ひーこのくつろぎ。

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『残酷な神が支配する』萩尾望都 殺せなければ 愛するしかない

2014-03-18 20:04:04 | 漫画
おまえの痛みに目をつぶらない


母親の再婚相手の男性グレッグによる数々の精神的・肉体的虐待の末に、義父のみならず実の母までも殺すに至ってしまう16歳の少年ジェルミと、事件の真相を追ううちに自分の父親が抱えていた病理・狂気を知り苦悩するイアンの2人を主軸に、愛とは何か、救いとは何かを問う萩尾望都の意欲作。


私が中学生の時、初めて読んだ萩尾望都さんの漫画がこの『残酷な神が支配する』(以下、残神)でした。
しかも1巻ではなく2巻から読み始めて最終巻まで読み、最後に1巻を読むという変わった読み方をした作品でもあります。
何故そのような読み方だったのかというと、家の本棚に置いてあったのがPFコミックス版の2巻だったんですね。
どうやら萩尾さんファンの母が古本屋でこの巻だけ購入していたみたいです。

タイトルに引かれて何となく読んでみたら、内容があまりに衝撃的!!
上記にも書きましたが、主人公のジェルミが義父のグレッグに性的虐待を受け続けます。ジェルミの母サンドラをを盾にされ黙って従うしかなかったジェルミ。一緒に住む家族は誰一人その事実に気づきません。しかし、この関係を偶然目撃してしまったグレッグの元恋人ナターシャが怯えて逃げ出そうとしたところに不敵な笑みを浮かべて現れるグレッグ、というシーンで次巻に続きます。

↓それがコチラ

夢に出てきそうな迫力。

目を覆いたくなるような話なのに、この後ナターシャがどうなるのか、ジェルミとグレックの関係はこのままずっと続いていくのか、と話の続きがとにかく気になって気づけば本屋に走っていました。

ここで残神を読んだ方は「え?」と思われたのではないでしょうか。

これは後になって気づくことなんですが、2巻から読んだというのがポイントで、私はグレッグとサンドラが亡くなるという未来(1巻の冒頭でその描写がありジェルミが殺したというのもわかった上で物語が始まります)を知らずに読み進めたので、この恐怖がいつ終わるのか、どのように終わるのか全くわかりませんでした。

ここが萩尾先生の凄いところ。
①途中から読んでも話に引き込まれる
②1つの物語で違う楽しみ方が出来る
こういった作品があることに私は残神を読むまで気づかなかったです。
と同時に漫画の新たな魅力を見つけて興奮してしまいました。

ドラッグ中毒や未成年売春、DVや近親相姦など、数々の社会的問題を題材にしていることや虐待シーンの濃さ、文庫版で全10巻という長さから読むのを途中でやめてしまう方がいるのも事実なので、「何かオススメの漫画ある?」と聞かれた時は(リアルでもネット上でも)この作品は基本的には挙げませんが、本当は紹介したくて堪らないし、最後まで読んで欲しい漫画なんです。

私もなんだかんだ言って全10巻を読み切った(自分が購入していったのは文庫版です)のは高校生になってからでしたが、この1作だけで満足してしまったというか萩尾さんは殿堂入りしてしまって、他の萩尾作品を読もうって何故か思わなかったんですよね。
そのせいもあり、以前の記事で書いた初期代表作『トーマの心臓』(以下、トーマ)との出会いが遅くなってしまったんですが。

ちなみに生と死、罪と罰、救済と赦しといった、残神のテーマはトーマとも通底し、その二十余年後のアンサーとして、当時では描ききれなかった領域にまで踏み込み昇華させた作品であると残神の紹介文では書かれていました。(「萩尾望都 少女マンガ界の偉大なる母」より)

この2作品に特に心惹かれた私はこのことを知り、自分が好きなテーマや作品に何を求めているのかがはっきりと分かって、今更ながら心を見透かされたような恥ずかしい気分になりました(^_^;)

「グレッグをいざ描き始めたらものすごく面白かった、自分の中で栓をしていた何かがすーっと噴出してきたような快感があった」とインタビューでおっしゃっていた萩尾さん。
これは読んでいる側の私もそういう気持ちになっていた部分があると正直に告白します。
心のどこかにそういった快感があるから辛くても読めてしまうし、悪魔のようなグレッグを嫌いにはなれないんだと思います。
ここまで強烈なキャラクターを生み出せる萩尾さんに脱帽。

前半のグレッグによってバラバラになり、後半のイアンによって少しずつ再生していくジェルミ。
グレッグとサンドラが亡くなってからわかる衝撃の事実に私も大変ショックを受けました。
「もういいんだ」と繰り返し口にするジェルミの台詞には当時泣くしかなかったです。

そんなジェルミを心から愛してくれたイアン。
彼がいなかったらジェルミはどうなっていたか考えるだけで恐ろしいです!
グレッグとジェルミの関係に気づかず、ジェルミの告白も一度否定してしまうけど、ちゃんとジェルミを追いかけて。
一緒に向き合ってくれる人が一人でもいれば人は救われる、と私は信じたい。
「ぼくのとこまで堕ちてこれないだろ」とイアンに言ったシーンと二人で遭難するシーンは大好きでよく見返します。

あと不確かな情報で申し訳ないんですが、残神をイアン視点で描く構想もあったそうです。
イアン視点から物語が進んでいって、読者はジェルミに何が起こっているのか、その真実に気づくことはできるのか、というもの。
「何それ、めっちゃ読みたい!」と思ったのは私だけじゃないはず。

まだまだ理解できていない所が沢山ある残神ですが、それだけに12月になれば私もジェルミやイアンと共にあの断崖へかえっていきたくなります。

ある 悲しみの話を しようと思う

という言葉で始まるこの物語は、胸に刺さる台詞・シーンで溢れていて、ラストまで見届けた時、私は「漫画」の奥深さを知り、もっと好きになっていました。