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【#ナショナルジオグラフィック】新型コロナの治療薬や「BCG仮説」で気をつけたいこと

2020-05-17 16:42:47 | コラム
 前回は、重症化因子のことを考えたのだから、症状の改善や治癒につながることについても見ておこう。端的に言うなら、「治療薬」についてだ。
「これから開発されるような新薬がこのパンデミックに間に合う可能性はあまりないので、既存の薬の中で効くものがあるのか調べるのが大事です。日本政府は、インフルエンザの抗ウイルス薬、アビガン推しですよね。でも、プレプリントサーバ(論文が査読を受ける前の段階で公開するサーバ)に載っている論文(※1)を見てみると、最初は効くという話だったのに、アップデートされていて、結局は治癒には影響しないというふうに変わっていました。治癒には影響なくても、熱と咳は1.7日くらい早くおさまる、という結果です。今のところ単一群での報告ですから、きちんとした研究が必要ですね」

 単一群というのは、まさに「薬を飲んだ人たち」だけを見ていて、「薬を飲まなかった」対照群を設定していない。前項でみた症例対照研究では、すでに起きたことを振り返る「後向き」の研究ながら、きちんと対照群を設けるものだった。

 一方で、こういったアビガンでの単一群の臨床研究は、よりきちんと条件を統制できるはずの「前向き」研究だが、本来必要な対照群を置かないために、単独の研究としては証拠能力が低く、今後、きちんとした研究をするきっかけになる研究として位置づけるべきだ。しかし、この時点で、ふとテレビを付けると「早期診断してアビガンを飲めば治る」と主張している情報番組御用達の専門家がうつったりして、げんなりさせられる。

 では、中澤さんが言う「きちんとした研究」というのはどういうものだろう。

「昔から疫学では、『3た』論法ということが言われていて、聞いたことがある人もいるかもしれません。たとえば、風邪薬を、飲んだ、治った、効いた、の『3た』です。風邪薬って、症状を軽くはできても、治癒する薬はないんです。でも、飲んだ人の体験としては、飲んで、その後、治るわけだから、かりに飲まなくても治ったのだとしても、みんな効いたと判断する、と。単一群の研究だと、3た論法に近いことにもなりかねません。そして、きちんとした結果を知りたいなら、RCT、ランダム化比較試験というデザインを取る必要があります。メディアが報じる新しい効きそうな薬のニュースの信憑性を知りたければ、まずはその研究がRCTかどうか確認するのが一番だと思います」

(※1)https://doi.org/10.1101/2020.03.17.20037432

 RCT、ランダム化比較試験というのは、治療薬なり治療法なりの効果を知るために、その薬剤や治療法を試みる群と、試みない対照群を、参加者にランダムに割り振って行うものだ。つまり、実験室で行うような厳密な研究を、臨床レベルでも可能な限り厳密に行うための手順である。重症化因子の原因は「後向き」の症例対照研究が中心だが(重症化の条件をあえて作り出して、「前向き」の研究をすることは倫理的にありえない)、治療については前向き、かつ、ランダム化した、比較試験が大事だ。

 では、今、COVID-19に効く薬について、RCTの結果は出ているのだろうか。アビガンについてはまだで、今まさに治験(医薬品としての承認を得るために、効果や安全性を確かめるためのもので、研究デザインはRCT)が実施中だという。

「すでにRCTが報告されているのは、僕も最初から注目してきたクロロキンというマラリアの薬です。もしもこれが効けば、いいなあ、と思っていました。僕のフィールドのパプアニューギニアの村の店でも、村人が買えるような安価な薬ですし、マラリアの治療や予防に使う量なら副作用もあまりありません。中国で効いた報告があったので、フランスでRCTを始めて、イギリスやアメリカでも輸出規制をしようという話が出ているくらい期待されていました。それで、クロロキンの仲間のヒドロキシクロロキンのRCTの結果がやっと出てきたんですけど、それによれば、治癒には影響しない、でも、症状は軽くなる、というものでした。中国でも随分前から、多施設でのトライアルがされているはずなんですが一向に報告がないのは、あまりよい結果ではないんでしょう」

