中で亡くなった人を数えて致命割合を計算する。非常に分かりやすい考え方だ。

「これまでに分かっている感染症の致命割合(CFR)は、SARSが10パーセント、MERSが35パーセント、スペインかぜが3パーセント、アジアかぜが0.5パーセントと言われています。そして、これまでのところCOVID-19は、1パーセントから10パーセントというふうに幅があります。これは、国によって、検査体制や医療体制、さらには、感染者の年齢分布が違うためだと考えられます」

 致命割合は、その感染症の病原性を示すとても大事な指標だ。これが高いと、発症したとたんに死を覚悟しなければならなくなり、大きな恐怖を与えるものとなる。たとえば、エボラ出血熱は1976年に旧ザイール(現コンゴ民主共和国)の村で流行した際、致命割合が90パーセントを超えた。ここまで来ると、発症=ほぼ確実な死、ということになってしまう。一方で、コロナウイルスがかかわるSARSもMERSも、かなりの高い割合であり、直観的にも「怖い」病気だ。

 そして、スペインかぜの3パーセント、アジアかぜの0.5パーセント、COVID-19の1パーセントから10パーセントも、決して小さな値ではない。1918~1920年に世界的に流行したスペインかぜは、全世界で数千万人が死亡した。数パーセントという致命割合は、パンデミックになった場合、その規模の被害をもたらしかねないものだ。

単純ではないインフルエンザとの比較
 こういったことは、ぼくたちが日常的に体験している季節性のインフルエンザと比較するとよいかもしれない。

「それは大事なことで、ちょっと詳しく説明します。日本で、季節性のインフルエンザで確定診断がついた患者数(推定値)は年間1000万人ほどで、直接の死者は2000~3000人です。とすると、致命割合(CFR)は0.02~0.03パーセントですよね。でも、一般には一桁大きな0.1パーセントという数字をよく見ると思うんです。これは、分子をインフルエンザ関連死も考慮して推定した超過死亡1万人としたものです。だから、これと比較するのは間違いです。COVID-19の致命割合1パーセントから10パーセントと比較できる季節性インフルエンザの致命割合は0.02~0.03パーセントで、COVID-19の方が2桁以上大きいんです」

 分子にあたる死亡者の数が数え方によって変わってくるという話だ。ここはすごく基本的かつ大事なところなので、再確認しよう。

 超過死亡というのは、インフルエンザの流行がなければ死を回避できたであろう死亡者数、いわゆる「インフルエンザ関連死」まで含めてカウントしたものだ。インフルエンザが直接の死因ではなくとも、合併した細菌性の肺炎、持病の呼吸器疾患や心疾患の悪化などで亡くなる方が分かりやすい例だ。ただ、そういったものだけでなく、インフルエンザの流行で医療が行き届かなくなったことで引き起こされる死も「関連死」だ。だから、その数は、死亡統計が出揃った後、インフルエンザの流行がなければなかったであろう死亡数を、統計モデルを使って推定することで確定する。今回のCOVID-19についても、こういった関連死まで考慮した「拡大版の致命割合」を考えるなら、もっと大きな値になるはずだ。しかし、それはまだ推定もできないので、今、比較すべきは「関連死」を含めない直接の死亡の致命割合だ。

 なお、0.1パーセントという値は、日本語の世界だけでなく、英語のニュースや論文でもしばしば目にする。

「そっちの方は別の原因があって、WHOやアメリカのCDC(疾病対策センター)が『0.1パーセント未満』としているのを0.1パーセントだと誤解して書いていることが多いと思います。これは、なぜ『未満』かというと、世界には確定診断もちゃんとしてもらえないような地域があって、そういうところでは医療水準も低いから、そんなに重症じゃなくても死んでしまうことがある、と。そういうものまで考えた場合、最大でも0.1パーセントということです。あくまで『未満』なんです」

 世界の医療事情を考慮した数字であり、こちらもある意味、「拡大版の致命割合」がそのまま流通してしまっているとのことだ。

 以上、インフルエンザの致命割合を考えるだけでもトラップがたくさんという印象だ。実際に、COVID-19との比較の報道でも、0.1パーセントという「拡大版の致命割合」が間違って使われていることは今もよく見る。

