血色素のヘモグロビンとヘモシアニンについて
現在の地球上の全動物の種類を比べると、昆虫や蜘蛛、エビなどの節足動物は全動物種の85%を占めて第1位、第2位は貝やタコ、イカなどの軟体動物であり約8%を占め、脊椎動物(魚から鳥、ほ乳類まで)は5%以下です(国際自然保護連合レッドリスト2014年3月版)。節足動物のほぼ全てと軟体動物ではHcが使われ、脊椎動物ではHbです。
このように、地球全体で考えると、Hcを利用している生物の種類の方がHbを利用しているものよりもはるかに多いのです。
空気呼吸の陸上動物についてみると、軟体動物ではナメクジとカタツムリくらいしかいませんが、昆虫のような節足動物は種数も個体数も圧倒的に多いのです。これらの節足動物と軟体動物はいずれも小型の動物であり例外なく外温動物(変温動物)で省エネルギー生物です。
一方Hbを利用する脊椎動物は個体数などでは負けますが多くは大型であり、鳥類や哺乳類では内温性(恒温性)を獲得し大量にエネルギーを消費する動物となりました。
水中では、Hc動物の甲殻類(エビ、カニ、フジツボ、ミジンコなど)と軟体動物(イカ、タコ、ウミウシ、貝類など)は大いに繁栄していて、そのサイズも魚類や水生は虫類(ウミガメ、ウミヘビなど)、水生ほ乳類(クジラやイルカなど)と決して負けていません。最大のダイオウイカ(体長18m)とマッコウクジラ(20m)の戦いはHc動物とHb動物が雌雄を決しようとしている数億年にわたる戦いなのでしょうか!
原初の魚類では皮膚呼吸により酸素を吸収し二酸化炭素を放出した血液をまず心臓に送ってから全身へと循環させていました。その後エラ呼吸をはじめてから、エラ単独では全身を巡った後の低酸素、高二酸化炭素の血液が心臓へ循環するようになりましたが、すぐに肺を獲得してその困難を乗り越えました(Farmerの説)。現在の魚類では肺を使っていませんが、両生類から哺乳類への進化では血液が肺を通って酸素と二酸化炭素を整えてから心臓へと流れるようになっています。
このように、脊椎動物は水棲から陸棲への進化を契機に血液が呼吸器から心臓へと流れる循環構造を獲得していますが、これは鞘型類の循環系と機能的に同様のものです。
鞘型類が選択したような、Hcを利用して、エラから酸素の豊富な血リンパを心臓へ循環させる体制というのは、水中生活にとっては、まさに改良の余地のないほど優れていたのかもしれません。その体制があまりに優れていたために、魚類で起きたような空気呼吸動物(は虫類、鳥類、ほ乳類)への進化は起きなかったのだろうか。軟体動物は進化の袋小路に入って次の段階の進化に進むことができなかったのか、あるいはもしかすると大型空気呼吸動物へと進化するには、まだ数千万年から数億年という時間が必要なだけかもしれません。
空気呼吸する軟体動物について
頭足類の祖先にまで進化を遡ると、貝類の中から陸棲で肺呼吸する有肺類(代表はナメクジ、カタツムリなど)がいます。
その中で、海岸の岩礁に生息しているカラマツガイは、外套腔での空気呼吸と鰓呼吸の両方を行っていて、有肺類の原初的動物の可能性があると考えられています。それよりも進化したカタツムリでは外套腔内に鰓がなく、外套腔の壁に血管が密に分布しているので、これが肺の働きをして空気呼吸を行なっています(これは例えば、イカの胴体の内側が肺になったようなもの)。これはカエルなどの両生類の単純な袋状の肺に似ています。しかし現在まで、有肺類が肺を獲得する機構や過程については解明されていません。
****ここからは私の空想です***
そうすると、イカやタコのような頭足類でも、その外套膜の内側にカタツムリの様な単純な肺を作って空気呼吸をする陸上動物となり、それから更に効率的な肺(哺乳類や鳥類のような)を持つ動物へと進化した可能性があるのではないか。
陸上での体型を保持する支持組織には外套膜の本来の役割である貝殻を作る遺伝子が再び働いて、石灰質の骨格を作ることができるかも。
それに、なんといっても頭足類は知的能力がかなり高い(以前のイカとタコの記事参照)ので、陸上での生存競争にも有利ではないか。
水中で生息しているときでさえ哺乳類に匹敵する知的能力を持っているのだから、陸上動物となったときに、脊椎動物・哺乳類が繁栄を謳歌しているこの世界でもその地位に取って代わるかもしれない!
まさに、春の世の夢のごとし。
**********
次回もこのあたりの話になります。
参考文献
・ブリタニカ百科事典「有肺類」より
・国際自然保護連合レッドリスト2014年3月版
・飯島 実 科研報告2008軟体動物有肺類の肺形成に関する研究
・佐々木猛智.貝類学. 1.5 頭足綱の系統と分類 東京大学出版会2010.