 結局、風邪薬と同じで、症状は和らげるけど、治癒には寄与しない、というのが今のところの結論である。

 さらにこの原稿をまとめている途中、アメリカの退役軍人病院で行われた研究の速報(プレプリントサーバー)があり、ヒドロキシクロロキンを使うと、使わない場合よりも、むしろ死亡リスクが3倍近く高かったというショッキングなニュースが流れた。そこであわてて研究デザインはと確認したところ、対照群があるので「単群」の研究ではないものの、すでに治療が行われたデータを集めての症例対照研究だった。アメリカでのRCTの結果が出るのはこれかららしい。

「今のところ、単独で効くというのは望めそうにないので、複数の薬剤を組み合わせるとどうかというのが進行中の研究だと思います」というのが現時点での中澤さんの見立てだ。

 世界中の臨床現場も、製薬関係者も、懸命に治療薬を探し続けているもののまだ決定打はない。

 アビガン、クロロキンの他にも、エボラ出血熱治療薬のレムデシビル、ぜんそく治療薬シクレソニド、関節リウマチ治療薬のトシリズマブ、膵(すい)炎の治療薬のナファモスタット(フサン)など、様々なものが話題になっており、今後、議論はますます深まっていくはずだ。

 いずれにしても、治療の専門家ではない中澤さんとアマチュアのぼくが語り合えるのはこの程度で。「この薬が効きそうだ」「こういう治療法が見込みがある」ということを提示された時、どんなところに注意して情報を見るべきかという点を汲み取っていただければと思う。

 そして、本当に効く薬があれば、局面を変えるゲーム・チェンジャーになりうる。突破口が開かれることに切に期待する。

「BCG仮説」の現在地
 もう一つだけ、よく研究以前のレベルで話題になる推測について。

 感染症が流行すると、地域差に気づくことがある。たとえば、欧州に感染が拡大した後で、感染者、重症者、死亡者が増えている国と、それほどでもない国に大きな差が出た。その差が何に起因するのか、誰もが気になるところだ。もちろん、対策や医療の違いが大きいのは間違いないのだが、それ以外にも何か気づかれていない大きな要因があるのではないかといろんなことを考える人がいる。

 COVID-19での典型例が、「BCG仮説」だ。重症者や死亡者が少ない国は、結核ワクチンであるBCGの予防接種を行っており、BCGワクチンの「オフターゲット効果」、つまり「ターゲット」(結核)を防ぐだけでなく、ほかの呼吸器感染症をも防ぐ効果の恩恵を受けたのではないか、というのが骨子だ。すでに様々なメディアで取り上げられており、専門家の中にも一定のリアリティを感じている人がいるようだ。

 ただ、ここで留意しなければならないのは、こういった発想は、「地域相関研究」というタイプの研究デザインに相当するもので、きちんとしたデータを揃えて分析し、研究として完遂したとしても、因果関係を議論できるものにはならないということだ。因果関係を議論するためには、最低限、症例対照研究、望ましくはランダム化比較試験(RCT)が必要だ。そして、実際にオーストラリアやオーストリアでは医療従事者が被験者となる形でRCTを始めたとの報があった。こういった研究がある程度まとまって結論が出るまでは、BCGの効果についてのエビデンスは十分ではない。それどころか、地域相関研究としてもきちんと論証できていないなら、「思いつきレベル」から抜け出していない。

 日本ワクチン学会も4月3日に「BCGワクチンの効果に関する見解(PDF)」を出し、「現時点では否定も肯定も、もちろん推奨もされない」と注意を呼びかけた。過度な期待は禁物だし、そもそも乳児の定期接種のために準備されているBCGワクチンを別の目的のために流用するのは、安定供給のためにも問題があるという。


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