以前書いたかも知れないが、私が学生のときは、テレビのコメンテーターの話は全然聞いていなかった。テレビのコメンテーターの方々は、一般の人の感情を代弁しているのかも知れないが、実態を全然知らないのだなと思った記憶がある。
後に残った財前は、さっき、鵜飼がその前へ立っていた絵の前へ足を運んだ。パリのノートルダム寺院を描いたもので、やや抽象化され、褐色（かっしょく）の絵具を厚く塗り重ねた絵であった。財前は、しばらくその絵の前に立って、迷うような表情を見せていたが、部屋の隅に立っている店員の方を向き、「君、この絵を欲しいんだが」「へえ、これでございますか」店員は、見慣れぬ客の顔をきょとんと見、「はい、ただいま、主人と代わりますので、少々お待ちくださいまし」事務室の方へ引きこんだかと思うと、小柄な男が顔を出し、揉み手をしながら、財前の前へ寄った。「手前が主（あるじ）でおます、どうもお引き立ていただきまして、へええ、この絵でおますか、さすがお目が高うおます。この絵は、ここに並んでいる作品の中でも、特に傑出したものでおまして」画商らしいもの腰の低さで、応対した。「いくらなんだね」「へええ、染井画伯の絵は号八万というのが通り相場でおますが、そこは、またお話し次第で勉強させていただくと致しまして、まあ、どうぞ、奥へお入りやす」（「白い巨塔」山崎豊子作第１巻,p321）
後に残った財前は、さっき、鵜飼がその前へ立っていた絵の前へ足を運んだ。パリのノートルダム寺院を描いたもので、やや抽象化され、褐色（かっしょく）の絵具を厚く塗り重ねた絵であった。財前は、しばらくその絵の前に立って、迷うような表情を見せていたが、部屋の隅に立っている店員の方を向き、「君、この絵を欲しいんだが」「へえ、これでございますか」店員は、見慣れぬ客の顔をきょとんと見、「はい、ただいま、主人と代わりますので、少々お待ちくださいまし」事務室の方へ引きこんだかと思うと、小柄な男が顔を出し、揉み手をしながら、財前の前へ寄った。「手前が主（あるじ）でおます、どうもお引き立ていただきまして、へええ、この絵でおますか、さすがお目が高うおます。この絵は、ここに並んでいる作品の中でも、特に傑出したものでおまして」画商らしいもの腰の低さで、応対した。「いくらなんだね」「へええ、染井画伯の絵は号八万というのが通り相場でおますが、そこは、またお話し次第で勉強させていただくと致しまして、まあ、どうぞ、奥へお入りやす」（「白い巨塔」山崎豊子作第１巻,p321）