感染者致命割合IFRとは?
 COVID-19の致命割合を議論するには、さらに注意しなければならないことが増える。今度は分母の側の問題だ。

「致命割合を計算する際の分母は『確定診断がついた患者数』ですけど、検査体制や医療体制に大いに依存します。COVID-19には無症状の人もいると考えられているのでなおさらです。そこで、確定診断された患者ではなく、感染者全員を分母にとった、『感染致命割合(IFR:Infection Fatality Ratio or Risk)』を推定した上で比較した方がよいのではないかという考えが出てきます」

 ここで「感染者全員」というのは、いかなる検査をもってしても見つけ出すことができないので(かりに全員を検査しても偽陰性の人がたくさん出るので全員は捕捉できない)、なんらかの方法で推定しなければならないことに留意しよう。しかし、その推定をうまくして「感染致命割合(IFR)」を求めることができれば、検査体制に依存しない、ユニバーサルな議論ができるようになる。

「COVID-19のIFRを早い時点で推定したのは、やはり西浦さんたちのグループで、これは2月4日の時点で論文(※4)になっています。武漢からチャーター便で日本に帰国した565名の日本人が全員PCR検査を受けたことから感染確認率を求めて、武漢における無症候性感染者も含めた感染者の総数を推定した上で、感染致命割合(IFR)は0.3~0.6パーセントだと結論しました。これは他の研究グループでも別のデータで数字を出して、西浦さんたちよりもやや高い値を報告していますが、桁は同じです」

 このようにして致命割合には、CFRとIFRという二種類があって、それらの性質上、桁が違うことを意識しておかなければならない。さきほど解説してもらった、季節性インフルエンザの関連死、あるいは医療水準が低い国々の状態を考慮した、「拡大版の致命割合」をどう扱うかという問題とあわせて、非常にややこしく、混乱させられる。SNSレベルでは、毎日のように誤解に基づいた発言を見るし(それも医師などの専門家が言っている!)、大きなメディアの報道も時々おかしなことになっている。

とある間違いの事例
 イギリスのインペリアル・カレッジ・ロンドンのチームが3月30日に「Lancet」誌に発表した論文 (※5)で、感染致命割合(IFR)の中央値を0.657パーセントだとはじき出したときにも、混乱があった。これは西浦論文をほぼ追認する内容だが、一般の受け止めでは、「実はそれほど死なない病気だったようでよかった」というもので、欧米の大メディアでも、「拡大解釈版の致命割合」である0.1パーセント(本来は0.1パーセント未満)と比較することで誤解をまねく内容の報道をしていた。この数字の混乱が世界的に根強いものだと実感した次第だ。

 ここまでの議論を踏まえると、この論文をめぐって、正誤を含む3種類の報道がありえるので、ちょっと書き下してみよう。

1)COVID-19の致命割合は0.657パーセントだ。インフルエンザの場合は0.1パーセント(拡大解釈版のCFR)である。
2)COVID-19の致命割合は0.657パーセントだ。インフルエンザの場合は0.02~0.03パーセント(CFR)である。
3)COVID-19の致命割合は0.657パーセントだ。インフルエンザの場合は0.005~0.01パーセント(IFR:ただしこれは公式の数字ではなく、感染者のうち受診して確定診断が付いた人が1/4~1/3くらいと仮定して中澤さんが出した大雑把な推定)である。

 この中で、数字の比較として正しいのは3)の場合で、これだとCOVID-19の方が、60~100倍も致命割合が高い危険な病気に思える。一方、実際にぼくが大メディアでも確認した1)のような理解だと、致命割合はたかだか数倍だから、「ちょっと重たいインフルエンザ」というイメージになりうる。

 こういったことが積み重なると、まさに「致命的」な誤解につながるかもしれないので、致命割合の話題が出たら、確定した患者の数を分母にしたCFRなのか、見逃されている人を含めた感染者数全体を分母にしたIFRなのかを意識し、インフルエンザと比較されたら「関連死の扱いは?」「医療水準が低い国での致命割合の扱いは?」と意識することが大事だろう。

 さらにもう一点、ニュースで「死亡率」という言葉が使われていたら、それも注意が必要かもしれない。「死亡率」は本来、ある期間の人口あたりの死亡数のことなのだが、致命割合の意味で使われているのをよく見る(もちろん、正しい意味で使われていることもある)。ひたすら混乱要素だらけという印象で、注意喚起しておく。


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