芳野星司 はじめはgoo!

童謡・唱歌や文学・歴史等の知られざる物語や逸話を写真付でエッセイ風に表現。

事件の背景

2016年07月29日 | コラム

 相模原の障害者施設を襲った犯人は、おそらく全く悔悟も反省もしていないだろう。実におぞましい事件だ。重複障害者を対象とした確信的なテロである。
 どうしても、ナチスのファシズム独裁政権下で主要思想となった社会ダーウィニズム、優生学とその優生思想や、その下で実施された障害者安楽死政策を想起してしまう。それはさらに際限もない妄想となって、ユダヤ人の虐殺につながっていく。
 考えたくもないが、このおぞましい犯罪に拍手を送っている輩も
多いことだろう。根底にあるのは差別思想である。その差別意識はヘイトスピーチにもつながる。劣等人間、劣等人種は要らぬ、出て行け、死ねとなる。彼らは人間ではない、モノである。人権なんてない、となる。
 考えたくもないが、このおぞましい犯罪に心の中で同調している政治家たちもいるだろう。
 自民党の憲法改正草案の中に見え隠れする「個」の否定、「公」の強調。公のために役に立て、血を流せ。公の役に立たぬものは要らぬ。国民の生活が大事だなんておかしい、大事なのは国だ、国家なのだ。みなさん国家を守りましょう。国の役に立たぬものは要らぬ。国の役に立つ人たちに選挙権を与えましょう。主権在民なんておかしい、本来日本のお国柄として主権は天皇のものである。基本的人権、民主主義、個人主義なんて西洋から入ってきたもの。漢心(からこごろ)を捨て、大和心の復活だ。
 これは悪夢だろう。今回の事件が、現代の日本に起きたことが気持ち悪い。彼は「安倍晋三先生にお伝えください」と手紙を結んだ。

 おそらく彼は最初から障害者差別や排除の考えを持っていたとは思わない。軽薄で無思慮な自己顕示欲と多少の差別主義的性癖は持っていたであろう。
 施設で働くうちに、その労働のしんどさから、対象に対しどんどん軽蔑、侮蔑、嫌悪と憎悪を募らせて、…この人たちは周りを不幸にする、生きる価値もない…やがてヒトラー、ナチスの障害者安楽死処分を知ったのだろう。

「役に立つ、役立たぬ」で判断すること。それは文化の多元化ではなく一元化も招く。「学問も成長戦略に組み込む。研究者も産学共同・軍学共同で金を稼げ。金も稼げぬ、成長戦略にも組み込めぬ文系は不要だ」…「公の役に立て、役立たぬものは不要」「90歳過ぎてまだ生きるつもりか」「重複障害者は人間ではない。あんなモノに多くの役立つ人材と厖大な予算をかけるのはいかがなものか」…事件の背景にはこうした社会・政治風潮や為政者たちが蔓延させる空気があると思えてならない。