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思い出の品

2017-03-18 17:01:40 | お話
🍀🌸思い出の品🌸🍀


近ごろ、私の身のまわりでは、欠けたり、はがれたりして、ガタがきている物がポツポツと出てきました。

あるじが、思いもかけず長生きしてしまっているのですから、

すっかり疲れ果ててしまったのでしょうか。

これまで、私は、買うことを目的にして出かけたことは、ほとんどなく、

訪ねた先でたまたま出会い、縁のある物を手に入れてきました。


そうした物は、物が水先人となって、私を、昔懐かしい人、懐かしい時間へと引き戻してくれます。

おそらく誰にも、そんな思い出の1つや2つ、あると思います。


私は、5歳から親しんできた書を、今でもよく書いていますが、

題材にしているのは、自分の好きな古典の歌です。

そして、昔は、国民的な詩人だった三好達治さんの詩が好きでよく書いていました。

有名な詩集『艸千里(くさせんり)』は、丸暗記してしまったほどです。

三好さんの詩は、古典的な調べなので、古今集を書いているようなリズムで、書けたことも一因でした。


三好さんに、初めて会ったのは、

戦後まもなく、

文藝春秋の本社が銀座八丁目にあったときでした。

文藝春秋の地下の文春クラブでお茶をしていたところ、

ちょうど、三好さんもお茶をしていました。

私が三好さんの詩を好きなことを知った編集者は、

すぐその場で引き合わせてくれました。

しばらくお話をしていると、三好さんが、

今日はこれから上野のほうの古道具屋をまわろうと思うから、

一緒にいらっしゃい、

と言って、初めてお会いしたその日に、古道具屋をまわることになりました。

あるお店で、三好さんが、黒漆の筆箱を見つけて、

桃紅さん、これをお買いなさい、

と強い口調で言ったので、

私は言われるがまま買い、

ほかの店では、藍染の文様入りの陶筆を手にして、

これは汗ばまないから、

と言って、プレゼントしてくれました。

三好さんは、古道具屋を巡るのはたいへんに好きだと言い、

ご自分には、好きなお酒を注ぐ伊羅保焼きの徳利などを買い、

私たちは、日本橋で食事をしてから帰りました。


また、これはある晩のことでしたが、

小料理屋で食事をしていると、お店の柱に胡蝶が止まりました。

三好さんは、お店の主人から、品書きを書く経木(きょうぎ)を1枚もらうと、

さっと、俳句を書き付けました。

秋深し 柱にとまる 胡蝶かな


60年ぐらい前のことでしたが、私の手元にある、筆箱、陶筆、俳句が書かれた経木は、

いつでもその日のことを、鮮やかに思い出させてくれます。


(「103歳になってわかったこと」篠田桃紅さんより)

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