ミクロの悲劇はマクロの喜劇。ミクロの喜劇はマクロの悲劇。(加筆・校正2)

2012-06-06 21:13:46 | AROUND THE N818

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 準備運動が準備運動にならず。こうして、こねくり回すより、仕方なく。しかし、その先。

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 地面から生えたような背景が広がっている。色彩とは何なのか分からないけれども、とりあえず自身に染みついている単調さに安堵する。用意された特別な日が、風が吹き抜けるように、今朝、突然、訪れた。私の身は既に横に倒されて、片方の眼で、とりあえず丸い景色をとりあえず丸く見ている。何者か定かでもない私を囲む円周は、埃や煙や程度のいい臭いをする煙などを大量に含んでいる。

 

 大きなインパクトがあって、全ての理(ことわり)がなぎ倒されて、少し経って、ある瞬間から急に静落ち着き、静止した。その辺に見える景色の輪郭は常に前のめりで、危うい。いつまでその状態を保っていられるのか?デコボコとした不快な道路を、大した目的もない人間を乗せて不確かな乗り物が走っている。見知っているカーブのずい分手前を、よく分からないタイミングで曲がった。

 

 

 Joe eavueは暗闇の奥から大きな丸い青い眼をこちらに向けた。目的である足元を潔く引き上げ、こちらを確認した。ゆっくり近づいてきてこう言った。「トーチは無いか?」  僕も、無くて困っていたところだった。ガラガラといちいち鳴る足元が行き先を示してくれているようだったが、それから2時間、勘を頼りに彷徨う羽目になった。宿に戻り、トーチが要らなくなってから気付いたことだけど、二人は見事に手ぶらだった。彼も僕も何の為にそこを歩いていたのだろう。

 

 

 数時間前まで、動いていたのに、それは今は動かないことを元から前提としているような造形になっていた。半分開いた口からは、何も聞こえてこないから、それは洞穴と一緒だ。底が見えないけど、底まで行く気はしない。僕は洞窟マニアではない。口の端にある泡(あぶく)の乾き具合が、醜い。約束されていたように、落ち着いているのはそちらの勝手で、ちょっと攻め過ぎている。ちょっと、今は理解できない。時間が時間なだけに静かだけれども、空気は何かとざわめいていて全く落ち着かない。

 

 

 単色の背景に舞う、同色の土埃。ぐるりと囲んでいる同色の建築物の上に冗談のように取り付けられたドーム。干上がった靴(?)の一つ(二つ?)は、今私の口の上で慎重にバランスをとっている。叫び声を発する気など無いのに。叫び声が意味を成したことなど一度もないのに。取り囲む円周は、そんなことなど知り尽くしているくせに、ホントに全てが!、余計だ。せわしなく形を変え鈍い羽音を発する黒い塊は早くも私に狙いを定めている。

 

 

 前のめりになっていたそれらは、ちょうどいい頃合いに『ガレキ』と名付けられた。無生物には無生物らしい乾いた音が付与され、同時にその先にある宿命も付与された。カタチだったものが、カタチ以下に成り下がった瞬間だった。一瞬にして、存在する意義までもモッテイカレタ。『そこに、在る』ということを否定された。理(ことわり)が失われた瞬間に、カタチはカタチ以下に成り下がるより仕方ない。『小さな永遠』が、その時、ひっそりと、産まれた。

 

 

  Joe eavueは、いつもぼんやりとしていた。いつも唐突に、素朴な疑問を投げかけ、答えを聞く間を持たず寝入っていた。ある朝、彼は僕を叩き起し、バザールから少し離れたある場所へ案内してくれた。土色の背景に映える土が少しだけ焦げたようなロバの(肌の)色。そのちょっとした対比に対し、Joe eavueの眼は大きく見開かれている。よく分からない彼の興奮が僕にも伝わって来る。ロバは、せわしなくそこで群れるより仕方なかった。そこで群れることをのぞんでいないにしろ・・・。つまりは、そこに繋がれていた。嘶(いなな)きは、不連続でうるさく、そこかしこから『本意ではない』ことが発せられていた。

 

 

 直ぐに僕は『大切なものは既に折りたたまれ何処かへ投函されてしまった』ことを理解した。ちょっと触ってみたけれど、悉(ことごと)く予想を裏切る触感と温度と、少しの懐かしさと・・・が、理解を急がせた。認識できたのは『大切なものは既に折りたたまれ何処かへ投函されてしまった』ということ、だけだった。改めて不安定になった足元に注意しつつ、電話へと急いだがその距離は昨日かさっきの、倍は長かった。たどり着き、受話器を取り、知らない人に今の状況を伝え、いくつかの簡単な質問に答えた。

