🍀🍀ものさし🍀🍀
私が若い頃に勤めていた病院でのことです。
古い精神病の病棟に70人の患者さんがいました。
その中に「私は天皇である」と自称していた患者さんが3人いました。
中でも自分のことを「春日天皇」と称する人がとてもおもしろい人でした。
その人は、年末になると職員にボーナスをくれるんです。
ボーナスといっても紙切れに数字を書いて渡すだけなんですが(笑)。
私には「5万円」と書いた紙切れをくれました。
看護師たちももらったらしく、そのボーナスの話で盛り上がりました。
するとある看護師が「私は18万円もらいました」と言うわけです。
私は別の看護師に聞いたら、「私は30万円でした」と言われました。
その彼女は看護学校を出たばかりの准看護師でした。
悔しかったですね。
別に何万であろうと、それで何かが買えるわけではありません。
でも医者である自分が5万円で、あの子は30万と知って、何だか心が落ち着きませんでした。
そこで本人に聞いてみました。
「これはボーナスだそうですけど、
なんで私は5万で、あの子が30万なんですか?」
と。
すると彼は言いました。
「それは私的なボーナスであって、病院で出すボーナスとは違うんです」
と。
「それはわかっています。でも何で私は5万なんですか?」
と聞くと、彼は
「先生は私に何をしてくれましたか?」
と言うんです。
「〇〇さんの治療をしているのは私だし、
私が処方箋を出した薬を飲んでいるじゃないですか。
それは病院で1番大事なことなんですよ」
と私は説明しました。
するとこう言われました。
「そんなことは分かっています。
でもあの薬は要りません。
飲みたくないんです。
そもそもあの薬、効きますか?
もし効くなら、とっくに退院しているはずです」
って。
そう言われ、私は答えようがありませんでした。
その時、はっと思ったんです。
薬は確かに効きます。
しかし、それは病気を治す薬ではない、と。
彼が薬を飲んで、
「自分が春日天皇だというのは妄想だったんだ」
と気づくわけではありません。
薬を飲むとどうなるか。
簡単に言えば、
うるさいこと言わなくなって、おとなしくなります。
暴れなくなり、よく眠るようになるんです。
何の事はない、薬を出すことで管理しやすい患者さんになってもらっていただけだったんです。
患者さんにとっては、それはありがたいことではなかったんですね。
次に私は
「あの看護師さんは〇〇さんに何をしたんですか?」
と聞きました。
そしたらこう言われました。
「あの看護師さんは心が優しくてね、
私が風邪を引いて熱を出した時に
氷枕を作って持ってきてくれたんだよ。
ありがたかった。
そして、おかゆまで作ってきてくれた。
だから、ボーナス30万円をあげたんだよ」
と。
看護師よりも医者のほうにたくさん給料あげるというのは病院側の「ものさし」です。
でも春日天皇は、医者や看護師を評価する「ものさし」を、自分でしっかり持っていたんですね。
私はそのことに全然気づきませんでした。
こんなに大事なことを、春日天皇は紙切れに数字を書くだけで教えてくれたんです。
1つの「ものさし」だけで計って「価値が低い」などと言わないで、
別の「ものさし」でも計ってみてください。
いろんな評価の「ものさし」を見つけてみてください。
(「みやざき中央新聞」H29.4.24 精神科医・作家なだ いなだ さんより)
私が若い頃に勤めていた病院でのことです。
古い精神病の病棟に70人の患者さんがいました。
その中に「私は天皇である」と自称していた患者さんが3人いました。
中でも自分のことを「春日天皇」と称する人がとてもおもしろい人でした。
その人は、年末になると職員にボーナスをくれるんです。
ボーナスといっても紙切れに数字を書いて渡すだけなんですが(笑)。
私には「5万円」と書いた紙切れをくれました。
看護師たちももらったらしく、そのボーナスの話で盛り上がりました。
するとある看護師が「私は18万円もらいました」と言うわけです。
私は別の看護師に聞いたら、「私は30万円でした」と言われました。
その彼女は看護学校を出たばかりの准看護師でした。
悔しかったですね。
別に何万であろうと、それで何かが買えるわけではありません。
でも医者である自分が5万円で、あの子は30万と知って、何だか心が落ち着きませんでした。
そこで本人に聞いてみました。
「これはボーナスだそうですけど、
なんで私は5万で、あの子が30万なんですか?」
と。
すると彼は言いました。
「それは私的なボーナスであって、病院で出すボーナスとは違うんです」
と。
「それはわかっています。でも何で私は5万なんですか?」
と聞くと、彼は
「先生は私に何をしてくれましたか?」
と言うんです。
「〇〇さんの治療をしているのは私だし、
私が処方箋を出した薬を飲んでいるじゃないですか。
それは病院で1番大事なことなんですよ」
と私は説明しました。
するとこう言われました。
「そんなことは分かっています。
でもあの薬は要りません。
飲みたくないんです。
そもそもあの薬、効きますか?
もし効くなら、とっくに退院しているはずです」
って。
そう言われ、私は答えようがありませんでした。
その時、はっと思ったんです。
薬は確かに効きます。
しかし、それは病気を治す薬ではない、と。
彼が薬を飲んで、
「自分が春日天皇だというのは妄想だったんだ」
と気づくわけではありません。
薬を飲むとどうなるか。
簡単に言えば、
うるさいこと言わなくなって、おとなしくなります。
暴れなくなり、よく眠るようになるんです。
何の事はない、薬を出すことで管理しやすい患者さんになってもらっていただけだったんです。
患者さんにとっては、それはありがたいことではなかったんですね。
次に私は
「あの看護師さんは〇〇さんに何をしたんですか?」
と聞きました。
そしたらこう言われました。
「あの看護師さんは心が優しくてね、
私が風邪を引いて熱を出した時に
氷枕を作って持ってきてくれたんだよ。
ありがたかった。
そして、おかゆまで作ってきてくれた。
だから、ボーナス30万円をあげたんだよ」
と。
看護師よりも医者のほうにたくさん給料あげるというのは病院側の「ものさし」です。
でも春日天皇は、医者や看護師を評価する「ものさし」を、自分でしっかり持っていたんですね。
私はそのことに全然気づきませんでした。
こんなに大事なことを、春日天皇は紙切れに数字を書くだけで教えてくれたんです。
1つの「ものさし」だけで計って「価値が低い」などと言わないで、
別の「ものさし」でも計ってみてください。
いろんな評価の「ものさし」を見つけてみてください。
(「みやざき中央新聞」H29.4.24 精神科医・作家なだ いなだ さんより)
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