8時10分出発ー9時20分山葵田林道終点(休憩)-10時ヨケ岩のエキー10時50分尾根ー10時55分寂地山山頂(休憩)-11時半(ボーギのキビレ)-11時40分(昼食)-12時10分出発ー13時30分1056ピークー14時30分尾根(休憩)-15時20分(駐車場)
心臓がドキドキしながら 集合場所に集まられるみなさんを見て ますます鼓動が高鳴る。
「うわあ 私大丈夫かなあ・・・」
こんな プロフエッショナルな方々の中に私のような弱輩者が加わるなんてもっての外なんだけど・・・
「お前 迷うぐらいじゃったら行ったら。」
と 夫の後押しもあり
意を決して お誘いくださったヤブ山さんにお返事をした。
みなさんについて行くのが必死で気持にゆとりなど全くなかったけれど 洗い呼吸の中、時々ふっと見上げた時の
深閑とした深い森や谷は 言葉では言い尽くせないものだった。
「これは、しそ科の植物ですが 霜柱が立っているのですよ」
と ぼっちさん。
「根っこから水分を吸い上げていることによって こうして霜柱がたつのです。しっかりと 根っこは生きているのです。」
「へえ~そうなんですか」
いままでも きっと山では見かけていたのだろうけれど なんか 昆虫の卵の泡くらいにしか思っておらず 見過ごし通り過ぎてしまっている。 知らないって 恥ずかしい。
こうして林道を歩きながらも ぼっちさんは ルリビタキやカッコウの托卵の話など自然観察をされた色々な興味深い話をしてくださる。
ぼっちさんは冒険家とお呼びしてもいいくらい 海底 地底 そして未踏の山々を精力的に単独行をされている。
林道途中
「あ、ここから 寿限無さんと入ったな」
と思い出した。
山葵田のその後を目の当たりにして さあいよいよ突撃開始。
「よ~しっ。」
と 自分の中で気合を入れる。
ところが 入ってしばらく 沢を渡るとき飛び越せないで まごまごしていたら クマ対策部長のiさんが手を差し伸べて下さる。
iさんの腕を思いっきり つかんでピョンと飛び越えた私・・・
「すみません」
しょっぱなから こんな事では これから先どんな ご迷惑をおかけしてしまうことか・・・ああ いけないいけない 頑張らなきゃ!
ルート確認されながら ぼっちさんがどんどん先を登られ その後をヤブ山さん
そして突撃隊隊長さんが 続かれる。
私が 這いずるようにして登っていると
「登るときは つま先を蹴るようにして足場を確保したらいいですよ。」
と 登り方を教えて下さる。
「はい、わかりました。」
「這いつくばって~♪ 這いつくばって~♪」
と時々 歌を口ずさんでくださったり
「ほうほう、出ました。これが○○ですね~」
と ヤブ山さんとのやりとりが 可笑しくって なんだか気持がとっても楽になる。
突撃隊の三人のバランスが良くって 息もピッタリ合っていて ああこうして山に入られるんだなあ・・・と思った。
「休憩しましょう」
ぼっちさんが 声をかけられる。
あと もうひと踏ん張りで尾根に出られそう
昨日の冷え込みで 山は うっすらと雪に覆われている。
この雪が 冬の山の静けさをより一層感じさせてくれる。
それから頑張ってやっとこさの思いで 尾根に出た。
「これで 前半戦終了です。」
とぼっちさん。
「はい、わかりました。」
うわあ 後半戦はどんな苦行が待ち受けているんだろう・・・心の中は不安でいっぱいになった。
休憩ごとに 一服されるぼっちさんやヤブ山さんの煙草の煙を 私もそっと吸い込んでみた。
すると、す~っと疲れまでを吸い取ってくれる気がする。
昼食を終え 広高山へ
途中 ブナの木の上高く クマ棚を発見
「こんな 高いところまでクマさん よく上がるねえ~」
とヤブ山さん。
私は クマ棚を見たのは 初めて。
こんな 高い所で木をへし折って集めて坐る場所を確保し餌を食べるのかあと 感心した。
「ああ、いい森だなあ」
と 途中何度も ヤブ山さんが 足を止められ呟かれる
「この谷はいい。 びっけさん ここは写真ですよ。」
「はい わかりました。」
「ブナ林の中にこうしてアシオ杉が点在する これがこの辺りの山々の特徴です。」
しばらく歩くと笹が消え 間隔を程よくあけ 光の差し込む明るいブナと広葉樹の森に出た。
「もうこれは、極相林と言えるでしょう。」と山口山の会のYさん。
「極相林ってなんですか?」
と 私が尋ねると
「このまま変化をしない 成熟し安定した森です。」
と、ぼっちさんが説明してくださる。
「ああ、そうですかあ。」
私は 改めて森の状態を眺め納得した。
さあ、これから後半戦の開始
「びっけさんは ぼくの後をついてきてください。」
「はい わかりました。」
かなりの 急勾配を降りるのだが 下手くそな私は 枝にステッキが何度もひっかかったり お尻で滑りこんだりで もう大変。
「かなり 早く降りましたねえ~」
と ヤブ山さんが笑われる。
私も 可笑しくって笑ってしまう。
軍手ももうびっしょり お尻は真っ黒 なんかズボンの中まで木の葉や木の枝が入ったみたいでチクチクしている。
最後 今度は谷を登って行く
と 思ったら
「これは ルートが違っていました 引き返しまーす」
とぼっちさん。
「は~い。」
「びっけさん ここは登った印に写真です。」
「はい、わかりました。」
そして また しばらく行った谷を登り始める
「は~は~ あともうちょっと 頑張れ~ は~は~」
と一人言を言いながら 必死になって ヤブ山さんの後をついて行く。
私の鼻息の荒さに ヤブ山さんが 何度も笑われている。
「すみません、うるさいでしょう。」
やっと尾根に出て休憩
それから 谷筋を降りて林道へ
駐車場で登山靴を脱ぎながら 満ち足りた達成感でいっぱいになった。
山のエネルギーを体いっぱいに蓄えて また明日から頑張れそう。
帰りの車中 ヤブ山さんの土地を守り継ぐことの大変さや 兼業農家の話に共感した。
穏やかに語られる中に ヤブ山さんの内に秘められた確かなものを感じた。
帰ってお風呂に入ってみたら 太い足のあちらこちらに 黒あざや傷があった。
枝に突き刺さったり 岩にぶつけたり・・・
お湯に浸かりながら もう一度振り返り なんとも無様だったろう私の山行姿に一人笑った。