(Index page: http://www.um.u-tokyo.ac.jp/hp/sasaki/index.htm)
・ダナ・スターフ著 イカ4億年の生存戦略 エクスナレッジ社 2018
現在の地球上の全動物の種類を比べると、昆虫や蜘蛛、エビなどの節足動物は全動物種の85%を占めて第1位、第2位は貝やタコ、イカなどの軟体動物であり約8%を占め、脊椎動物(魚から鳥、ほ乳類まで)は5%以下です(国際自然保護連合レッドリスト2014年3月版)。節足動物のほぼ全てと軟体動物ではHcが使われ、脊椎動物ではHbです。
このように、地球全体で考えると、Hcを利用している生物の種類の方がHbを利用しているものよりもはるかに多いのです。
空気呼吸の陸上動物についてみると、軟体動物ではナメクジとカタツムリくらいしかいませんが、昆虫のような節足動物は種数も個体数も圧倒的に多いのです。これらの節足動物と軟体動物はいずれも小型の動物であり例外なく外温動物(変温動物)で省エネルギー生物です。
一方Hbを利用する脊椎動物は個体数などでは負けますが多くは大型であり、鳥類や哺乳類では内温性(恒温性)を獲得し大量にエネルギーを消費する動物となりました。
水中では、Hc動物の甲殻類(エビ、カニ、フジツボ、ミジンコなど)と軟体動物(イカ、タコ、ウミウシ、貝類など)は大いに繁栄していて、そのサイズも魚類や水生は虫類(ウミガメ、ウミヘビなど)、水生ほ乳類(クジラやイルカなど)と決して負けていません。最大のダイオウイカ(体長18m)とマッコウクジラ(20m)の戦いはHc動物とHb動物が雌雄を決しようとしている数億年にわたる戦いなのでしょうか!
原初の魚類では皮膚呼吸により酸素を吸収し二酸化炭素を放出した血液をまず心臓に送ってから全身へと循環させていました。その後エラ呼吸をはじめてから、エラ単独では全身を巡った後の低酸素、高二酸化炭素の血液が心臓へ循環するようになりましたが、すぐに肺を獲得してその困難を乗り越えました(Farmerの説)。現在の魚類では肺を使っていませんが、両生類から哺乳類への進化では血液が肺を通って酸素と二酸化炭素を整えてから心臓へと流れるようになっています。
このように、脊椎動物は水棲から陸棲への進化を契機に血液が呼吸器から心臓へと流れる循環構造を獲得していますが、これは鞘型類の循環系と機能的に同様のものです。
鞘型類が選択したような、Hcを利用して、エラから酸素の豊富な血リンパを心臓へ循環させる体制というのは、水中生活にとっては、まさに改良の余地のないほど優れていたのかもしれません。その体制があまりに優れていたために、魚類で起きたような空気呼吸動物(は虫類、鳥類、ほ乳類)への進化は起きなかったのだろうか。軟体動物は進化の袋小路に入って次の段階の進化に進むことができなかったのか、あるいはもしかすると大型空気呼吸動物へと進化するには、まだ数千万年から数億年という時間が必要なだけかもしれません。
空気呼吸する軟体動物について
頭足類の祖先にまで進化を遡ると、貝類の中から陸棲で肺呼吸する有肺類(代表はナメクジ、カタツムリなど)がいます。
その中で、海岸の岩礁に生息しているカラマツガイは、外套腔での空気呼吸と鰓呼吸の両方を行っていて、有肺類の原初的動物の可能性があると考えられています。それよりも進化したカタツムリでは外套腔内に鰓がなく、外套腔の壁に血管が密に分布しているので、これが肺の働きをして空気呼吸を行なっています(これは例えば、イカの胴体の内側が肺になったようなもの)。これはカエルなどの両生類の単純な袋状の肺に似ています。しかし現在まで、有肺類が肺を獲得する機構や過程については解明されていません。
****ここからは私の空想です***
そうすると、イカやタコのような頭足類でも、その外套膜の内側にカタツムリの様な単純な肺を作って空気呼吸をする陸上動物となり、それから更に効率的な肺(哺乳類や鳥類のような)を持つ動物へと進化した可能性があるのではないか。
陸上での体型を保持する支持組織には外套膜の本来の役割である貝殻を作る遺伝子が再び働いて、石灰質の骨格を作ることができるかも。
それに、なんといっても頭足類は知的能力がかなり高い(以前のイカとタコの記事参照)ので、陸上での生存競争にも有利ではないか。
水中で生息しているときでさえ哺乳類に匹敵する知的能力を持っているのだから、陸上動物となったときに、脊椎動物・哺乳類が繁栄を謳歌しているこの世界でもその地位に取って代わるかもしれない!
まさに、春の世の夢のごとし。
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次回もこのあたりの話になります。
参考文献
・ブリタニカ百科事典「有肺類」より
・国際自然保護連合レッドリスト2014年3月版
・飯島 実 科研報告2008軟体動物有肺類の肺形成に関する研究
・佐々木猛智.貝類学. 1.5 頭足綱の系統と分類 東京大学出版会2010.
(Index page: http://www.um.u-tokyo.ac.jp/hp/sasaki/index.htm)
・ダナ・スターフ著 イカ4億年の生存戦略 エクスナレッジ社 2018