
2015年に出版された数々の児童文学の中でも、秀逸な作品の一冊だと思う。
おおぎやなぎちかのデビュー作。
朽木祥のデビューのきっかけとなった、毎年、小樽で選考されるファンタジー大賞というのがある。
めったなことに大賞はなく、佳作が続いている。
この作品もまた、この賞の佳作となった作品である。
岩手県のどこぞか、架空の町が舞台となっており、リアルな世界観とファンタジーな世界観が交錯しつつ進行する、みごとな出来映えの物語だと、私は思った。
四代にわたる縁がおりなすなかで、遠野的な世界それらの事象に伴走する。
面白いと思えるのは作品の重層構造と、対峙し合う関係だ。
陰と陽
ケとハレ
虚と実
不具と具
実は、私たちは、このような世界、つまり日常に生きていることを、あらためて知る。
それらの入れ籠模様は、"しゅるしゅるぱん"という名の少年、いわば遠野に伝わる座敷童のような、桜木の精のような、はたまた森に棲む小天狗のような、あるいは、明治のころ、不具の青年とお百姓の娘の純愛の儚い末路が生んだとも言える幻想かも知れない、そんな存在が、物語を現代までつなぐ。
大作であるが、是非、読んでもらい一冊である。
興味をそそられる記述は読むほどに増えていくが、惹きつけられるのは、庭の桜木をただ眺め続け、物言わぬ老女妙(たえ)である。
老女となった妙の言葉を聞きたくなるのが読者の願望であろう。
しかしそれを承知で、老女妙に一切を語らせぬ作家の心持ちが潔い。
<追記>
この物語に、リレーのバトンを渡すシーンがある。
私は、体育会系ではないので、よく分からないのだが、陸上競技経験者の方々から、このシーンの、バトンの手渡し方が、現実には、あり得ないという意見があることも、記しておく。