鉄鉢かゞやく
鉄鉢、散りくる葉をうけた
鉄鉢へ霰
鉄鉢へ木の葉
すわれば風がある秋の雑草
咳がやまない背中をたたく手がない
その一片はふるさとの土となる秋
空のふかさは落葉しづんでゐる水
空へ若竹のなやみなし
霜しろくころりと死んでゐる(行旅病死者)
生死の中の雪ふりしきる
死ぬるばかりの、花の赤いかな
死をひしと唐辛まつかな(死 線)
しんじつおちつけない草のかれがれ
死んでしまへば雑草雨ふる(病 中)
しみじみ生かされてゐることがほころび縫ふとき
しみじみしづかな机の塵(帰 居)
しみじみ食べる飯ばかりの飯である
閉めて一人の障子を虫が来てたたく
しぐるる土をふみしめてゆく
しぐるるや死なないでゐる
しぐれつつしづかにも六百五十柱(遺骨を迎ふ)
しづけさ、竹の子みんな竹になつた
しとどに濡れてこれは道しるべの石