 

 

 見慣れた景色の端に、ここらの色ではない衣服を着ている男が自分を見ている。見事に汚れきっているがここの色ではない。彼の眼は少し先を見ているわけではなさそうだ。その他の大勢は既にこのことの終わりを知っているし、頭の中はその後の饗宴に向かっている、に、決まっている。残念なその男の眼はどうやら私の首筋に近づいている刃物を追っているようだ。これはよくできた刃物だ。それだけで今日の一切を取り仕切ることのできる刃物だ。とりあえずは、私の首の皮膚の下の血管に突き立てるのであろうことは、何度も見ているのでよく知っている。見ていろ。

 

 

 せっせと意味を与え続けてくれた何者かも流された。大きなインパクトは平等に無慈悲に一切を流した。そうして何日か経ち、塩水に干からびて、たいていの物はただのモノになり『ガレキ』と名付けられた。流され、落ち着く所に落ち着き、そこそこバランス良く在るのだろうけど、そこにある意味がない。意味だけが、ない。ただ、在るだけ。存在する**を失った何の役割も持たない膨大なガレキは、兎(と)にも角にも、通行の邪魔になるし、臭いが悪い。

 

 

 Joe eavueはロバ車が好きだった。特に括りつけられた荷車を引くことを拒否したロバが好きなようだった。ことあるごとに立ち止まり僕の肩を叩き小さな喜劇に僕の注意を向けた。ある日はロバの蹄鉄を打つ店に行き、一日中それを見ていた。確かに一日中見ていても飽きなかった。食料以外はほとんど買い物をしないJoe eavueはその日、ロバの蹄鉄を一つ購入した。僕にもしきりに買うことを勧めてきたが、僕は買わなかった。「なぜ買わないのか?」不思議そうに何度も僕に聞いてきた。旅のお守りにしてはちょっと重たい気がする、と、答えた。馬の蹄鉄よりはマシだろうけど。宿に戻り括りつける紐を探し出し嬉しそうにリュックに括りつけていた。

 

 

 それからは全てが滑稽(こっけい)だった。湿ったような重たい空気は、日常と呼べない一日を代表していた。父と子は探り合いながらとりあえずの居場所を決め、煙草を沢山吸った。作業を急に止めたままの姿勢をまあまあ瑞々しく保っていた造形は、プロフェッショナルの力を借り場所を移し仰向けにされて次の作業を待っている。何度か眼を向けてみたけど、それもどれも滑稽なことには変わりがない。全てが滑稽なまま進んでいて、煙草は余計に消費される。失われた、という事実だけは湿っているわけではなく、とりあえずは確実そうだったが、それも宙に浮いていて滑稽な感じだった。動かない造形があっての、動く二人の配置の、とりあえずの、構図が、なにより滑稽だし、酷く間抜けだ。

 

 見慣れた煌(きら)びやかな刃物が首筋に近づいて来る。どうせ直ぐに終わる。何が終わる?何が、終わるのかいな?終わってからどうせ直ぐに始まる。そのことは、血が知っている。私に流れる血がずっと前に教えてくれている。私に既に沁み込んでいる。そして実際、自分は安寧の、ど真ん中にいる。

 

 Joe eavueがはしゃいでいた場面は彼が愛して止まないロバ車の駐車場だった。彼が笑っていたのは「雄のロバがペニスを伸ばしメスのロバに跳びかかろうとしているがそれを妨げる口の下のロープに四苦八苦している場面」だった。僕としてもアクションがある情景としては面白いが、ロバ雄、ロバ雌、それを笑うJoe eavue。それなりに真面目に視界の端で捉えたけど、・・・危ない、景色だ。

 

 よく分からないまま、強いインパクトによって、大事なものが、大事なものだけを解(ほど)かれて、ばら撒かれて、とりあえずここに辿り着いたのだろうことは明白だ。だからこそ、見た目が危うい。眠いならそのまま眠ってしまってもいいと思う、『永遠』を盾に。『小さな』は、こっちに、よこして。

 

 分かり切ったことだったけど、殆(ほとん)どは、既に過ぎ去っていた。どうでもいいことだけが、その辺に溜まって順番待ちをしている。モノトーンの単調なエンドロールぐらい味気ない。白い造形には申し訳ないが、どうやらそういうものらしい。悪いが慌てずに、二人は余計には、動かない。そういうものを排して、起こった、起こってしまったことを、合理的に理解して。実感を排して、思い出も排して、実感や思い出だけをなるべく遠くに放り投げて。半径数メートルに今在ることだけを、ただ、受け入れて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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