ミクロの悲劇はマクロの喜劇 ミクロの喜劇はマクロの悲劇 (改訂版)

2012-06-23 13:56:20 | AROUND THE N818

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 July,July 2012では絵本を作ろうと思っている。文章を書き始めたけれど、長ったらしくて説明過多で絵本というフォーマットに合わない、ということが今日の午前、早起きした結果、判明した。だから、午後、書き直すことにした。

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 ミクロの悲劇はマクロの喜劇 ミクロの喜劇はマクロの悲劇

 

 羊の閑話

 地面から生えたような背景が広がっている。とりあえず自身に染み込んでいる単調さに安堵する。自分は既に乱暴に横に倒されて、片目は土に埋もれている、もう一方の目で、丸い景色をとりあえず丸く見ている。自分を囲む円周は、埃や煙や程度のいい臭いがする煙などを多量に含んでいる。

  単色の背景に舞う、同色の土埃。干上がった靴は、今自分の口の上で細かく重心をとっている。叫び声を発する気など無いのに。叫び声が意味を成したことなど一度もないのに。手足はまったく不自由になってしまっている。

 鈍い羽音を発する黒い塊せわしなく形を変え早くも私に狙いを定めているようだ。

 円周の端に立っている男が自分を見ている。彼の目は少し未来を見ているわけではなさそうだ。その他の大勢は既にこのことの終わりを知っているし、頭の中はその後の饗宴に向かっている。ある男の眼はどうやら私の首筋に近づいている刃物を追っているようだ。これはよくできた刃物だ。それだけで今日の一切を取り仕切ることのできる刃物だ。どうせ直ぐに終わる。何が終わる?何が。直ぐに始まる。そのことは、自分に流れている血液が知っている。流れ出し乾いた地面に沁み込んでいく血液が知っている。見ているだけなら、見ていろ。

 巡って流ていた血液から教わっていた。やがて閉じてゆく世界の中で、力強く流れ出す血液に迷いはない、乾いた大地にただ沁み込んでいくだけだ。そのことに、あの男程度の出来では、遠く及ばないであろうことが、とっても愉快だ。


 小さな永遠の閑話

 知っている景色が知らない景色になっていて、そんな景色の中を間抜けな会話を持て余している一行が進む。それなりに親切だった標識は全然関係のない方向を指している。それらの標識を無視して一行は進む羽目になっている。

 ミキサーにかけられたみたいにバラバラにされた景色は何日か前までそれぞれに名前を持っていた。名前に見合った場所に置かれ、名前に見合った役割が課せられていた。置いてくれ、課してくれた何者かは、遠くの電線に引っ掛かり塩水に干からびてしまった。なにもかもがバラバラにされそれぞれで『小さな永遠』になってしまった。掘り返せば無限にでも出てくるであろう、小さな永遠には今のところそういう勢いがある。

 一行は辛うじて名前だけが機能する建物に到着した。奇跡的に残ったその建物では、奇跡的に名前を失わなかったモノたちが身を寄せ合っていた。課せられた役割が彼らを動かしていたが、目は直ぐにでも小さな永遠にとり込まれそうだ。生きたコトバが泡のように直ぐに弾ける。そこかしこで響く音も全然塩気が抜けていない。

 一行はそこで塩辛くない音を発し、大いに顰蹙(ひんしゅく)をかいながら寄り添い、小さな永遠に抗うように、派手に、無駄な動きを続けるしかなかった。そんなことなど、軽く吹き飛ばすように小さな永遠は増え続けた。完全な永遠になるまで増え続ける、小さな永遠には、そういう勢いがある。

 

 Joe eavue の閑話

 

 暗闇の中から向けられた視線は、ここらのものではなかった。足元で鳴り続ける河原の石。何時間か掛けてその暗闇から脱し分かったのは、Joe eavue も、僕も、その河原では何も見つけることができなかったのだ、ということだけ、だった。

 Joe eavue はロバが好きだ。ロバにまつわるトラブルが好きだ。鞭で打たれても決して動こうとしないロバや、繋がれていることを決して受け入れないで暴れ続けるロバが好きだ。そういうばかばかしい情景を前にして、大きな大きな笑い声をあげていた。Joe eavue は、ただ可笑しくて笑っているわけではなさそうだった。お酒を飲んでいるわけではなかったし、それだけだったとしたら、笑い声がたくさん余ってしまう。

 ある日、Joe eavue は僕を誘って町にでかけた。彼の目的はロバの蹄鉄を打つ鍛冶屋。日が暮れるまでその店の前でロバの蹄鉄を打つ作業を眺めた。帰り際 Joe eavue はロバの蹄鉄を一つ購入した。

 Joe eavue は、ヘルメットを被り直し彼の仕事の現場である剥き出しになったコンクリート製の基礎の上で慎重にバランスをとっていた。図面から離れ、あのとき購入したロバの蹄鉄が今でも玄関に飾られていることを思い、大きく笑った。


 2012年2月6(7)日の閑話

 

 午前3時33分、聞き覚えのある声が僕を夢の中から引き剥がした。その声を辿り慣れた階段を下り、すっかりそのようになってしまった白い彫像のようなカタチの前に立った。何かが欠けたその空間で、何が欠けてしまったのかは明白だった。

 そのものにとって大切なものが、大切なものだけが失われた。既に小さく小さく折り畳まれ何処かへ投函されてしまったのだろう。彫像のような形は、それを受け、ゆっくりと熱を奪われ、ゆっくりと温度を下げている。小刻みに震えながらゆっくり動くこちらの方が、何か間違っているような気もする。

 何もかもが間違っている、落ち着かない、知らない人が出て行っては入って来る、見慣れた部屋はどんどん様子を変えていく、その中を数メートル白い彫像のようなカタチが移動する、何もかもが間違っている、大事なものは既に小さく折り畳まれ何処かへ投函されてしまったのだ、宛先は何処だ?そういうことでもない。 灰皿に溜まっていく吸殻だけが、冷静に時間を前に進める。

 時間があるときにでも、一気に、読もうか、な?と、のんびりと構えていた、大事なこと、が、書き、込まれた、大事な、ものは、知らない、間に小さく、小さく折り畳ま、れ、何処かへ、投函さ、れ、てしまった。しばらく続く、気持ち悪い、何もかもが間違、っている、時間、を何とか、やり過ごし、異常だった煙草の、量がちょうどいいところ、まで減ってそこで落ち着いた、とき、には、夜になっていて、客を見送る、僕の中を、不意に、僕の中を、突然、何かが突然吹き抜け、顔を潰れた紙袋のようにくちゃくちゃにし、それから涙は、流れた。

 

 

 

 

 

 



 

 

 

 

 

 

 

  


 

 

 

 

 

 

 

 


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